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第37話:夫婦みたい、という囁き
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翌朝。
朝靄がまだ少しだけ町を覆っていて、店の外の石畳がしっとりと淡い色を帯びて見えた。
戸を開けると、澄んだ空気が一気に入り込み、粉や焼き菓子の匂いが混ざってふわりと広がる。
(今日も一日、頑張ろう)
自然とそう思えるのは――やっぱりあの人が、この町にいてくれるから。
開店の準備を進めていると、戸口の鈴が軽やかに鳴った。
「おはようございます、お姉さん!」
元気な声で入ってきたのは、近所の奥さんたち。
続いて子どもたちがにこにこと楽しそうに入ってくる。
「昨日のケーキ、子どもがずっとまた食べたいって言っててねぇ」
「今日はどんなお菓子かしら?」
笑顔でそう尋ねられると、それだけで胸の奥がじんわりと温かくなる。
すると、また店の戸口が小さく鳴いた。
「……おはよう」
低い声。
振り返ると、そこにはやっぱりレオニードが立っていた。
(来てくれた……)
昨日の夜の言葉が胸の奥を小さく跳ねさせる。
「おはようございます、騎士様」
そう言うと、彼は少しだけ目を逸らしながらも、ゆっくりと店の中へ入ってきた。
それを見た奥さんたちが、ふふっと声を潜めて笑う。
「ねえ見てよ、あの二人……」
「本当にもう夫婦みたいねぇ」
「なんだかこっちまで幸せな気持ちになるわ」
その言葉に、思わず頬が熱くなる。
「ちょ、ちょっと皆さん……またからかって……」
慌てて言うけれど、頬の火照りはどうにも誤魔化しきれなかった。
ふとレオニードの方を見ると、彼もまた肩を小さく震わせ、耳まで真っ赤に染めていた。
(もう……可愛いったら)
それを見たらなんだか胸が甘く詰まってしまって、自然と小さな笑みがこぼれた。
「騎士様、お手伝いお願いしていいですか?」
声をかけると、レオニードはこくりと無言で頷き、そのままいつもの席を通り越して店の奥へやってきた。
奥さんたちがそれを見てまたくすくすと笑い合う。
「やっぱりねぇ……もう本当に仲良しさん」
「ふふ、いっそこのまま結婚しちゃえばいいのに」
その言葉に、再び胸がどきんと鳴った。
(け、結婚……)
まだはっきりと考えたことはなかったのに、でも――
そっと視線をやると、レオニードもまた不器用に私を見て、それから照れくさそうに視線を逸らした。
でも次の瞬間、小さく頷いて見せた。
(……え? 今のって……)
胸が一気に熱くなり、息が少し詰まる。
(本当に……もう)
幸せが胸いっぱいに膨らんで、思わずそっと自分の頬を撫でた。
きっと今の私は、町の人にからかわれるよりずっと、幸せそうに見えている。
朝靄がまだ少しだけ町を覆っていて、店の外の石畳がしっとりと淡い色を帯びて見えた。
戸を開けると、澄んだ空気が一気に入り込み、粉や焼き菓子の匂いが混ざってふわりと広がる。
(今日も一日、頑張ろう)
自然とそう思えるのは――やっぱりあの人が、この町にいてくれるから。
開店の準備を進めていると、戸口の鈴が軽やかに鳴った。
「おはようございます、お姉さん!」
元気な声で入ってきたのは、近所の奥さんたち。
続いて子どもたちがにこにこと楽しそうに入ってくる。
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「今日はどんなお菓子かしら?」
笑顔でそう尋ねられると、それだけで胸の奥がじんわりと温かくなる。
すると、また店の戸口が小さく鳴いた。
「……おはよう」
低い声。
振り返ると、そこにはやっぱりレオニードが立っていた。
(来てくれた……)
昨日の夜の言葉が胸の奥を小さく跳ねさせる。
「おはようございます、騎士様」
そう言うと、彼は少しだけ目を逸らしながらも、ゆっくりと店の中へ入ってきた。
それを見た奥さんたちが、ふふっと声を潜めて笑う。
「ねえ見てよ、あの二人……」
「本当にもう夫婦みたいねぇ」
「なんだかこっちまで幸せな気持ちになるわ」
その言葉に、思わず頬が熱くなる。
「ちょ、ちょっと皆さん……またからかって……」
慌てて言うけれど、頬の火照りはどうにも誤魔化しきれなかった。
ふとレオニードの方を見ると、彼もまた肩を小さく震わせ、耳まで真っ赤に染めていた。
(もう……可愛いったら)
それを見たらなんだか胸が甘く詰まってしまって、自然と小さな笑みがこぼれた。
「騎士様、お手伝いお願いしていいですか?」
声をかけると、レオニードはこくりと無言で頷き、そのままいつもの席を通り越して店の奥へやってきた。
奥さんたちがそれを見てまたくすくすと笑い合う。
「やっぱりねぇ……もう本当に仲良しさん」
「ふふ、いっそこのまま結婚しちゃえばいいのに」
その言葉に、再び胸がどきんと鳴った。
(け、結婚……)
まだはっきりと考えたことはなかったのに、でも――
そっと視線をやると、レオニードもまた不器用に私を見て、それから照れくさそうに視線を逸らした。
でも次の瞬間、小さく頷いて見せた。
(……え? 今のって……)
胸が一気に熱くなり、息が少し詰まる。
(本当に……もう)
幸せが胸いっぱいに膨らんで、思わずそっと自分の頬を撫でた。
きっと今の私は、町の人にからかわれるよりずっと、幸せそうに見えている。
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