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第1章 帝国編
8話 冒険者ギルドへ
しおりを挟む「ふぁ~」と欠伸をしながら精一杯腕を伸ばし、ぼふんっと体を後ろに倒す。
天井を見ながら、ふとここが公爵家の自室ではなく、宿の一室であったことを思い出す。
暫く馬車の旅が多かったが、実家の感覚がまだ抜け切っていなかったようだ。
一瞬だが、いつも扉の向こうで控えていたジェインを呼ぶところだったわ。
あの子は元気かしら?と昔市井で野垂れ死にそうになっていたかつての従者を思い出す。
中々肝っ玉の据わった少女で、私の命令以外一切きこうとしない子であった。
私が14歳の頃、思春期でお転婆だった私はいつものように隠れて公爵家を抜け出していた。
何度も通った市井の道をいつもの様にスキップしながら歩いてると、建物と建物の間の小路に呻き声を上げて苦しそうに倒れている女の子を見つけた。
よく見るとお腹から出血しているようで、私は急いで彼女の元に駆け寄り、微弱であるが治癒魔法をかけた。
聖女ではないため、そんな強力な治癒が使えない私には血を止めるのが精一杯で、7年経った今も彼女の脇腹にはナイフで刺された跡が残っていた。
そう、彼女は6歳の幼子であるにも関わらず、実の父親にナイフで刺されたそうだ。
「...父も母も生きるのに必死だから」と、なんてことの無いように言う彼女が痛々しくて仕方なかった。
同時に自分と似ている。
そう思った私は、彼女を公爵邸に連れて行った。
父は私と会おうとしないので、執事にかけ合って無理やり私の従者にした。
それが、彼女との出会いだった。
「ジェイン...」
前の名前はいらないから新しい名前を私につけてくださいと言った少女に、私はジェインと名づけた。
茶色の髪にヘーゼルの瞳が美しいジェインは私の後ろをついて回っては、執事に叱られたものだ。
なんせ基本的に私の言うことしか聞かないものだから、私と一緒になって遊んでしまうのだ。
だからだろうか、兄弟姉妹が居なかった私はいつしかジェインを妹のように思い始めていたのだ。
結局お別れも言わず屋敷を抜け出してきてしまった。
あれだけ私に心酔していたジェインのことだ、今頃屋敷内で暴れ回って解雇されたのではないだろうか。うん、間違いなくそうだろう。
ということは、恐らく私のいる場所目掛けて全速力で追いかけてくるに違いない。
でも、これ以上私にばかり傾倒しないでそろそろ周りを見て、世界を知って欲しいと思う。
酷かもしれないが、ジェインとはもう会わないでおこう。
あの子ももう13歳、まだまだ子供ではあるが、だからこそ突き放す、獅子は我が子を千尋の谷に突き落とすと言うことわざがあるように、私もそれに習おうと思う。
そう思いながら、私はベットから起き上がり、朝の準備をするべく立ち上がった。
宿屋の食堂で朝食を済ませ、街に繰り出した。
朝のためかそれほど人はいない。
今日は何をするかと言うと、放ったらかしにしていた依頼採取を片ずけることにした。
期限は2週間ほどあったのでまだ余裕はあるだろうが、さすがにいつまでも無職では生計が維持できないので仕事を始めることにする。
まぁ、早く依頼をクリアすれば、それに伴って信頼も付いてくるもので、その点で言えば私はもう初っ端から失敗していると言えた。
「...あーあ、怒られたりするのかなぁ」
と言うか依頼の薬草はここら辺に群生しているのだろうか。
一抹の不安を覚えながら、私は帝都の冒険者ギルドに向かったのだった。
小1時間ほどでギルドには到着した。
中心街のためか朝から活気があり、ギルドの扉から絶えず人の声が聞こえてくる。
キィと頑丈な両扉を開けて中へ入ると、○○ポッターに出てくる食堂のようなだだっ広い部屋が広がっていた。
どうやら中に食堂と武具店が併設されているようで、人が耐えず出入りしていた。
そんな風に、お登さんのごとく周りを眺めながら中へ入ると、ドンッと誰かにぶつかってしまった。
「あ"ぁ?」
ギロリと音がしそうなほど強く睨みつけられる。
どうやら入口付近にいた男の人とぶつかってしまったようだった。
「す、すみませんっ!!」
私は慌てて頭を下げて謝罪をすると、「なんだテメェ?」と凄みのある声が聞こえてきた。
これはまずい、と冷や汗がどんどん出てくるが、とりあえず私には謝ることしか出来ない。
「...申し訳ありません!どこかお怪我はありませんか??」
「...あ”ぁ?怪我だとぉ??俺がお前みたいな子供にぶつかられて怪我をするとでもぉ??」
そう言ってずいっと顔を近ずけてくる。
「...た、確かにそうですね、すみません」
「...あ”ぁ”?...お前さっきからすみませんすみませんって何回謝んだよ!」
「...えぇ??」
「だからッ!おれぁ怪我なんかしてねぇし、痛くもなかった、別に俺は怒ってねぇよ!」
そう言って「フンッ」と言い捨てると、男の人は去っていった。
背を向けて早足に去っていく男の姿を見ながら「...えぇ??」と私の頭には疑問符が浮かぶばかりだった。
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