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第20話『雨宿りのバス停』
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くちなし町の北側に、小さなバス停がある。
古い木造の屋根とベンチだけの、雨をしのぐ程度の簡素な造り。
周囲は田んぼと低い林しかなく、昼間でも人影はまばらだ。
そこは昔から、“雨の日には近寄るな”と言われていた。
なぜなのか、子供の頃はよくわからなかった。
ただ「雨宿りするなら他を選びなさい」と祖母に強く言われていたのだけは覚えている。
*
高校帰り、夕立に捕まった。
傘を持っていなかった私は、仕方なくそのバス停へ駆け込んだ。
小さな屋根の下は、雨音が響き、湿った木の匂いがした。
座ると、ベンチは思ったより冷たかった。
じっと雨が止むのを待つ。
ふと、目の端で何かが動いた。
ベンチの隣に、いつの間にか誰かが座っていた。
制服姿の女の子。
うつむいていて顔は見えなかったが、長い黒髪が肩を濡らしていた。
「……こんな所で雨宿り?」
思わず声をかけた。
返事はなかった。
次の瞬間、その子の肩が小さく震えた。
笑っているように見えた。
「……ねえ、」
突然その子が顔を上げた。
雨に濡れた髪の隙間からのぞいた顔には――目も鼻も口もなかった。
私は息を呑んだ。
その顔は空っぽで、ただ皮膚だけが覆っている白い球体だった。
次の瞬間、頭の奥で声が響いた。
「――いっしょに まってて」
耳からではなく、直接脳に刺さるような声。
私は慌てて立ち上がり、雨の中へ飛び出した。
*
全身びしょ濡れで家に帰った。
鏡を見ると、首筋に泥のようなものがついていた。
拭いても消えない。
まるで誰かにそこを掴まれた跡のように。
*
次の日、学校で友達にその話をした。
すると友達は青ざめて言った。
「あのバス停、知ってる?
雨の日にあそこに座ってると、いなくなっちゃうって」
「いなくなる?」
「何人か、そうやって帰ってこなかった人がいるんだって」
私は背筋が冷たくなった。
*
それからというもの、雨が降ると窓の外の景色を見ずにはいられなくなった。
夜、眠る前にカーテンを開けると、遠くの道に小さな影が立っている。
こちらに顔を向けているような、白くぼんやりした形。
そして聞こえてくる。
「……まってるよ」
次に雨が降ったとき、私はあのバス停に行くかもしれない。
理由もなく、どうしても――そこへ行かなきゃいけない気がする。
古い木造の屋根とベンチだけの、雨をしのぐ程度の簡素な造り。
周囲は田んぼと低い林しかなく、昼間でも人影はまばらだ。
そこは昔から、“雨の日には近寄るな”と言われていた。
なぜなのか、子供の頃はよくわからなかった。
ただ「雨宿りするなら他を選びなさい」と祖母に強く言われていたのだけは覚えている。
*
高校帰り、夕立に捕まった。
傘を持っていなかった私は、仕方なくそのバス停へ駆け込んだ。
小さな屋根の下は、雨音が響き、湿った木の匂いがした。
座ると、ベンチは思ったより冷たかった。
じっと雨が止むのを待つ。
ふと、目の端で何かが動いた。
ベンチの隣に、いつの間にか誰かが座っていた。
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うつむいていて顔は見えなかったが、長い黒髪が肩を濡らしていた。
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思わず声をかけた。
返事はなかった。
次の瞬間、その子の肩が小さく震えた。
笑っているように見えた。
「……ねえ、」
突然その子が顔を上げた。
雨に濡れた髪の隙間からのぞいた顔には――目も鼻も口もなかった。
私は息を呑んだ。
その顔は空っぽで、ただ皮膚だけが覆っている白い球体だった。
次の瞬間、頭の奥で声が響いた。
「――いっしょに まってて」
耳からではなく、直接脳に刺さるような声。
私は慌てて立ち上がり、雨の中へ飛び出した。
*
全身びしょ濡れで家に帰った。
鏡を見ると、首筋に泥のようなものがついていた。
拭いても消えない。
まるで誰かにそこを掴まれた跡のように。
*
次の日、学校で友達にその話をした。
すると友達は青ざめて言った。
「あのバス停、知ってる?
雨の日にあそこに座ってると、いなくなっちゃうって」
「いなくなる?」
「何人か、そうやって帰ってこなかった人がいるんだって」
私は背筋が冷たくなった。
*
それからというもの、雨が降ると窓の外の景色を見ずにはいられなくなった。
夜、眠る前にカーテンを開けると、遠くの道に小さな影が立っている。
こちらに顔を向けているような、白くぼんやりした形。
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「……まってるよ」
次に雨が降ったとき、私はあのバス停に行くかもしれない。
理由もなく、どうしても――そこへ行かなきゃいけない気がする。
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