聖女の皮を被った悪女は今日も無罪です

コテット

文字の大きさ
13 / 20

第12話『悪女の祝宴と眠れぬ罪人たち』

しおりを挟む
 

祝宴の日、王都は絢爛に彩られた。

広場には絹の旗が翻り、城門には百輪の花輪が飾られ、街路には仮面をつけた道化たちが踊る。
理由は簡単。“戴冠一周年”――カシウス王の名目上の治世一周年を祝う、国家主導の大祭典だ。

だが、王が祭られる日であればあるほど――“裏”で誰が笑っているかは、言うまでもない。

私だ。

この祭典も、式次第も、軍警備も、配膳の食材すら――全て私が統括している。

「さあ、仮面をかけて踊りましょう。嘘こそが、宴の真実」

 



 

王城の舞踏会場。
巨大なシャンデリアの下、百を超える貴族たちが贅を尽くした装いで集っていた。

私は純白のドレスに金糸を縫い合わせ、聖女の象徴たる光の冠を戴いていた。
その姿は、誰が見ても“祝福の象徴”だった。

けれど本当は、私は“最も毒に満ちた存在”だ。

乾杯のワイン。
供された焼き菓子。
ピアノの楽譜。
室内の香まで――

どれも、私が自ら“演出”した。

その理由はひとつ。

“裏切り者”を見つけ出し、始末するため。

 

「――セシル侯爵が、暗躍していると?」

ライオネルの問いに、私は笑みを浮かべたまま頷く。

「彼は今、旧貴族派の残党を抱え込みながら、教会上層部とも接触を図っているわ」

「なら、殺せば?」

「駄目よ。“祝宴の夜”に、“偶然毒に当たって倒れる”――それがいい」

「……偶然?」

「演出よ。すべては物語。
私の無罪を証明する最高の舞台。それが今夜」

ライオネルは息を吐いた。

「悪女にも程があるな、お前」

「誉め言葉として受け取るわ」

 



 

舞踏会の真ん中、私はセシル侯爵とグラスを交わす。

彼は一見して誠実な老貴族に見えるが、その裏には幾人もの“亡霊”がいる。

「エレナ殿下は、相変わらずお美しい。
王も、貴女を頼りにしておられるようで」

「光栄ですわ、セシル侯。……けれど、私一人では王を支えきれません」

「では、我ら旧家が――お支えしても?」

その言葉の裏には、明確な意図があった。

(権力を、分け合おう。そういうことね)

私は笑顔のまま首をかしげた。

「もちろん。“清廉な忠臣”ならば、いつでも歓迎です」

 

グラスが触れ合い、甘い響きを立てた。

セシルは一口、ワインを啜った。

それは毒など仕込まれていない――が。

隣にいた貴族夫人が、突然倒れた。

次に、青年伯爵。

そのまた隣にいた料理長も。

「……! なにが起きた!?」

ざわつく会場。

だが毒は、どこにもない。

原因不明の“錯乱”が連鎖的に広がる。

唯一の共通点は――全員、セシルと繋がりがあったということ。

そう、“彼の周囲に毒がある”と周囲に思わせるための演出。

実際には、極微量の“魔導誘発素”を衣服に紛れ込ませ、心拍を乱す仕掛けを施しておいたのだ。

「これは……セシル侯!?」

「違う! 私ではない、断じて私では――」

セシルの叫びは虚しく、周囲の目は冷えていた。

軍が動き、神官が近づく。

 

その間、私はひとり、聖女の笑顔で彼にささやいた。

「信仰のもとでは、偶然こそが“神の裁き”とされますの」

 

セシルは凍りついたまま、引き立てられていった。

 



 

夜宴の終わり、私はテラスで夜風を受けていた。

ライオネルが無言で隣に立つ。

彼の手には、舞踏会で使われた“仕込み楽譜”があった。

「……音で心拍を制御する魔導式。
まさか、音楽隊にまで細工してるとはな」

「聖女ですもの。音に祈りを込めるのは当然でしょ?」

「本当にお前は、“毒を盛る天使”だな」

私はグラスを傾けた。

その液体には何の毒も入っていない。
だがこの夜の“毒”は、私という存在そのものだった。

 

「セシル侯は、もう表舞台には戻れない。
これで旧貴族派は、完全に骨抜き。
教会も、王も、そして……軍も。すべて“私の掌の上”」

「……お前、どこまで堕ちる気だ?」

「堕ちてなんかいないわ。私は、昇っているのよ。
この国の誰よりも、高く。罪と嘘を足場にね」

 

夜空に花火が打ち上がった。

祝宴の終わり。

だが私の“宴”は、まだ始まったばかりだ。

 

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

辺境に追放されたガリガリ令嬢ですが、助けた男が第三王子だったので人生逆転しました。~実家は危機ですが、助ける義理もありません~

香木陽灯
恋愛
 「そんなに気に食わないなら、お前がこの家を出ていけ!」  実の父と義妹に虐げられ、着の身着のままで辺境のボロ家に追放された伯爵令嬢カタリーナ。食べるものもなく、泥水のようなスープですすり、ガリガリに痩せ細った彼女が庭で拾ったのは、金色の瞳を持つ美しい男・ギルだった。  「……見知らぬ人間を招き入れるなんて、馬鹿なのか?」  「一人で食べるのは味気ないわ。手当てのお礼に一緒に食べてくれると嬉しいんだけど」  二人の奇妙な共同生活が始まる。ギルが獲ってくる肉を食べ、共に笑い、カタリーナは本来の瑞々しい美しさを取り戻していく。しかしカタリーナは知らなかった。彼が王位継承争いから身を隠していた最強の第三王子であることを――。 ※ふんわり設定です。 ※他サイトにも掲載中です。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

聖女じゃなかったので、カフェで働きます

風音悠鈴
恋愛
光魔法が使えず「聖女失格」と追放された大学生・藍里。 聖女じゃないと城を追い出されたけど、実は闇属性+女神の加護持ちのチートだった⁉︎ 望みはカフェでのスローライフだけ。 乙女ゲーム世界の歪みから大切な日常を守ります! 全30話予定

【本編完結】厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。 【追記】本編完結しました

お久しぶりです旦那様。そろそろ離婚ですか?

奏千歌
恋愛
[イヌネコ] 「奥様、旦那様がお見えです」 「はい?」 ベッドの上でゴロゴロしながら猫と戯れていると、侍女が部屋を訪れて告げたことだった。

【完結】仕事のための結婚だと聞きましたが?~貧乏令嬢は次期宰相候補に求められる

仙冬可律
恋愛
「もったいないわね……」それがフローラ・ホトレイク伯爵令嬢の口癖だった。社交界では皆が華やかさを競うなかで、彼女の考え方は異端だった。嘲笑されることも多い。 清貧、質素、堅実なんていうのはまだ良いほうで、陰では貧乏くさい、地味だと言われていることもある。 でも、違う見方をすれば合理的で革新的。 彼女の経済観念に興味を示したのは次期宰相候補として名高いラルフ・バリーヤ侯爵令息。王太子の側近でもある。 「まるで雷に打たれたような」と彼は後に語る。 「フローラ嬢と話すとグラッ(価値観)ときてビーン!ときて(閃き)ゾクゾク湧くんです(政策が)」 「当代随一の頭脳を誇るラルフ様、どうなさったのですか(語彙力どうされたのかしら)もったいない……」 仕事のことしか頭にない冷徹眼鏡と無駄使いをすると体調が悪くなる病気(メイド談)にかかった令嬢の話。

処理中です...