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本編

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 毒に侵された王子を助けるのと引き換えに、私のことを信用してもらう。

「ち、ちょっと待て、貴様は転移だけでなく。回復系の魔法も使うことができるのか?」

「いえ」

 本来は毒の治療などは私の専門外である。
 だが、今回に限っては少し話が異なるかもしれないというだけだ。

「正直な話、もし……王子の状態が私の想像通りであれば、私にしか王子を助けることはできませんよ」

「なに?」

 おそらくはね。
 信じて貰えるかわからないが……。

「さぁ、どうしますか?」

「「……」」

 もう一度尋ねる。
 私にしか治せないと聞き、二人の眉間に皺が寄る。

「二人とも、もしかして、この状況が私の自作自演だと……そう疑っていますか?」

「いや」

「それは……」

 自分で毒を仕掛けて自分で治す、マッチポンプ。
 まぁ暗殺容疑のかかった女が、これは自分にしか治せない、と言っているのだからね。

「馬鹿馬鹿しい……と言いたいところですが、まぁ、貴方たちの立場からすれば無理もない。ただ……このままだと間違いなくキルリー王子は死にますよ」

「「っ!」」

「さぁ、ご決断を」

 ぐったりしている王子の様子を見るに、もう時間もない。


「……わかり、ました」

 少しの間のあと、首を振るナタリ―様。

「ナ、ナタリー様? し、信じるのですか? この得体の知れない女の話を……」

 なかなか失礼だな、この男。

「このメイドの話、恐らく嘘ではないと判断します」

 ええ、嘘は言っていませんよ。

「私たちの協力を得るために、自作自演で恩を売るとして、それ以上の恨みを買っては意味がないでしょう? 表面上は協力する素振りを見せるだけで、彼女には適当な情報を流す可能性だってあるのだから……加えて考えれば矛盾も多いし、治癒できると言ったりできないと言ったりと、行動が支離滅裂すぎるのですよ」

「それは……」

「それに最初から選択肢なんてないのですよ。私にとって、何よりも大切なのはこの人の命なんですから……例えそれが、悪魔の手だったとしても掴むしかないのです」

 藁にもすがる思いらしい。
 でも、悪魔じゃないですよ。

「約束しましたからね、ナタリー様」

「勿論です、彼の命を救ってくれるのなら喜んで、貴方の無罪を証明するのに協力しましょう」

 しっかりと言質をとった。
 後はしっかりと結果を出すだけだ。

 私はゆっくりと王子の方に近づいてく。
 絶対に成功させなければならない。


「王子の身体に触れますね」

「おかしなことはするなよ」

「危害は加えませんよ」

 そもそも放っておいても死ぬ相手に、わざわざ私が何かする意味もないんだけど。
 口に出したら怒りそうだから言わないけど。

 まずは私の推測が正しいかの確認だ。

 上級の解毒魔法すら効かない毒。
 そういった強烈な毒は確かに存在するが、大抵はその特性故に即効性が高いものだ。

 しかし、既に事件から二日以上が経過しているというのに、王子はまだ生きていることが引っかかった。
 そして減量しない王子の身体。

 もし私の予想が正しければ……これは厳密には毒というよりも。


「転移魔法を極めるには、極めて精密な魔力制御能力と魔力感知能力が求められます」

「な、なんだ突然、知っているが、それがなんだと言うのだ」

「要するに、私なら身体に触れればわかるってことですよ」

 王子の上半身をはだけさせ、上下する胸にそっと手を当てる。

(やっぱり……)

 王子の身体の中に、王子以外の魔力反応がある。
 細胞レベルの小さなものではない。


(正体不明な生き物が……いる)


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