くちなし町、夜の記録

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第23話『抜け道の祠』

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くちなし町の住宅地を抜けた先に、車一台やっと通れるほどの狭い抜け道がある。

古い家の間を縫うように走るその道の途中に、小さな石の祠(ほこら)がぽつんと建っている。

高さは膝くらいで、屋根は苔むし、口のところは黒くすすけていた。

昔から町の人たちはそこを通るとき、小さく頭を下げる。
子供の頃はなんとなく真似をしていたが、大人になってからは気にもしなくなった。

あの日までは。



仕事帰り、近道しようと久々にその抜け道を歩いた。

夜の九時を過ぎていて、人通りはなかった。

スマホを見ながら歩き、ふと顔を上げると、祠の前に誰かが立っていた。

小さな子供だった。

ぼろぼろの浴衣のようなものを着ていて、髪は長く顔を覆っていた。

こんな時間にこんな所で何をしているのだろう。
そう思って歩みを止めると、その子がゆっくりと顔を上げた。

髪の間からのぞいた顔には、目も鼻も口もなかった。

のっぺりとした皮膚に、ただ細い切れ込みのような黒い線が走っていた。

そしてその切れ込みが、ぐにゃりと笑った。

心臓が凍る音がした。

私は小さく頭を下げ、足早にそこを通り過ぎた。



家に着いて玄関を閉めたとき、背中が妙に重かった。

熱い息のようなものが首筋にかかる気がした。

慌てて靴を脱ぎ、振り返ったが誰もいなかった。

ただ、玄関の鏡に映った自分の肩の上に、小さな白い手が置かれていた。

私はその場で気を失った。



次の日、熱を出して寝込んだ。

夢の中であの祠の前に立っていた。

暗い抜け道に、ずらりと同じような子供たちが並んでいた。

みんなのっぺりとした顔で、同じように黒い切れ込みの口を開いて笑っていた。

「おじぎ してくれたね」

頭の中に声が響いた。

「つぎは もっと ちゃんと ね」

そこで目が覚めた。

汗で全身が濡れていた。



あれ以来、その抜け道は使わない。

ただ時々、町の違う道を歩いていても、どこからか子供の声が聞こえる。

「おじぎ して」

振り返ると誰もいない。

なのに、頭が自然と下がってしまう。

そうしないと、肩にまたあの小さな手が置かれる気がしてならないのだ。
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