僕の宝具が『眼鏡』だったせいで魔界に棄てられました ~地上に戻って大人しく暮らしているつもりなのに、何故か頼られて困ります~

織侍紗(@'ω'@)ん?

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五話 ゲイルとミュー

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「ゲイルじゃない? 今日は狩り?」

 小高い丘ような場所のてっぺんに座り、休んでいるゲイルにそう声がかけられた。ゲイルは眼鏡をクイッと上げてながら頭上を見上げると小さな龍が浮かびながらこちらを眺めていた。

「うん! ミュー! 今日は僕の十歳の誕生日だからお祝いなんだって! まぁ、ホントの誕生日は分かんないから、二人に拾われた日が誕生日ってことになってるんだけどね」

 ゲイルは同意を示すと、ミューは舞い降りてゲイルの眼前に漂う。並ぶとミューとゲイルが同じくらいの大きさだと言うのがわかる。どうやらこの日はゲイルが魔界に来てちょうど七年、ということだった。

「そっか。あの日から七年か。魔界滅亡の危機が訪れた日から七年しか経ってないのね」

「龍族のミューからしたらあっという間なんだろうけど、僕は人間だからね。もう七年かー、って感じだよ」

「って言っても俺だってまだ産まれて十五年ってとこだからね。あの日の事だって噂でしか聞いてないよ。復活したばかりのグランドラグーン様が滅亡の危機から魔界を救った、としかね」

 グランドラグーンが止めたのこと自体は間違いないが、魔界の危機を救ったか、かと言われると甚だ疑問である。が、ミューはそんなことを知る由もない。

「んー。でも、クロウリーもフェイレイも何も知らないって言うんだけどね」

 魔界を滅亡させる要因になった二人である。しかも、ゲイルを取り合っての喧嘩だったなんて本人に恥ずかしくて話せるはずもない。第一、当事者の二人はただお互いが喧嘩を始めようとしてただけで、魔界を滅亡させる気なんて、これっぽっちも無かった無自覚者なので魔界滅亡の危機があっただなんて、思ってもないのだが……

「しかし、デスバッファローか。人間なのに、こいつを倒すんだから流石だな。俺でもまだコイツには勝てないよ」

 と言いながらミューはゲイルが座っている丘を眺める。どうやらゲイルが座っていたのは丘ではなく、デスバッファローと呼ばれる魔物の背中だったようだ。ゲイルやミューの数十倍どころか百倍以上はあるだろう。

「でも、フェイレイにはまだまだだって言われるよ? コイツを仕留めるのに僕は十秒もかかっちゃった。フェイレイは三百年くらい前でも一秒もかからなかったって」

「えー! フェイレイってドワーフだよな? 確かドワーフって三百年くらいしか寿命がないはず。ってことはまだ子どもの時じゃないか? それこそゲイルよりちっちゃかったのかも……」

 フェイレイは正真正銘ドワーフである。ドワーフの寿命は人より長く、三百年くらいだと言われている。が、フェイレイは武術の達人。普通のドワーフ・・・・・・・と比べてはいけない。寿命を伸ばすことくらいは訳無く出来る。実際、三百年以上前に魔界に来た時で既に老婆だったが、そんなことを想像できなかった二人は、盛大な勘違いをしてしまったのは仕方がない事だったのかもしれない。

「でしょ? だから僕もフェイレイに怒られるのも無理はないかなって……」

 肩を落として少し落ち込んでいる様子を見せながらゲイルはこう続けた。

「それにデスバッファローは魔界の門を潜れる。そんな弱い魔物を相手に簡単に仕留められないようじゃ、フェイレイにもクロウリーにもダメだ! って言われるのも当然だよ。フェイレイがちっちゃい時に簡単に仕留めてた魔物なんだし……」

「でも、ちょっと待って。俺が前に地上に出た時に、デスバッファローより弱いブラストボアが出たぞーって、パニクってる国があったような……」

 一定以上の強さを持ったモノは魔界の門を通って地上に出ることは出来ない。魔界の門を通れるかどうか、というのは魔界での強さの基準となっている。いや、魔界の住人の中でもかなり弱いカテゴリに属するモノしか通れないので、弱さ、と言うべきだろうか。
 また、ブラストボアも魔界の魔物である。デスバッファローよりもふた周り以上小さく、魔界の門を通れはするが、それでも魔界の魔物に間違いはない。地上の魔物とは比べ物にならない強さを持っている。

「えー、それは何かの聞き間違いでしょ? デスバッファローでさえ子どもでも倒せるんだよ? ブラストボアなんて赤ちゃんでも倒せるよ!」

 が、二人の基準は先程のフェイレイによって上書きされてしまっているのがまたも勘違いを招いてしまった。もうこうなると止められない。

「俺だってブラストボアなら倒せるけど……地上じゃ赤ちゃんでも倒せるのか……」

 フェイレイもクロウリーも地上出身なのは周知の事実である。だから地上では赤ちゃんですらブラストボアを倒せる、と勘違いをしてしまっていた。

「でしょ? 僕なんか地上が怖くて怖くて……」

 ゲイルは両手で自分の身体を抱き締めて、笑いながら恐怖を示すように少しだけ左右に揺すった。

「でも、空は青くて綺麗だし、空気も美味しいじゃないか?」

「え、そうなの?」

「なんだ、ゲイルは地上から来たのに覚えてないの?」

「ごめん。全然覚えてないんだ」

 ゲイルの答えに少しだけ空気が重くなる。するとミューが努めて明るい声色でゲイルを思いやった。

「別に謝ることじゃないよ」

「そっか。空は綺麗なのか……いてて……」

 そう呟きながらゲイルは重苦しい紫色の空を見上げる。と脇腹を抑えて少し痛がりだしたのだった。

「どうしたの?」

「こないだフェイレイに殴られてさ」

 ペロッと服を捲り上げると、そこにはくっきりと握り拳の跡が残っていた。

「うわ! 痛そう」

「一割の力で殴るからな! って言われて身構えたんだけど、やっぱり無理だった」

「よ、避けなよ!」

「いつもの稽古なら動きも読めるし、避けられるんだけど、フェイレイが一割も本気を出されたら無理だよ」

「凄いな、フェイレイもゲイルも……」

「クロウリーだって凄いんだよ! って大分話し込んじゃった! ごめん! 行かないと!」

 ゲイルはハッとして何かに気づいたように立ち上がる。そしてヒョイとデスバッファローから飛び降りた。

「こっちこそ引き止めてごめんね! そうだ! 今日はお祝いだったね! お誕生日おめでとう、ゲイル!」

「ありがとう! ミュー!」

 ゲイルはミューから投げかけられた祝いの言葉にお礼の言葉を返すと、山のような巨大なデスバッファローを軽々と担ぎあげて帰って行ったのだった。
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