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その人は、祈るふりをして殺すひと
しおりを挟むエレナ様は美しい。
それは見たままの話ではなく、もっと本質的な意味で。
誰かに優しく微笑むとき、
傷ついた兵に膝をつくとき、
あるいは、処刑前の異端者にそっと祈るとき。
まるで本当に「聖女」のようだった。
でも、私は知っている。
あの人の目は、祈るときに一瞬だけ冷たくなる。
まるで――計算しているかのように。
それに気づいたのは、王都に仕えて三ヶ月ほど経った頃。
一度だけ、夜中に書庫でエレナ様とすれ違った。
そのとき、彼女は血のついた手袋を外しながら、
何食わぬ顔で私に微笑んだ。
「少し手が滑ってしまって。……秘密にしてね」
その笑顔を、私は忘れられない。
恐ろしいと思った。
けれど、それ以上に――美しいと、思ってしまった。
私はエレナ様に憧れているのだろうか。
それとも、心のどこかで彼女のようになりたいと願っているのだろうか。
誰かを救いながら、同時に誰かを切り捨てる。
それを当然のようにやってのける人間に。
たぶん、私はすでに汚れている。
けれど、それでも。
「私、貴女の傍にいたいんです」
それが忠誠か、それとも共犯かは、もう分からない。
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