断罪された悪役令嬢は冒険者となって自由に生きることにした。

氷雨

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第1章 帝国編

7話 迷子の少年

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「おねえさんどうしたの?」

幼い子供の声がして、閉じていた瞼を開くと私は声のする方へと目を向けた。


「...なんでもないわ、あなたは?」

子供と同じ目の高さになるようにしゃがみ込む。
そばかすが特徴的な男の子で、その手にはドラゴンのぬいぐるみが握られていた。

「ぼくはね、おかあさんとはぐれちゃって、それで...それで、おねえさんをみつけたんだよ、えっとね、おねえさんはぼくのおかあさんがどこにいるか、しってる?」

徐々に涙を溜め始めた少年が、片手でズボンの裾を握り込みながら、必死に説明してくれる。


「大丈夫よ、あなたのお母さんもあなたの事を探しているはず、一緒に行きましょ?」

そう言って手のひらを差し出すと、涙を浮かべながらも少年がぎゅっと握ってきた。




「...すみません、子供を探している母親を見ませんでしたか?」

私はとりあえず近くで屋台を開いているおじさんに聞き込みから始めてみた。

「あー、さっきだったかな、なんか息子を探してるんです!って走り回ってた人がいたなぁ」

「ほんとですか!、どちらに向かわれたかは分かりませんか?」

「あー、すまん、丁度客が来てたもんですぐ目を逸らしちまった...すまんね」

「いいえ、ありがとうございます、それとその飴玉をひとつくださいませんか?」

「ありがとな、飴玉はひとつでいいのか?」

「じゃあ5つお願いします」

「あいよ、5つで3ギールだ」

「じゃあ100ギールで」

私はこの世界で使われる100ギール硬貨を1枚取り出し、おじさんに渡した。

この世界の硬貨は、日本と少し違い、1ギール、10ギール、50ギール、100ギールは硬貨で、1000ギールと10000ギールは紙幣で取引される。
そして1ヶ月で3枚しか作れないと言われているのが白金貨と呼ばれる。その値は10万ギールで、市井で出回ることはほぼないと言っていい硬貨だった。

話を戻すが、私はお釣りの97ギールと飴玉をおじさんから受け取ると、さっそく包みを開いてひとつ、少年に「どうぞ」と言って差し出した。

少年は「いいの?」と困惑顔でこちらを見ていたが、私がぐいっと少年の口元に飴玉を差し出すと、少年はおずおずと口を開いて飴玉を口の中に入れた。


途端に、少年の表情がぱぁっと明るくなる。

「わぁ、おいしい!!あまいあまい!!」

「すっごくおいしい!」とはしゃぐ少年を見ながら、私もひとつ飴玉を口の中に入れた。いちごのような甘い味が口の中に広がり、とても美味しかった。


小1時間ほど屋台を少年と練り歩いていると、焦ったような女性の声がガヤガヤとした人々の声と共に耳に届いた。

「...マークッ!!どこにいったのマークッ!!」

やがて人垣の中から女性の姿が見えたので少年と共に駆け足ぎみに近づいて行くと、こっちに気がついたのか目に涙を溜めた女性が走り寄ってきた。

「...マークッ!!!」

「...おかあさんっ!!」

少年も母親の姿を目にとめたのか、私の手を振り払って母親の元へと駆け寄って行った。


「...もう心配したんだからぁッ!!!」

「...ごべんなさぁい」

ひしっと抱き合いお互いに涙を流す親子を見て、「...これでもう大丈夫ね」と独りごちると、数十秒だけ親子を眺めた。

「よしっ」と気合を入れると、私は人垣の中へと戻ったのだった。











私は今、噴水広場から少し離れた露店で服を見ていた。


屋敷を出る時に市井でも浮くことの無い地味な服を何着か異空間の収納ボックスにしまっていたのだが、そろそろ着古していたので買い替えたかったのだ。
現在着ている服は、3セットあるうちのワンピースセットで、ガーディア王国の公爵領の露店で数年前に買ったものだ。

昨日この服に着替えた時、少々胸元が苦しかったので買い替えたく思ったのだ。

ちなみに私の胸のサイズは恐らくDサイズ、前世じゃBだったから嬉しくもあるが、Dサイズから尚も成長するとは思わなかった。
さすがの私も驚いたし、そろそろ首こりと肩こりが酷くて辛くなってきた。
若いのに何言ってんだと思うかもしれないが、毎日毎日マッサージしたとしても結局重力に負けて夜には肩が疲れてしまうのだ。

乙女ゲームのおかげか、この中世風の世界でもブラジャーはあった。パンツは紐パンではなくゴムだ。

前世の記憶を思い出した時真っ先にほっとしたのがこれで、日本の技術が反映されたブラジャーがこの世界でも売られていると知って酷く安心したものだ。

さて、話は戻るが今は服が欲しかった。
現在持っているのは動きやすい白の襟シャツと茶色のスラックス、それと2着のワンピースだ、1枚は淡い黄色で、腰に小さなリボンが付いている。
もう1着は色違いの白いワンピースで、現在着ているのがそれだった。

靴下は踝ラインまでの短いもので、色は同じく白。
靴は茶色のパンプスを履いていた。
一応革のブーツもあるが、ワンピースには合わないだろう。

ということで、今はトップスとスカートが欲しかった。

「すみません、この上着とその右のスカート、それからそっちの刺繍のシャツをください」

「いらっしゃい、ちょいとお待ち、今包むからね...代金は640ギールだよ」

私は640ギールを財布から取り出し、おばさんの手のひらにジャラジャラと硬貨を乗せた。

「...丁度だね、まいどあり!」


今回買ったのは、ポンチョのような上着と膝丈の茶色いスカート、それと丸襟の長袖のシャツで、胸元の綺麗な刺繍がある。

紙に包装された服を露店から離れた場所で1枚1枚取り出すと、私は早々に収納ボックスへと仕舞った。


服も買えた事だし、そろそろ宿を探しに行こう。そう思って歩き出した時だった。

ふと、数日前にバディを申し込んできた冒険者の顔を思い出した。

あの人は今どうしているのだろう。

部屋を出る瞬間に見た彼の顔は、何だか少し悲しい顔をしていた。
ほんの一瞬だったから定かでは無いが、会って間もない私に何故あれほどしつこく迫ってきたのだろう。

一目惚れと言っていたが、私よりも綺麗な女性を見ればそちらの方へ好意が向くのではないかと思う。つまりは一時の感情でしかないのだ。

なのに、彼のその一時の感情に振り回されている私はなんなんだろう。
何故あの表情が頭にこびりついているのだ。

そんなモヤモヤとした気持ちを抱えながら、私は夕日に背を向けて歩き出したのだった。


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