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帝国編

令嬢、助けられる

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バンッ!!!


「なんだ!?」




「うぉ!!」

「がっ!」


え、何?

なんか、騒がしくなったな...
どうしたんだろ?

私は、今まで下げていた頭をゆっくり持ち上げ辺りを見回した。

やっぱり殆ど見えないや...

辺りはすっかり暗くなってしまい、先程出ていた月も今は雲に姿を隠してしまっていた。


でも、何となくは分かる...

目の先には先程私を拉致った男性達だろうか?その男達が床に伸びていた。多分...

なんで?

もう1回確認するために膝立ちになり前のめりに男達と思わしき人達を見据える。

丁度その時、今まで隠れていた月が顔を見せ、暗闇で包まれた部屋を明るく照らしだした。


これで見える。と思いながら窓から視線を離してまた、男達を見た。

え?

誰?

目の先に転がる男達は見つけた。でもその傍に立つ男性は見たことがなかった。


暗闇に溶け込みそうな青髪に対照的な光り輝く金色の瞳のもつ男性が静かに此方を見ていた。


「...無事か?」

「...!!」

急に声をかけられ、驚く。
この人が、倒したのだろうか?

でも、1人で?それに、私を知っているような口ぶりで...どこかで会ったかしら?

それに、この人の声、何だか初めて聞いたわけじゃないような......気の所為かしら?


そんなことを考えていると、何も答えない私に痺れを切らしたのかズカズカと此方に近ずいてきた。


「おい!無事か?」

二度目の質問に少しだけ回ってきた頭でなんとか答える。

「...はい!ぶ、無事です!」


「本当か?なら、いいが...」

「あの...貴方は?」

「え?忘れたの?」

忘れたの?ですって!?こんな人間離れした美形の人に会ったら一生忘れ無さそうなのだけど...本当に何処かでお会いしていたのかしら?だとしたら私は相当ボケていることになるわ...

「あぁ、すまない忘れていた」

そう言うと彼は、先程の場所よりも離れた端に置かれているローブを手に取ると此方に戻ってきた。

「これを見て分からないか?」

茶色いローブ...?
これがどうしたの?ってえ?これってついさっき見たような...
いやいやだからってあの暴君が目の前の男性なわけ...

一応確認のために聞いてみよう。

「...貴方...もしかして、私とさっき会ってる?」


「あぁ、会ってる」

彼は私の問いに即座に答えた。


嘘よ...まさか、こんな所まで着いてきたの?
まさか、この人もあの人達の仲間なんじゃ...


「いや、違うからな?」

「え!?」

心を読まれた!?

あれ、こんなやり取りさっきもした様な...

あれ...?と思った私はついに気づく。


「貴方やっぱりお店で会った...」

「やっと思い出したか」

やっぱりあのお店で会った暴君!!

「わざわざ助けに来てくれたの?」

「あぁ、迷惑だったか?」

「別に!逆にお礼を言うわ!でも...」

「でも...?」

「何でお店では手を離してくれなかったの?私にして見ればあれは迷惑以外の何者でもなかったのだけど...」

そうなのだ、実際あの時、ずっと離さなかったことに対して少なからず私は怒っている。
それを思い出し少し怒り口調で言ってしまった私の雰囲気を感じ取ったのか彼は焦って謝ってきた。


「...!!すまなかった」

「...!!」

なんだ、謝れるんじゃない...案外悪い人じゃいのかもしれないわね...
なのになんであんな行為をしたのかしら?
でも、そうね...今はもういいわ。だって、さっきなにをされていようが今助けてくれたのは彼だから。

良かったわ...本当に良かった...



「泣いているのか?」


泣いてる?誰のことを言っているの?
けど、直ぐに頬に伝う暖かい雫が自分が泣いていたんだと教えてくれた。

さっきまで涙なんて一滴も出なかったのに、彼の前では何だか安心するわ。だからかしら?涙が出てしまったのは。


彼は少し躊躇したがゆっくりとしゃがみ込み壊れ物を扱うようにそっと抱きしめてくれた。


少しの間、彼の胸を借り、静かに泣いた私はそっと彼から離れた。彼に言わなくてはいけないことがあるからだ。


彼は私が離れると、名残惜しそうに私の顔を見たあと私が何かを言おうといていることを察したのか聞いてきた。

「どうした?」

「あの、そろそろ縄を切ってもらいのだけど...お願い出来るかしら?」


「そうだった!!すまない、痛くはなかったか?」


「今解く」と言うと腰に刺した剣を抜き私の背後に差し入れ素早く縄を切ってくれた。

「ありがとう、これで少し楽になったわ」

「どういたしまして」

そう言った彼はニコッと色気たっぷりに笑った。

何その笑顔、反則よ!

美形の笑顔は女を殺すのよ!!全くもう!
泣いた後でスッキリしたのかさっきの憂いが綺麗さっぱり無くなり、心無しかテンションが高くなっている。


「ねぇ、君の名前ってミリアーナ、で合ってる?」

「えぇ、でも私貴方に名乗りましたっけ?」

「いや、シーラさん達が君の名前を呼んでいたから」

「あ、そうね」


そうだったわ...


「じゃあ、私にも貴方の名前を教えてください」

そう言うと彼はさっきと打って変わって子供のようにぱぁっと顔を輝かせた。

「やっと私に興味を持ってくれたね!いいよ!好きなだけ呼んで!」

何この人、犬みたいだわ...なんか、可愛いかも。


「私の名前はハル=ディランだ。ハルでもディランでもいい、好きに読んでくれ」

「じゃぁ、ハル様と呼ばせてもらいますね」

「様は付けなくて良いんだが...」

「えっと、まだ会って間もないですし...」

「まぁいいか、それと私はミアと呼ばせてもらうが良いだろうか?」

「いきなり愛称は照れますよ...」

「慣れてくれ」

「...」

やっぱり暴君だわ...絶対どこかのお金持ちのボンボンよ...人のこと言えないけど...


「それと、ミアはこれからどうする?家に帰るのか?」

「あっ...」

宿取ってない、それにパスタ食べ損ねた...
今頃あの麺は伸びているのかしら...食べたかったわ...けど困ったわね...私は国外追放された身(多分)
だし、それに、森に捨てられて国を超えて来ましたなんて言えない...。どうしよう...

「その様子だと、帰る場所がないみたいだが、家出でもしてきたのか?」


「いえ、そういう訳では...」


「何だ?言えないことなのか」


「...はい」


「そうか、なら私の家に来い」

「え?」

「嫌か?」

「いえ!嫌とかじゃなくて、逆に聞きますが私があなたの家に泊まったとして迷惑ではないのですか!?」

「あぁ、それは心配するな、家は広い、1人2人増えたところでなんの支障もない、だから安心してうちに来い」

「...そ、そんな...でも」

「もういい」

そう言い捨てるとハル様は私の足と背中に手を滑り込ませ持ち上げ、横抱きにした。


「ひゃっ!?」

「しっかり捕まっていろよ?」

な、な、なんでこんな格好に!?
まさか無理やり連れていく気じゃ!!


やっぱりこの人、暴君だわ!!


深夜のテンションとは思えないほどミリアーナの心はハイになっていた。

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