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第3話『王都の黒幕たち、聖女を試す』
しおりを挟む王都フロレンシア。
神の名のもとに建てられたこの都は、美しく、そして醜い。
石畳は白亜に輝き、宮殿は金と宝石で飾られる。
だがその地下では、幾千の思惑と毒が蠢いていた。
そして今日もまた、聖女を囲む“神の使徒たち”が集まっていた。
◆
「エレナ様……どうか、再考を願えませんか」
教皇代理・リゼルドの声は、柔らかく、それでいて押しつけがましい響きだった。
「戦地への同行など、本来ならば聖女のなさることでは――」
その言葉に、私はゆっくりと微笑む。
「神が導くなら、どの地であろうと赴くべきです。
私が“聖女”である以上、民の元へ癒しを届けねばなりませんもの」
あくまで、穏やかに。
丁寧に。
“聖女”の仮面を一層美しく磨きながら。
「ですが――」
リゼルドの背後に控える神官たちもざわつく。
その中には、教会権力の要である「裁定院」のメンバーの顔もあった。
彼らは知っている。
北部戦線には、神の奇跡などでは癒せぬほどの地獄があることを。
それでも私が向かおうとするのは、ただの信仰ではないと、察している者もいるだろう。
(私が動けば、民衆は動く。
教会の信仰基盤は、私の“演技”ひとつで操作できる)
それが、彼らにとっては脅威なのだ。
「リゼルド様」
横から静かに声をかけたのは、神政補佐官のアルマだった。
細身の男で、氷のように冷たい視線を持つ。
「ここで聖女様を止めれば、逆に“信仰に背いた”と民に噂される可能性があります」
「……!」
「この度の遠征、王命でもあります。
教会としても『神の意志による布教』として名分を与える方が得策かと」
リゼルドの顔が引きつった。
だが――反論できない。
彼は、聖女に“民衆”という盾を持たれていることを理解していた。
(簡単ね。どれだけ裏で憎まれていても、私が手を振れば皆がひれ伏す)
それが“聖女”という仮面の力。
私はそれを、最大限に利用する。
「ご理解、感謝いたしますわ」
優雅に微笑み、私は席を立った。
この場の誰ひとりとして、私の内心を見抜けはしない。
……ライオネルを除いては。
◆
その夜。
王宮の塔の最上階。
ここは魔導軍司令に与えられた、特別な執務室。
静まり返った空間に、ライオネルは一人、書簡を燃やしていた。
手にしたのは、教会高官から密かに送られてきた“警告”。
――「聖女を監視せよ。彼女は神に選ばれし者ではない」――
「……だから、惚れたんだよ」
燃え上がる紙片を眺めながら、彼は独りごちる。
「“本物”がいない世界で、偽りを貫き通せる奴だけが強い。
あの女は、神に愛されたんじゃない。
“神を騙し切った”んだよ」
笑みを浮かべ、彼は椅子を立つ。
その背中には、血と煙の匂いが纏わりついていた。
◆
翌朝。
私のもとに、再びセシルが現れた。
その手には、王命により発行された『宗教布教承認証』。
「北部遠征……正式に決定されました」
「ええ」
淡く微笑んで、私は窓を見やる。
そこには王都の景色――私が手に入れたい“玉座の象徴”が広がっていた。
「さあ、始めましょうか」
これはただの布教などではない。
権力争いでもない。
――これは、“聖女”という仮面を纏った私が、
この国そのものを騙しきるための、壮大な舞台。
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