偽りの聖女は婚約破棄から始まる――最強の復讐劇

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第23話『無神の街、記録を燃やす者』

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 アメリアたちが風の神殿《セラエル》を建ててから三週間。
 巡礼者の数は増え、風に託された祈りは広がりつつあった。

 だが、その祈りはすべての地で歓迎されていたわけではない。

 特に、西方に広がる商業都市国家《レアザク》――
 そこでは今、「祈り」を排除する法案が可決されようとしていた。

◆1 焚書令、可決
 「……やはり通ったか」

 神殿の文官であるセフェルが、灰にまみれた書簡を広げる。

 《レアザク市評議会、祈祷行為並びに宗教記録の公共所持を禁ず。違反者は処罰対象とする》

 これはただの禁止令ではない。
 “記録”そのものを処刑する意思をはらんでいた。

 市内で流通する宗教関連書籍の焚書。
 神殿を模した建築物の取り壊し。
 そして、“巡礼”という概念そのものの破棄。

 「理由は単純です。信仰は取引を歪めるから、だと」

 サラが唇を噛みしめた。

◆2 祈りの密輸者
 その夜、神殿の門前に一人の青年が倒れていた。

 背負った袋は破れ、中から数冊の記録帳と小さな祈り札が落ちる。

 「……焚かれる前に、なんとか……持ち出したんだ……」

 青年――ユーリは、かつてレアザクの神殿文士だった者。

 「もう、祈ることさえ罪だ。
 書いただけで火にくべられ、唄えば追放される。
 街には、祈った“記憶”すら残すことができない」

 アメリアは彼の手を取った。

 「記録を託してください。
 あなたの声が消えても、私たちがそれを“痕跡”として残す」

◆3 無神政府の狙い
 一方、レアザク評議会の実質的指導者であるダグレー会長は、
 “祈りを封じる”ことに明確な政治的狙いを持っていた。

 「記録とは、制御不能な火種だ。
 誰かが誰かを信じる限り、“忠誠”は国家に向かない」

 彼らは祈りを“個人の暴走”と見なし、
 記録に宿る感情を“統治を乱す毒”と判断していた。

 そして、風の神殿《セラエル》の存在は――
 そのすべてを否定する“反証の塔”だった。

◆4 燃やされた書の灰に
 アメリアたちは、ユーリの案内で密かにレアザク近郊の村に入る。

 かつて神殿があった丘には、今や“灰の広場”が広がっていた。

 書も碑も灯籠も、祈りの痕跡すべてが焼き払われていた。

 その中に、ぽつんと残るひとつの石。

 “神殿記録庫入口”と掘られた石柱だった。

 地下には、まだ燃やされずに眠る“記憶”があるかもしれない。

 アメリアは言う。

 「今こそ、“燃やされる前に救う”祈りがある」

◆5 記録の回収と、“祈りの再印”
 深夜、アメリアたちは地下記録庫へと侵入する。

 そこにあったのは、ほこりをかぶった無数の祈り帳。
 炎にさらされる寸前で隠された、無名の祈りたちの声。

 ひとつひとつに、震える文字があった。

 「母へ」
 「帰還を願う」
 「愛している」
 「また、あの祭壇で会おう」

 サラは涙を拭いながら、そっとそれを袋に詰めた。

 アメリアは、祈り帳の表紙に新たな印を刻む。

 それは神の名でも宗派の印でもない――

 “風の祈り”を象徴する、光のしるしだった。

◆6 祈りは、焼かれた後にも残る
 記録庫を後にし、朝の丘に立つ。

 レアザクの街はまだ祈りを拒み続けている。
 だが、アメリアは風に書を開き、ゆっくりと朗読する。

 「ここに、誰かの祈りがありました。
 焼かれようと、隠されようと、消えることのなかった祈りです」

 風が吹き抜け、祈り帳の頁が音を立ててめくられる。

 灰の舞う丘に、小さな風の祭壇が新たに生まれた。

 祈りは、燃やされても――
 その記憶は、生き残る。

――――――――――――――――――――

あとがき
第23話では、“信仰を禁止する都市”という新たな対立軸が描かれました。
祈りを「記録として」保存するアメリアと、記録そのものを消す無神政府の対決構図がここで明確になります。

そして、祈りとは“燃えても残る記憶”であることが、本話の核となります。

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