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第1章 帝国編
6話 帝都到着
しおりを挟むあれから数時間ほど経過し、帝都に向かう人達が間隔をあけて続々と入ってくる。
と言っても定員は8名のようで、ガラガラだった馬車は今では窮屈なほど人が入ってしまった。
窓際に座る私の隣には1人の女性が座っており、真っ赤な髪を一つ結びにして肩にかけている。
綺麗な人だなぁと思いながら窓の外に流れる木々を眺めていると、ガタガタと馬車が止まった。
見ると、少し開けた場所で止まったようで、どうやらここで野宿するようだった。
私は特に野宿用の道具を持っていなかったので、馬車の中で夜を明かそうと思って動かずにいると、唐突に隣に座る女性が話しかけてきた。
「あんた見たところいい所のお嬢さんだろ、こんなとこで寝てたらいつ襲われるか分かったもんじゃないよ、どうだい?私と一緒に向こうで野泊しないかい?」
そう言ってここら辺で1番大きな幹を指差した。
確かに私の顔は悪役令嬢だけあって整っているのは分かっていたけど、結界を張れば大丈夫だと思っていたからわざわざ少し肌寒い外に出ようとは思っていなかったけど、誘いを断るのはさすがに忍びないので、快く受けることにした。
「わざわざご忠告ありがとうございます、是非ご一緒させてください」
その後一通り簡単な自己紹介をした後あったいう間に意気投合し、友達となった。
女性の名前はミラと言って、私よりも2歳年上の19歳だった。
「私は姉がいなかったのでお姉様と呼ばせていただいても?」と言うと、恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに頷いてくれた。
どうやらお兄さんと弟さんがいるようだが、妹や姉がいなかったようで嬉しそうに「ッ是非呼んでくれ!」と言われた。
「エリーは帝都に行って何をするんだい?」
「とりあえず観光でもしようかと思います」
エリーというのは私の愛称だ、仲良くなってすぐにエリーと呼んで欲しいとお姉様に言ったのだ。
「そう言えば隣国から来たんだってね、じゃあ帝都のベルー祭に行ってみるといいよ」
「ベルー祭?」
「あぁ、あと一週間ほどで春の収穫を祝して帝都の噴水広場で祭が開かれるんだ」
「そうなのね、是非行ってみるわ」
それから空が暗くなるまで話に花を咲かせ、先程市場で買った蒸しパンを食べた。
寝る時はどうするのだろうと思っていると、お姉様が敷き布を貸してくれたので、1枚のかけ布に2人でくるまりながらその夜は眠りについた。
旅に別れはつきもので、2日かけて到着した帝都で、お姉様とは別れることとなった。
お姉様はどうやら人を探しているようで、帝都に暫く滞在した後、また他の街に向かうそうだ。
「じゃあな、エリー」
「うん、お姉様も」
2人して涙を浮かべながら抱きしめ合う。
お姉様との2日間は本当に楽しかった。
自分の身の上話をするつもりはなかったが、何か察してくれたのか、あそこに行くといい景色が見れるだとか、あの街の市場には美味しい串焼きがあるだとか、お姉様は見慣れない景色に一喜一憂する私に色々と教えてくれた。
「またどこかで会えたらその時はまた沢山話そうな」
「ええ、お姉様との思い出はずっとずっと忘れません……またお会いしたら、その時はまた、お姉様と呼んでもいいですか?」
「勿論だとも!」
ひしっと抱き合い、やがて離れると、お姉様はニコッと淑やかに微笑んで背を向け歩き出した。
「またねーお姉様~!!!!」
私はその背に、大きな声を出しながら別れを告げた。別れを惜しんだのは生まれて初めてだった。
姉様の姿が見えなくなるその時まで、私は手を振り続けた。
グッと涙を拭い、私も歩き出す。
これから私の新しい人生が始まるのだ。
泣いてなんかいないで、前を向かなくちゃ。
あらから1時間ほどかけて帝都で有名な噴水の広場に来た。
周りはもうお祭りは始まっているのかと錯覚しそうなほど賑わいを見せていて、びっくりする反面、自国の王都を思い浮かべて悲しくなってしまった。
本当に何もかも違う。
人の多さも、出店の数も、賑わいも。
この国はどこもかしこも笑顔で溢れている。
浮浪者も、流行病に倒れる人も、スラムの住人もいない、平和な世界だ。
いつか王妃となった時、そんな衰退した国を建て直したくて必死に勉学に励み、時には城下に降りてはその光景を目に焼き付けていた。
私達はなぜこのような国づくりができなかったのだろう。そう思えば思うほど自国の民に申し訳なく思う。
ノブレス・オブリージュ。
本来なら民を助ける立場にいる私たち貴族がその役目を果たせていたならば、このような平和な国を造れたのかもしれない。
国を追放された私にはもうどうすることも出来ないが、少し気がかりに思う。
弟と揃ってヒロインに心酔した王子2人には、到底あの国は立て直せないだろう。
同じく現国王と王妃もだ。
あの国は上層の貴族院すらも腐っているのだ。
アルフレッドの父、エドブレヒド王も決して暴君や無知な王などではなかった。
では何故あれほどまでに国が傾いたのか、恐らく前王妃のマリアージュ様が元凶だろう。
アルフレッドやその弟のエドアルドも含めて王室の男児は皆マリアージュ様の傀儡でしかないのだ。
自分の立場が脅かされるのを恐れた現王妃のヴィオレッタ様は、そんなマリアージュ様から逃げるように離宮に籠ってしまった。
私もヴィオレッタ様とは幼い頃に1度しか会ったことはなかったが、幼いながらに酷く気弱な王妃であったことは覚えている。
恐らく近い将来、ガーディア王国が世界の中心となり始めたサージェント帝国に何かしらの大義名分を掲げて戦争を吹っ掛けてくるだろう。
ただの予想でしかないが、机上の空論でしかものを考えられない貴族院共の奴らがそろそろ現状に満足できなくなってくる頃だと思う。
最近王城内がきな臭くなってきたのを何となく感じてはいたのだ。
ただそんな馬鹿なことはしないだろうと、貴族院どもを侮っていた。
元はガーディア王国の公爵貴族。
仮に、本当に戦争が起こってしまうとしたら、私はその時、どうするのだろうか。
雲ひとつない真っ青な空を見上げながら、私は瞼を閉じたのだった。
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