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第4話『仮面と祈りと、血塗れの進軍』
しおりを挟む王都を発って三日目、私は“聖女の隊”と呼ばれる一団を率いて、
北部戦線への進軍を開始した。
その名目は布教と救済。
けれど、実際の任務は別にある。
――王政の影響を強化するため、戦後の宗教支配を確立する。
――その過程で、教会の“異端分子”を炙り出す。
そのすべてを可能にするのは、“聖女”という立場だけだった。
◆
私たちの進軍に随行する魔導軍の部隊は、ライオネル直属の精鋭だった。
彼は前衛を任せるだけで、こちらの隊列には決して近づかない。
だが、その圧力と存在感は、常に背後に漂っていた。
戦地に向かう道中、私はわざと、村々に立ち寄った。
荒廃した土地。
焦げた礼拝堂。
病に倒れた子どもたち。
それらの前で私は、何度も“祈り”を捧げた。
もちろん、奇跡など起きはしない。
けれど人々は、私が膝をついて目を閉じるだけで泣き、信じ、縋った。
(愚かだと思う。
でも同時に、使えると思う)
私はそうして“信仰”をばらまきながら、教会の旧派と繋がる村を一つずつ精査していった。
表向きは布教。
裏では“忠誠度”の確認と記録。
そして三つ目の村で、私はついに“異端”の痕跡を見つける。
◆
「――これを、ご覧ください」
セシルが静かに差し出したのは、村の教会地下で見つけたという祭具。
表には“正規の神印”が刻まれていたが、裏には異教の紋章が彫られていた。
「この村の神官は、姿を消しており……民も、あまり話しません」
「……そう」
私は立ち上がり、汚れた祭壇を見下ろす。
(この村、教会の裏組織に繋がっている)
このような場所を潰すことが、今回の“真の任務”だった。
それは教皇庁にとっても、ライオネルにとっても利益となる。
――だが。
私は、それだけでは満足しない。
「セシル。村人を集めなさい。
夜に“祈りの集会”を開くと伝えて」
「……はい」
セシルの声に、微かな躊躇が滲む。
だが、彼女は従順に頭を下げて去っていった。
(この子の揺らぎも、使えるわね)
すべてを“装飾”に変えていく。
たとえそれが人間であっても。
◆
夜、焚き火の炎が揺れる中。
村の広場に集まった民衆の前で、私は白衣をまとい、静かに語りかけた。
「皆さん。
私たちは神の名のもとに、手を取り合うべきなのです」
その声は優しく、温かく――だが、内容は冷酷だった。
「この村に巣食う“闇”を祓わねば、いずれ皆さんが苦しむことになる」
怯える民、視線を交わす者、泣き出す子ども。
私はそのすべてを、慈悲の笑みで見つめた。
「ですから、教えてください。
ここに“偽りの神”を祀った者がいるなら、どうか……」
そのとき。
「待て」
鋭い声が背後から飛んだ。
振り返ると、赤い外套が夜風に舞っていた。
ライオネルだった。
「これが、お前の“祈り”か?」
彼は私の横に歩み寄り、低く囁く。
「公開処刑まがいの審問。
民衆を使った集団圧力。
……見事な毒だな」
私は笑った。
「貴方が許すのなら、もう少し濃い毒も用意できますわ」
「ふん……楽しみだ」
彼はそれだけ言って去っていった。
その背には誰にも見えない“興奮”の気配が漂っていた。
(この男は……本当に、何が“愉しい”のか理解不能だわ)
だが、嫌いではない。
◆
その夜、私は村の裏手で一人の神官を捕らえた。
彼の口から得た情報は、予想以上だった。
「北部の“黒の神殿”が……再建されている……」
それは、教会が100年前に禁じた“禁忌の儀式”の場。
そこには、王家さえ触れぬ古の“異端の記録”が眠っているとされていた。
(そこにあるのね。
私の知らない“真実”が)
私は静かに、男の口元に祈りを捧げるふりをして――
その心臓に、短剣を突き立てた。
「神は許してくれるわ」
私の演技を、誰も疑わない。
だって私は――“聖女”なのだから。
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