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「オェェェェ! ゲェェェェ!」
私は地面に突っ伏して盛大に吐いていた。
「だ、大丈夫か?」
背後からアルト兄さんの心配そうな声が聞こえてくる。その問いに対する私の答えは、
「オェェェェ! ゲェェェェ!」
吐くことしか出来なかった。すると、そんな私を心配したアルト兄さんが、こう促してきた。
「こ、答えなくていい。い、一旦戻ろう?」
「オェェェェ! ゲェェェェ!」
私は吐きながら首を横に振る。嘔吐物が飛び散るのもお構いなしに。せっかく吐くほどの嫌な思いをしているのに、ここで帰るなんて絶対に嫌だ。私のそんな思いが伝わったのだろう。アルト兄さんの手が私の背中を擦るのが伝わってきた。
「わ、わかったから。な、とりあえず落ち着くまで待つから」
小一時間は経っただろう。私は軽く口をすすいでから拭い、よたよたと立ち上がった。
「ふ、ふう。だいぶマシになったわ」
「本当に大丈夫か?」
「ええ、まだ臭いと言えば臭いけど、耐えられない訳じゃないし、出せる物は全部出しちゃったから大丈夫よ」
正直臭いはキツイ。が、慣れてきて最初よりはだいぶマシに思えるのはホント。それに胃液すら出し切っちゃったというのもホント。
「そ、そうか。ま、まあ大丈夫になったなら良かったよ」
「しっかし盲点だったわ。こんなに臭いなんて」
「そりゃ下水道だからなぁ」
そう、ここは下水道。無限ガチャをしてた店からもっと奥に進むと入口があって入ることが出来る。下水道だからとんでもない臭さで、それに気持ち悪くなっちゃって吐いちゃった、というワケだ。
「VRじゃ匂いまでは再現できなかったからなぁ」
「ん? なんだって?」
そう、良くできたVRゲームだったけど、匂いまで再現出来てた訳じゃない。それをちっとも考えてなかった。そこに関しては完全に盲点だったわ。というかこんな匂いが常にしてたらクレームの嵐だったと思う。臭い匂いを嗅ぎたくてVRゲームをやる訳じゃないもの。ま、もしかしたらそういう匂いを嗅ぎたくてやる、っていう特殊な性癖を持ってる人が居ないとも言いきれないけどね。
って感じで私は考えたけれども、それをアルト兄さんに説明しても意味無いし、だから私は独り言、ということにしちゃった。
「独り言よ、気にしないで。ってかそれにしてもアルト兄さんは大丈夫なの?」
「ああ、俺は味覚と嗅覚が鈍感だからな。アレからだけど」
と、アルト兄さんは左手を目の前で振ってから、舌をだし、その手で鼻と舌を指し示した。
「あ、ごめん」
サイボーグとなる時にどこかしらの感覚が麻痺したり、鈍感になったりすることは良くあることらしい。私は嫌なことを思い出させてしまったと思って不意に謝ってしまった。
「いいよ。気にしないで。で、こんなところに来て何があるんだ?」
「そう、ね。本題に入る前に、まずはステータスを確認してみて? それからの方が話も理解しやすいから」
するとアルト兄さんは腕を組んで、首を傾げてしまう。
「すてぇたす? なんだそれ?」
アルト兄さんの反応は当然だった。私も記憶を取り戻すまでは、ステータスなんか開いたことは無かった。というか存在すら知らなかったというのが正しいだろう。アルト兄さんだってそう、というかこの世界の人たちは皆そう。それをすっかり忘れてた。
「あ、そうか。ほら、こうやってみて? 出てくるでしょ? ステータスが」
私は右手をすっと伸ばしてステータスを開いてみせた。もちろんアルト兄さんには見えてはいないが。で、私の目の前には全く変わり映えの無いステータスが広がっている。
「こう? か? なんかあるのか?」
アルト兄さんも右手をすっと伸ばした。が、反応を見るにステータスが開いている様子は見受けられなかった。普通なら今まで見たことがないモノが出てきたら驚くはず。
その時、私は気付いてしまった!
「あー! ツーかー! もしかしてツー基準なのかぁぁぁぁーーーーーー!」
そして私は頭を抱えて座り込んでしまった。
「ど、どうした? まだなにかあったのか? 臭いのか?」
「ちょ、ちょっとまってて。現実を受け入れるのに少し時間がかかりそうなだけだから」
私が受け入れなければいけない現実は、恐らくステータスを開く行為はVRシリーズの2の基準で作られているだろうということ。これは完全に盲点だった。だってこんな右手を差し出す行為なんて、普通に生活してて、全くやる可能性が無い訳じゃない。なのに、今までこの世界で生きてる人が気づいた様子なんてない。
ちなみに、ルナティック・サーガシリーズ初のVRゲームでは、その判定が甘かった。なので普通に何かしててもステータスが開いてしまうってのもザラだった。ってことは逆に考えると、この世界のステータスを開く行動は、その基準で出来てない。じゃなきゃ皆がステータスの存在を知ってるはず。
で、ルナティック・サーガシリーズの制作スタッフはかなりぶっ飛んでいる。次のナンバリングでは基準を凄まじく狭めてしまった。右腕の上げる角度はプラスマイナスで1度の範囲内だったり、出す速度もフレーム単位でだったり、と凄まじい制限してしまった。今度は殆どの人がログオフして確認しなきゃいけない事態に陥るほどに。
ホントアホか。そんな細かい設定までアルト兄さんに伝えるのは、ハッキリ言って無理だと思う。だから私は頭を抱えてしまったのだ。
私は地面に突っ伏して盛大に吐いていた。
「だ、大丈夫か?」
背後からアルト兄さんの心配そうな声が聞こえてくる。その問いに対する私の答えは、
「オェェェェ! ゲェェェェ!」
吐くことしか出来なかった。すると、そんな私を心配したアルト兄さんが、こう促してきた。
「こ、答えなくていい。い、一旦戻ろう?」
「オェェェェ! ゲェェェェ!」
私は吐きながら首を横に振る。嘔吐物が飛び散るのもお構いなしに。せっかく吐くほどの嫌な思いをしているのに、ここで帰るなんて絶対に嫌だ。私のそんな思いが伝わったのだろう。アルト兄さんの手が私の背中を擦るのが伝わってきた。
「わ、わかったから。な、とりあえず落ち着くまで待つから」
小一時間は経っただろう。私は軽く口をすすいでから拭い、よたよたと立ち上がった。
「ふ、ふう。だいぶマシになったわ」
「本当に大丈夫か?」
「ええ、まだ臭いと言えば臭いけど、耐えられない訳じゃないし、出せる物は全部出しちゃったから大丈夫よ」
正直臭いはキツイ。が、慣れてきて最初よりはだいぶマシに思えるのはホント。それに胃液すら出し切っちゃったというのもホント。
「そ、そうか。ま、まあ大丈夫になったなら良かったよ」
「しっかし盲点だったわ。こんなに臭いなんて」
「そりゃ下水道だからなぁ」
そう、ここは下水道。無限ガチャをしてた店からもっと奥に進むと入口があって入ることが出来る。下水道だからとんでもない臭さで、それに気持ち悪くなっちゃって吐いちゃった、というワケだ。
「VRじゃ匂いまでは再現できなかったからなぁ」
「ん? なんだって?」
そう、良くできたVRゲームだったけど、匂いまで再現出来てた訳じゃない。それをちっとも考えてなかった。そこに関しては完全に盲点だったわ。というかこんな匂いが常にしてたらクレームの嵐だったと思う。臭い匂いを嗅ぎたくてVRゲームをやる訳じゃないもの。ま、もしかしたらそういう匂いを嗅ぎたくてやる、っていう特殊な性癖を持ってる人が居ないとも言いきれないけどね。
って感じで私は考えたけれども、それをアルト兄さんに説明しても意味無いし、だから私は独り言、ということにしちゃった。
「独り言よ、気にしないで。ってかそれにしてもアルト兄さんは大丈夫なの?」
「ああ、俺は味覚と嗅覚が鈍感だからな。アレからだけど」
と、アルト兄さんは左手を目の前で振ってから、舌をだし、その手で鼻と舌を指し示した。
「あ、ごめん」
サイボーグとなる時にどこかしらの感覚が麻痺したり、鈍感になったりすることは良くあることらしい。私は嫌なことを思い出させてしまったと思って不意に謝ってしまった。
「いいよ。気にしないで。で、こんなところに来て何があるんだ?」
「そう、ね。本題に入る前に、まずはステータスを確認してみて? それからの方が話も理解しやすいから」
するとアルト兄さんは腕を組んで、首を傾げてしまう。
「すてぇたす? なんだそれ?」
アルト兄さんの反応は当然だった。私も記憶を取り戻すまでは、ステータスなんか開いたことは無かった。というか存在すら知らなかったというのが正しいだろう。アルト兄さんだってそう、というかこの世界の人たちは皆そう。それをすっかり忘れてた。
「あ、そうか。ほら、こうやってみて? 出てくるでしょ? ステータスが」
私は右手をすっと伸ばしてステータスを開いてみせた。もちろんアルト兄さんには見えてはいないが。で、私の目の前には全く変わり映えの無いステータスが広がっている。
「こう? か? なんかあるのか?」
アルト兄さんも右手をすっと伸ばした。が、反応を見るにステータスが開いている様子は見受けられなかった。普通なら今まで見たことがないモノが出てきたら驚くはず。
その時、私は気付いてしまった!
「あー! ツーかー! もしかしてツー基準なのかぁぁぁぁーーーーーー!」
そして私は頭を抱えて座り込んでしまった。
「ど、どうした? まだなにかあったのか? 臭いのか?」
「ちょ、ちょっとまってて。現実を受け入れるのに少し時間がかかりそうなだけだから」
私が受け入れなければいけない現実は、恐らくステータスを開く行為はVRシリーズの2の基準で作られているだろうということ。これは完全に盲点だった。だってこんな右手を差し出す行為なんて、普通に生活してて、全くやる可能性が無い訳じゃない。なのに、今までこの世界で生きてる人が気づいた様子なんてない。
ちなみに、ルナティック・サーガシリーズ初のVRゲームでは、その判定が甘かった。なので普通に何かしててもステータスが開いてしまうってのもザラだった。ってことは逆に考えると、この世界のステータスを開く行動は、その基準で出来てない。じゃなきゃ皆がステータスの存在を知ってるはず。
で、ルナティック・サーガシリーズの制作スタッフはかなりぶっ飛んでいる。次のナンバリングでは基準を凄まじく狭めてしまった。右腕の上げる角度はプラスマイナスで1度の範囲内だったり、出す速度もフレーム単位でだったり、と凄まじい制限してしまった。今度は殆どの人がログオフして確認しなきゃいけない事態に陥るほどに。
ホントアホか。そんな細かい設定までアルト兄さんに伝えるのは、ハッキリ言って無理だと思う。だから私は頭を抱えてしまったのだ。
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