聖女の皮を被った悪女は今日も無罪です

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第3話『王都の黒幕たち、聖女を試す』

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王都フロレンシア。
神の名のもとに建てられたこの都は、美しく、そして醜い。

 

石畳は白亜に輝き、宮殿は金と宝石で飾られる。
だがその地下では、幾千の思惑と毒が蠢いていた。

 

そして今日もまた、聖女を囲む“神の使徒たち”が集まっていた。

 



 

「エレナ様……どうか、再考を願えませんか」
 

教皇代理・リゼルドの声は、柔らかく、それでいて押しつけがましい響きだった。

 

「戦地への同行など、本来ならば聖女のなさることでは――」

 

その言葉に、私はゆっくりと微笑む。

 

「神が導くなら、どの地であろうと赴くべきです。
私が“聖女”である以上、民の元へ癒しを届けねばなりませんもの」

 

あくまで、穏やかに。
丁寧に。
“聖女”の仮面を一層美しく磨きながら。

 

「ですが――」
 

リゼルドの背後に控える神官たちもざわつく。

その中には、教会権力の要である「裁定院」のメンバーの顔もあった。

 

彼らは知っている。
北部戦線には、神の奇跡などでは癒せぬほどの地獄があることを。

それでも私が向かおうとするのは、ただの信仰ではないと、察している者もいるだろう。

 

(私が動けば、民衆は動く。
教会の信仰基盤は、私の“演技”ひとつで操作できる)

 

それが、彼らにとっては脅威なのだ。

 

「リゼルド様」
 

横から静かに声をかけたのは、神政補佐官のアルマだった。
細身の男で、氷のように冷たい視線を持つ。

 

「ここで聖女様を止めれば、逆に“信仰に背いた”と民に噂される可能性があります」

「……!」

「この度の遠征、王命でもあります。
教会としても『神の意志による布教』として名分を与える方が得策かと」

 

リゼルドの顔が引きつった。

だが――反論できない。

彼は、聖女に“民衆”という盾を持たれていることを理解していた。

 

(簡単ね。どれだけ裏で憎まれていても、私が手を振れば皆がひれ伏す)

 

それが“聖女”という仮面の力。

私はそれを、最大限に利用する。

 

「ご理解、感謝いたしますわ」

 

優雅に微笑み、私は席を立った。

この場の誰ひとりとして、私の内心を見抜けはしない。

 

……ライオネルを除いては。

 



 

その夜。

王宮の塔の最上階。
ここは魔導軍司令に与えられた、特別な執務室。

静まり返った空間に、ライオネルは一人、書簡を燃やしていた。

 

手にしたのは、教会高官から密かに送られてきた“警告”。

――「聖女を監視せよ。彼女は神に選ばれし者ではない」――

 

「……だから、惚れたんだよ」

 

燃え上がる紙片を眺めながら、彼は独りごちる。

 

「“本物”がいない世界で、偽りを貫き通せる奴だけが強い。
あの女は、神に愛されたんじゃない。
“神を騙し切った”んだよ」

 

笑みを浮かべ、彼は椅子を立つ。

その背中には、血と煙の匂いが纏わりついていた。

 



 

翌朝。

私のもとに、再びセシルが現れた。
その手には、王命により発行された『宗教布教承認証』。

 

「北部遠征……正式に決定されました」

「ええ」

 

淡く微笑んで、私は窓を見やる。

そこには王都の景色――私が手に入れたい“玉座の象徴”が広がっていた。

 

「さあ、始めましょうか」

 

これはただの布教などではない。
権力争いでもない。

 

――これは、“聖女”という仮面を纏った私が、

この国そのものを騙しきるための、壮大な舞台。

 

 
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