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第7話 黒曜の離宮と、三つの真実
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王都の北西、深き黒森の奥――
そこにひっそりと建つ“黒曜の離宮”は、かつて王族の離席時に使われた静寂の殿であった。
今では存在すら公にはされず、知る者も限られている。
だがその扉が、今日、再び開かれる。
リーナ・アークレインは、外套のフードを被ったまま、静かに門を潜った。
傍らには、盟友となった王宮侍医・アシュレイ・ハーヴィス。
そして、後方には辺境領主代理・ジーク・レヴァントの身影。
「ここが……王家の影が集う場所なのね」
「かつては、反逆者の“幽閉離宮”と呼ばれていた場所です。
けれど今は、第三王子が“もう一つの王国”の礎にしようとしていると聞きました」
アシュレイの言葉に、ジークが微かに眉を寄せた。
リーナは黙ったまま、石畳を進んだ。
◆ ◆ ◆
離宮の奥、黒曜石の柱が立ち並ぶ広間にて。
彼は待っていた。
アリウス・ルーデン。
王家の第三王子にして、“静謐の皇子”と呼ばれる男。
常に宮廷の表舞台を避け、法典と記録を読み続けてきた影の王族。
だが、その眼差しは濁りなき金。
王の血を宿しながらも、どこか人としての深みを抱いた視線だった。
「……お初にお目にかかります、侯爵令嬢リーナ・アークレイン」
「お招きいただき、光栄です」
形式を踏んだ礼のあと、リーナは率直に口を開いた。
「第三王子殿下は、なぜ私をここに?」
アリウスは一瞬黙したのち、黒曜の椅子に腰を下ろした。
「三つの真実を知りたかったのです。
一つ。貴女が本当に《月陰写本》を継承しているのか。
二つ。その知識を、いかにして“支配”ではなく“救済”に使おうとしているのか。
そして三つ。
王家が今後進むべき道を、“貴女の眼”でどう見ているのか」
静かな言葉だった。だが、その一語一語が鋭く、曖昧さを許さない刃のようでもあった。
リーナは金の瓶を差し出す。
「ならば、“これ”を飲んでください。“誓薬”です」
アリウスの眉がわずかに上がる。
だが彼は、一言も発せずにそれを受け取り、一息に飲み干した。
「どうぞ、お答えください、侯爵令嬢」
リーナはゆっくりと頷き、真っ直ぐ彼の瞳を見た。
「一つ。はい、私は《月陰写本》を所持し、そこから導いた処方を実用化しています。
ただし、それは誰かを支配するためではありません。
むしろ、“支配の鎖”を断ち切るために用いてきました」
アリウスは頷き、手元の文書に目を落とした。
「二つめ。
貴女の“緋香”は、王都で施された精神操作魔法すらも解いたと聞いています。
それが事実ならば……王家の“罪”の証左となります」
「事実です。
私はそれを“証明”するために、王宮兵のひとりに《緋香》を用いました。
彼は、王太子に忠誠を誓うよう“命令魔術”をかけられていたにも関わらず、
服用後に正気を取り戻し、自らの意志で王都を離れました」
重く、沈黙が落ちた。
「……そして、三つ目」
アリウスは静かに問う。
「王家は、どこへ進むべきか」
リーナは小さく息を吸った。
「“立っている場所”を変えることです。
高い玉座にいるからこそ、見えないものがある。
けれど、薬師は違う。
私は“足元”を見てきました。
民の咳、使用人の疲労、兵士の傷――
支配ではなく、理解と対話。
それこそが、貴方が掲げるべき“治癒の王政”ではありませんか?」
その言葉に、アリウスは立ち上がった。
「……リーナ・アークレイン。
貴女を、王家の“暫定薬術顧問”に任命する。
私の元で、“王都の毒”を解毒してほしい」
「お受けしましょう」
二人は互いに、静かに頭を下げ合った。
◆ ◆ ◆
謁見を終えた帰路、馬車の中でジークが問うた。
「リーナ様。本当に……このまま王都へ?」
「ええ。いよいよ“本丸”に入るわ。
けれど、私のざまぁは“破壊”じゃない。
“処方”なの。
彼らがどれだけ毒を抱えていても……私の手で、治してやる」
その瞳には、迷いの色はなかった。
◆ ◆ ◆
そして、翌週。
王宮医務局にて、正式な布告が下された。
《侯爵令嬢リーナ・アークレイン、王家直轄医務顧問に任命》
その報は、王都の貴族社会に衝撃を与え、
あの“ざまぁ舞踏会”の記憶を蘇らせることとなる――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
第7話、お読みいただきありがとうございました。
今回はついに第三王子との謁見、そして“ざまぁのその先”――国を変える一手が動き始めました。
次回からは“王都編”が本格的に始動します。
裏切り、策略、そしてもう一度、真実の対話。
リーナの旅はまだ、ここからが本番です。
応援・フォロー・お気に入り、いつも本当に励みになります!
引き続き、よろしくお願いいたします。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
そこにひっそりと建つ“黒曜の離宮”は、かつて王族の離席時に使われた静寂の殿であった。
今では存在すら公にはされず、知る者も限られている。
だがその扉が、今日、再び開かれる。
リーナ・アークレインは、外套のフードを被ったまま、静かに門を潜った。
傍らには、盟友となった王宮侍医・アシュレイ・ハーヴィス。
そして、後方には辺境領主代理・ジーク・レヴァントの身影。
「ここが……王家の影が集う場所なのね」
「かつては、反逆者の“幽閉離宮”と呼ばれていた場所です。
けれど今は、第三王子が“もう一つの王国”の礎にしようとしていると聞きました」
アシュレイの言葉に、ジークが微かに眉を寄せた。
リーナは黙ったまま、石畳を進んだ。
◆ ◆ ◆
離宮の奥、黒曜石の柱が立ち並ぶ広間にて。
彼は待っていた。
アリウス・ルーデン。
王家の第三王子にして、“静謐の皇子”と呼ばれる男。
常に宮廷の表舞台を避け、法典と記録を読み続けてきた影の王族。
だが、その眼差しは濁りなき金。
王の血を宿しながらも、どこか人としての深みを抱いた視線だった。
「……お初にお目にかかります、侯爵令嬢リーナ・アークレイン」
「お招きいただき、光栄です」
形式を踏んだ礼のあと、リーナは率直に口を開いた。
「第三王子殿下は、なぜ私をここに?」
アリウスは一瞬黙したのち、黒曜の椅子に腰を下ろした。
「三つの真実を知りたかったのです。
一つ。貴女が本当に《月陰写本》を継承しているのか。
二つ。その知識を、いかにして“支配”ではなく“救済”に使おうとしているのか。
そして三つ。
王家が今後進むべき道を、“貴女の眼”でどう見ているのか」
静かな言葉だった。だが、その一語一語が鋭く、曖昧さを許さない刃のようでもあった。
リーナは金の瓶を差し出す。
「ならば、“これ”を飲んでください。“誓薬”です」
アリウスの眉がわずかに上がる。
だが彼は、一言も発せずにそれを受け取り、一息に飲み干した。
「どうぞ、お答えください、侯爵令嬢」
リーナはゆっくりと頷き、真っ直ぐ彼の瞳を見た。
「一つ。はい、私は《月陰写本》を所持し、そこから導いた処方を実用化しています。
ただし、それは誰かを支配するためではありません。
むしろ、“支配の鎖”を断ち切るために用いてきました」
アリウスは頷き、手元の文書に目を落とした。
「二つめ。
貴女の“緋香”は、王都で施された精神操作魔法すらも解いたと聞いています。
それが事実ならば……王家の“罪”の証左となります」
「事実です。
私はそれを“証明”するために、王宮兵のひとりに《緋香》を用いました。
彼は、王太子に忠誠を誓うよう“命令魔術”をかけられていたにも関わらず、
服用後に正気を取り戻し、自らの意志で王都を離れました」
重く、沈黙が落ちた。
「……そして、三つ目」
アリウスは静かに問う。
「王家は、どこへ進むべきか」
リーナは小さく息を吸った。
「“立っている場所”を変えることです。
高い玉座にいるからこそ、見えないものがある。
けれど、薬師は違う。
私は“足元”を見てきました。
民の咳、使用人の疲労、兵士の傷――
支配ではなく、理解と対話。
それこそが、貴方が掲げるべき“治癒の王政”ではありませんか?」
その言葉に、アリウスは立ち上がった。
「……リーナ・アークレイン。
貴女を、王家の“暫定薬術顧問”に任命する。
私の元で、“王都の毒”を解毒してほしい」
「お受けしましょう」
二人は互いに、静かに頭を下げ合った。
◆ ◆ ◆
謁見を終えた帰路、馬車の中でジークが問うた。
「リーナ様。本当に……このまま王都へ?」
「ええ。いよいよ“本丸”に入るわ。
けれど、私のざまぁは“破壊”じゃない。
“処方”なの。
彼らがどれだけ毒を抱えていても……私の手で、治してやる」
その瞳には、迷いの色はなかった。
◆ ◆ ◆
そして、翌週。
王宮医務局にて、正式な布告が下された。
《侯爵令嬢リーナ・アークレイン、王家直轄医務顧問に任命》
その報は、王都の貴族社会に衝撃を与え、
あの“ざまぁ舞踏会”の記憶を蘇らせることとなる――。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
あとがき
第7話、お読みいただきありがとうございました。
今回はついに第三王子との謁見、そして“ざまぁのその先”――国を変える一手が動き始めました。
次回からは“王都編”が本格的に始動します。
裏切り、策略、そしてもう一度、真実の対話。
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