聖女の皮を被った悪女は今日も無罪です

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第4話『仮面と祈りと、血塗れの進軍』

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王都を発って三日目、私は“聖女の隊”と呼ばれる一団を率いて、
北部戦線への進軍を開始した。

その名目は布教と救済。
けれど、実際の任務は別にある。

 

――王政の影響を強化するため、戦後の宗教支配を確立する。
――その過程で、教会の“異端分子”を炙り出す。

 

そのすべてを可能にするのは、“聖女”という立場だけだった。

 



 

私たちの進軍に随行する魔導軍の部隊は、ライオネル直属の精鋭だった。

彼は前衛を任せるだけで、こちらの隊列には決して近づかない。
だが、その圧力と存在感は、常に背後に漂っていた。

 

戦地に向かう道中、私はわざと、村々に立ち寄った。

 

荒廃した土地。
焦げた礼拝堂。
病に倒れた子どもたち。

 

それらの前で私は、何度も“祈り”を捧げた。

もちろん、奇跡など起きはしない。

けれど人々は、私が膝をついて目を閉じるだけで泣き、信じ、縋った。

 

(愚かだと思う。
でも同時に、使えると思う)

 

私はそうして“信仰”をばらまきながら、教会の旧派と繋がる村を一つずつ精査していった。

表向きは布教。
裏では“忠誠度”の確認と記録。

 

そして三つ目の村で、私はついに“異端”の痕跡を見つける。

 



 

「――これを、ご覧ください」

 

セシルが静かに差し出したのは、村の教会地下で見つけたという祭具。

表には“正規の神印”が刻まれていたが、裏には異教の紋章が彫られていた。

 

「この村の神官は、姿を消しており……民も、あまり話しません」

 

「……そう」

 

私は立ち上がり、汚れた祭壇を見下ろす。

 

(この村、教会の裏組織に繋がっている)

 

このような場所を潰すことが、今回の“真の任務”だった。

それは教皇庁にとっても、ライオネルにとっても利益となる。

 

――だが。

私は、それだけでは満足しない。

 

「セシル。村人を集めなさい。
夜に“祈りの集会”を開くと伝えて」

 

「……はい」

 

セシルの声に、微かな躊躇が滲む。
だが、彼女は従順に頭を下げて去っていった。

 

(この子の揺らぎも、使えるわね)

 

すべてを“装飾”に変えていく。
たとえそれが人間であっても。

 



 

夜、焚き火の炎が揺れる中。

村の広場に集まった民衆の前で、私は白衣をまとい、静かに語りかけた。

 

「皆さん。
私たちは神の名のもとに、手を取り合うべきなのです」

 

その声は優しく、温かく――だが、内容は冷酷だった。

 

「この村に巣食う“闇”を祓わねば、いずれ皆さんが苦しむことになる」

 

怯える民、視線を交わす者、泣き出す子ども。

私はそのすべてを、慈悲の笑みで見つめた。

 

「ですから、教えてください。
ここに“偽りの神”を祀った者がいるなら、どうか……」

 

そのとき。

 

「待て」

 

鋭い声が背後から飛んだ。

振り返ると、赤い外套が夜風に舞っていた。

ライオネルだった。

 

「これが、お前の“祈り”か?」

 

彼は私の横に歩み寄り、低く囁く。

 

「公開処刑まがいの審問。
民衆を使った集団圧力。
……見事な毒だな」

 

私は笑った。

 

「貴方が許すのなら、もう少し濃い毒も用意できますわ」

 

「ふん……楽しみだ」

 

彼はそれだけ言って去っていった。
その背には誰にも見えない“興奮”の気配が漂っていた。

 

(この男は……本当に、何が“愉しい”のか理解不能だわ)

 

だが、嫌いではない。

 



 

その夜、私は村の裏手で一人の神官を捕らえた。

彼の口から得た情報は、予想以上だった。

 

「北部の“黒の神殿”が……再建されている……」

 

それは、教会が100年前に禁じた“禁忌の儀式”の場。
そこには、王家さえ触れぬ古の“異端の記録”が眠っているとされていた。

 

(そこにあるのね。
私の知らない“真実”が)

 

私は静かに、男の口元に祈りを捧げるふりをして――
その心臓に、短剣を突き立てた。

 

「神は許してくれるわ」

 

私の演技を、誰も疑わない。
だって私は――“聖女”なのだから。

 

 
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