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第1章 帝国編
9話 ガイル湖へ
しおりを挟む気を取り直して受付のある方へと行ってみると、朝にもかかわらずすごい行列ができていた。
これ以上列に人が並ばないように、私は早足で列の最後尾へと向かう。
約30分だろうか、体感的に2時間くらいだが、ようやく受け付けまでやってきた。
「おはようございます、どうされましたか?」
「すみません、ウォール街のギルドで依頼を受けたのですが、こちらの方から諸々の手続きは可能ですか?」
「ウォール街ですね、可能でございます。そういう冒険者の方は比較的多いので大丈夫ですよ」
「そうですか、よかったです...それと、ガイル湖にはどのように行ったらいいのでしょうか」
「ここは西城下なので、ガイル湖までとても近いですよ、ここから少し離れた場所に乗り合い所があるので、そこからガイル湖街行きの馬車に乗っていけば半日で着くと思います」
「そうなんですね、ありがとうございました」
「はい、頑張ってくださいね」
そんな受付嬢の言葉を尻目に、聞きたかったことも聞けたので、私は早々にギルドを後にしたのだった。
「すみません、ガイル湖に行きたいのですが」
馬車の乗合所に行くと、受付のような小屋があったのでカウンターにいた男性に話しかけてみた。
「ガイル湖行きならあの茶色の馬車だよ、馬車の前に人がいるからその人に確認してみるといい」
「分かりました、ありがとうございます」
言われた通りに茶色の馬車がある場所へと向かうと、案の定おじさんが数人ほど居た。
ちょうど茶色の馬車の前に立っていたおじさんがいたのでそちらの方に声をかけてみた。
「すみません、この馬車はガイル湖行きのものですか?」
「あぁそうだな、乗るのか?」
「はい、いくらになりますか?」
「片道で200ギールだ」
私は200ギールをおじさんに渡し、馬車に乗り込んだ。
「ちょうどだな、あと15分ほどしたら出発すっからもうちっと待っててくれ」
「はい、分かりました」
窓から少し顔を覗かせておじさんに返事を返す。
視線を逸らし、膝の上に置いた財布を開いた。
この国に来てどれくらい使ったのかが気になったからだ。
この世界では全て共通の通貨で、もちろんどの国でも同じお金が使えた。
だが、こんなに減っているとは思わなかった。
刺繍の施された白いポーチのような財布を開けると、じゃらりと音が鳴る。
確認すると今の残金は、6千と520ギールだった。
お小遣いなんて貰えなかったから、サイズが合わなくて新しいドレスを新調する度に売りさばいていた。それもあってか貯金はおよそ20万ギールほどあった。
ガーディア王国の月収が大体1万2千ギールほどで、舞踏会用のドレスが大体1着で1万3千ギールほどだったため、とても高額で買い取ってもらえたのだ。
ただ将来のことも考え15万程は貯金しておきたい。一応手持ちは1万ギールに留めて、残りの19万ギールは異空間にしまっているが、予想以上に手持ちのお金が減っていてびっくりした。
どうやらここサージェント帝国の物価は王国と遥かに違うようでとても高かった。
半日かかる馬車で片道200ギール、それは王国の日当賃金の半分だ。王国の場合は100ギールもかからなかった。
それを考えると、これから受けに行く採取依頼の報酬は帝国の人たちからしたらそれほど高くないのかもしれない。
となると、尚更お金はできるだけ使わず、今後の目標としてはとりあえず稼ぐことだけ考えようと思う。
どうせならどこかの国に永住して、小さな可愛いお家を立ててひっそりと暮らしたい。そのためにはまず資金稼ぎだ。
冒険者としてランクをあげると共に資金を稼いで、旅をしよう。世界一周とかもいいかもしれない。色んな国を回って愛する人と出会って、それで一緒に冒険したい。
こうして将来についてゆっくり考える時間が出来たことで、今になって初めて、私は夢をもてたのではないだろうか。
今まで王妃教育として必死に頑張って、でも誰にも認めてもらえなくて、それでも自分の存在意義が欲しくて必死に、がむしゃらに頑張ってきた。だから夢をみるなんて、そんな怖いこと出来なかった。叶えられない夢なんて、みるものじゃないから。
だけど、私はもう自由なんだ。
夢だってみていいし、楽しいことで笑ってもいい、市井の砕けた口調で話してもいいし、走ってもいい、そして...恋をしてもいい。
何もかも自由だ。
自由なんだ。
そう思った瞬間、涙が次々と溢れてきた。
味のしない滴が、ぽたぽたとスカートにシミを作る。
いつの間にか馬車は走り出していて、綺麗な街並みと嬉しそうに泣いている自分の顔が窓に映し出されている。
父親譲りの真っ直ぐな青い髪と、母親譲りの紫紺の瞳が嫌いだった。
自分を道具としか考えられない父なんて大嫌いだったし、自分のことを見ようともしない紫紺の瞳も大嫌いだった。
みんなみんな嫌い、なのにその嫌いな奴らのために頑張らなくちゃならなかったのがなにより嫌だった。
でももう終わり。
大嫌いなアルフレッドが言ったのだ。
お前は国外追放だと。
私はもう自由なんだ。
だからもう何があろうと私は王国に戻らないし、公爵家にも戻らない。
嗚咽を漏らしながら眺める景色は酷く霞んでいて何にも見えはしなかったけれど、それでも人々の楽しそうな笑い声は聞こえる。
それだけで私は、その中に一緒になって身を置いていいのだと、安心したのだ。
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