『     』

千園参

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 経営難で渋々、泣く泣く閉店した、かつて煌びやかであったであろうキャバクラを居抜きで拠点としている。キャバクラの面影をしっかりと面影どころかキャバクラであったということをちゃんと残しつつも、営業時よりも光が失われた、そんな店内。
 ボクことボクと、胸にさらしをきっちりとかっちりと巻きつけ、その上からスカジャンを羽織ったクールビューティーと言い表すのが何よりも丁度良い央叢蓮綺なかむらはすきというお姉さんの2人でキャバクラ跡地を占拠している。もとい、使用している。
 彼女はボクの仕事の先輩であり、この世界に入ってからは彼女に面倒を見てもらっている。表情の乏しさと整った美人、別嬪さんな顔が彼女のクールな美女像を形成している。ボクの好みの女性の特徴をしっかりとど真ん中で捉えている女性である。
 では、それでは、ボクと彼女がキャバクラ跡地で何をしているのかというところであるが、それは堂々と人前で話すことのできない稼業である。
 そうは言っても極道、ヤクザというようなものでもなく、ボクたちは《調達屋》というものを細々と行っている。
 調達屋とは何か、簡単に言えば、端的に言えば、調達する仕事である。調達する仕事ならば別に裏稼業でも何でもないだろうと思われるかもしれないので、ここからは補足をさせてもらうことにしよう。
 ボクと彼女が行っている調達屋という仕事の対象者は同じく裏稼業を行なっている人種であったり、訳ありな人種となっている。
 基本的な営業スタイルは顧客から依頼を受け、依頼されたモノを調達するという非常にわかりやすいものである。
 調達するモノは依頼者によって様々であり、逃走用の車や足のつかない携帯、新しい人生の再スタートを切るための戸籍などがある。


「あの、すいません……」
 調達屋の仕事において近頃増えてきた依頼がある。
 それが今、ボクの目の前にいる依頼者のような人間である。
瀬々木せせきさんですね」
 央叢が草臥れたボロボロの母親と小学生くらいの息子に声をかける。
「いえ、私は手永てながですけど……」
 央叢に対して母親が困惑したように名前を名乗る。
「いえ、今日からあなた達は瀬々木さんです」
 そう言って、こう言って、央叢は依頼通りの書類を母親に手渡した。
「ありがとうございます……ありがとうございます……ありがとうございます……」
 母親は大粒の涙を流しながら書類を握り締め、ありがとうという言葉を唱え続けた。小さな息子はそんな、こんな、母親の姿をただのジッと黙って見上げていた。
「これで新しく人生を始められると良いですね」
 央叢はクールな顔を崩さぬまま、優しい声色で、声音で、親子に声をかける。
 泣いて声にならない声で喜ぶ母親の姿を見ていると、まるでボクたちが良いことをしているように感じられてならないのだった。調達屋は悪いことである。日向を歩けなくなった日陰者を救済する悪い仕事であると言うのに。
「最近増えてきたな」
 親子を見送った後で重厚感のあるソファに腰掛けながら、身を預けながら、央叢の言葉。
「怪人関係の依頼ですか」
「ああ。ここひと月で5件。儲かるのは良いことなのだが、ここまで怪人関係の依頼が多いと表世界の異常性を感じずにはいられないな」
 央叢はタバコに火をつけた。
 美女の堕落した座り方にタバコというのは実に絵になる。
 先程まで、さっきまで、店内にいた母子は父親を怪人狩り組織に殺された遺族であった。この国の怪人に対するあり方は確かに異常と言えるものであり、怪人本人は酷いを簡単に、いとも容易く通り越してしまう度のすぎる虐待を受け、その攻撃は匿っていた家族や関係者まで及んでしまう。父親の個人情報から家族を割り出され、匿うものも同罪だと言わんばかりに攻撃を実行する。
 逃げる術は一つしかない。
 全てを捨てること。
 名前も何もかもを捨てること。
 追われる者は追われる要因となりかねない全ての要因を捨て去らなければならない。
 ボロボロになっていた母子もまた逃げ延びた先にここに辿り着いたのだろう。ここならば全てを捨てられると。
「類歌、お前も気を付けろよ」
「気を付けろって言われましても」
「お前は変なところで目立つからな、心配なんだ」
「なんですかそれ」
「まず見た目がもう独特だし、それにお前チョコレートをところ構わず食べる癖がある」
「まぁそうですね」
「あれはお前が思っているよりも目立っているぞ」
「チョコレートを食べているくらいなら、怪人とはバレないでしょう」
「どこからバレるかわからないから気を付けろという話だ馬鹿者」
「先輩はボクが怪人で怖くないんですか?」
「坂﨑類歌がただの人間だろうと、人よりも足が速い怪人であろうと、お前はお前だ。私の可愛い後輩だよ」
 央叢はボクに優しく微笑みかけた。
 先輩のそういうところが本当に好きです。
「さて、金も入ったし、メシでも行くか」
「はい、お供します」
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