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第12話『悪女の祝宴と眠れぬ罪人たち』
しおりを挟む祝宴の日、王都は絢爛に彩られた。
広場には絹の旗が翻り、城門には百輪の花輪が飾られ、街路には仮面をつけた道化たちが踊る。
理由は簡単。“戴冠一周年”――カシウス王の名目上の治世一周年を祝う、国家主導の大祭典だ。
だが、王が祭られる日であればあるほど――“裏”で誰が笑っているかは、言うまでもない。
私だ。
この祭典も、式次第も、軍警備も、配膳の食材すら――全て私が統括している。
「さあ、仮面をかけて踊りましょう。嘘こそが、宴の真実」
◆
王城の舞踏会場。
巨大なシャンデリアの下、百を超える貴族たちが贅を尽くした装いで集っていた。
私は純白のドレスに金糸を縫い合わせ、聖女の象徴たる光の冠を戴いていた。
その姿は、誰が見ても“祝福の象徴”だった。
けれど本当は、私は“最も毒に満ちた存在”だ。
乾杯のワイン。
供された焼き菓子。
ピアノの楽譜。
室内の香まで――
どれも、私が自ら“演出”した。
その理由はひとつ。
“裏切り者”を見つけ出し、始末するため。
「――セシル侯爵が、暗躍していると?」
ライオネルの問いに、私は笑みを浮かべたまま頷く。
「彼は今、旧貴族派の残党を抱え込みながら、教会上層部とも接触を図っているわ」
「なら、殺せば?」
「駄目よ。“祝宴の夜”に、“偶然毒に当たって倒れる”――それがいい」
「……偶然?」
「演出よ。すべては物語。
私の無罪を証明する最高の舞台。それが今夜」
ライオネルは息を吐いた。
「悪女にも程があるな、お前」
「誉め言葉として受け取るわ」
◆
舞踏会の真ん中、私はセシル侯爵とグラスを交わす。
彼は一見して誠実な老貴族に見えるが、その裏には幾人もの“亡霊”がいる。
「エレナ殿下は、相変わらずお美しい。
王も、貴女を頼りにしておられるようで」
「光栄ですわ、セシル侯。……けれど、私一人では王を支えきれません」
「では、我ら旧家が――お支えしても?」
その言葉の裏には、明確な意図があった。
(権力を、分け合おう。そういうことね)
私は笑顔のまま首をかしげた。
「もちろん。“清廉な忠臣”ならば、いつでも歓迎です」
グラスが触れ合い、甘い響きを立てた。
セシルは一口、ワインを啜った。
それは毒など仕込まれていない――が。
隣にいた貴族夫人が、突然倒れた。
次に、青年伯爵。
そのまた隣にいた料理長も。
「……! なにが起きた!?」
ざわつく会場。
だが毒は、どこにもない。
原因不明の“錯乱”が連鎖的に広がる。
唯一の共通点は――全員、セシルと繋がりがあったということ。
そう、“彼の周囲に毒がある”と周囲に思わせるための演出。
実際には、極微量の“魔導誘発素”を衣服に紛れ込ませ、心拍を乱す仕掛けを施しておいたのだ。
「これは……セシル侯!?」
「違う! 私ではない、断じて私では――」
セシルの叫びは虚しく、周囲の目は冷えていた。
軍が動き、神官が近づく。
その間、私はひとり、聖女の笑顔で彼にささやいた。
「信仰のもとでは、偶然こそが“神の裁き”とされますの」
セシルは凍りついたまま、引き立てられていった。
◆
夜宴の終わり、私はテラスで夜風を受けていた。
ライオネルが無言で隣に立つ。
彼の手には、舞踏会で使われた“仕込み楽譜”があった。
「……音で心拍を制御する魔導式。
まさか、音楽隊にまで細工してるとはな」
「聖女ですもの。音に祈りを込めるのは当然でしょ?」
「本当にお前は、“毒を盛る天使”だな」
私はグラスを傾けた。
その液体には何の毒も入っていない。
だがこの夜の“毒”は、私という存在そのものだった。
「セシル侯は、もう表舞台には戻れない。
これで旧貴族派は、完全に骨抜き。
教会も、王も、そして……軍も。すべて“私の掌の上”」
「……お前、どこまで堕ちる気だ?」
「堕ちてなんかいないわ。私は、昇っているのよ。
この国の誰よりも、高く。罪と嘘を足場にね」
夜空に花火が打ち上がった。
祝宴の終わり。
だが私の“宴”は、まだ始まったばかりだ。
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