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第二部
母の子守唄②
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突然、声が聞こえた。これは女神アールストゥの声だ。前に聞いたときよりずいぶん小さい声だ。
「はい! 聞こえます!」
「テオドール? 急に声を上げてどうした?」
周りを見れば不思議そうな顔の父や部下にリンカ嬢。どうやら俺にしか聞こえていないらしい。もしかして女神の力が弱り、全員に聞かせる力がないのだろうか。
"ああ、繋がって良かったテオドール… シャルロッテが邪な者たちと地下に向かっています。ごめんなさい。わたしに力がなくシャルロッテを助けられそうにないの。だから道を開けるからシャルロッテを助けに地下に向かってちょうだい…!"
「はい、もちろんです! 大切な妹です、絶対に助けて見せます! それから貴女様もです」
"わたしを? 助けに来てくれるというの? 邪悪で強力な相手よ。危ないわよ?"
「何をおっしゃいますか。母や妹や叔父や先祖もどんな状況でも頑張ってきたのです。俺も怯まずアールストゥ様をお守りします。邪悪な連中などに指一本触れさせません」
"…ふふ、頼もしい殿方になったのね。ステファナも喜ぶわ。じゃあ、お願いね、テオドール。シャルロッテとわたしを助けて"
「はい、必ず!」
女神の声は聞こえなくなった。前より衰弱しているように感じた。邪悪な者が迫っているのが関係あるのか、急がなければ2人とも間に合わないかもしれない。
「父上! 魔法陣は使えるようになっているのでしょう? 俺がシャルロッテと女神アールストゥ様を助けに行って参ります」
「今、女神様と会話していたのか。お前も母の血を引く女神のお役目を持つ者だ。女神様が助けを求めてきたのもうなずける」
「お役目は、俺は特にはありませんが…」
「そうなのか? そのあたりはステファナから詳しく聞いておらんが何かしらあるのではないのか? まあそれはそれとして、頼んだぞ。相手は危険な者たちであろう。精鋭を連れて行くといい」
「ならば俺の部下と、仲間たちで共に行きます」
テオドール王子はわたしに目を合わせて力強い笑みを浮かべた。信頼していると、目がはっきりと伝えている。
「おい、行くなら急げ。案内が済んだら用済みと王女が危険かも知れん。こちらも手を打っているが必ず守れると断言はできない」
魔王の発言にテオドール王子は目を丸くして驚いている。
手を打って…もしかして、ここにいないゲーデを王女に護衛としてつかせていたのだろうか?
「凄腕を貸してくれて感謝する。が、それならとっくに犯人がわかっていたのか? それどころか連れ去りを阻止できたんじゃないのか?」
それもそうだ、ゲーデの腕や目があれば巨悪と称された相手でも対処できたのでは?
「"神子"とやらを特定するため泳がせた。目星はつけているが確定情報が欲しい」
「誰なの?」
「お前も会った相手だ」
「わたしも会った相手? 城の中で?」
「答え合わせは、行けば分かる」
魔法陣にみんなの視線が集まる。
「私は地上で待つ。悔しいがこの身では足手まといだ。王位継承権を持つ者全てがひとつ所に集まるのも政の観点から宜しくないしな」
「はい、必ず全員無事に戻ります。シャルロッテも連れて。メトセラール公爵も文句を言いたいことが山とありますから引きずってでも連れ帰ります」
「ああ、それも生きて帰ってこそだな。必ず戻れ、テオドール」
「はい」
そうしてわたしたちは魔法陣へと乗ると輝き出した。光が魔法陣から溢れて視界が白く塗りつぶされると足元が消えた感覚があり、一行は亡き王妃の部屋から転移した。
「はい! 聞こえます!」
「テオドール? 急に声を上げてどうした?」
周りを見れば不思議そうな顔の父や部下にリンカ嬢。どうやら俺にしか聞こえていないらしい。もしかして女神の力が弱り、全員に聞かせる力がないのだろうか。
"ああ、繋がって良かったテオドール… シャルロッテが邪な者たちと地下に向かっています。ごめんなさい。わたしに力がなくシャルロッテを助けられそうにないの。だから道を開けるからシャルロッテを助けに地下に向かってちょうだい…!"
「はい、もちろんです! 大切な妹です、絶対に助けて見せます! それから貴女様もです」
"わたしを? 助けに来てくれるというの? 邪悪で強力な相手よ。危ないわよ?"
「何をおっしゃいますか。母や妹や叔父や先祖もどんな状況でも頑張ってきたのです。俺も怯まずアールストゥ様をお守りします。邪悪な連中などに指一本触れさせません」
"…ふふ、頼もしい殿方になったのね。ステファナも喜ぶわ。じゃあ、お願いね、テオドール。シャルロッテとわたしを助けて"
「はい、必ず!」
女神の声は聞こえなくなった。前より衰弱しているように感じた。邪悪な者が迫っているのが関係あるのか、急がなければ2人とも間に合わないかもしれない。
「父上! 魔法陣は使えるようになっているのでしょう? 俺がシャルロッテと女神アールストゥ様を助けに行って参ります」
「今、女神様と会話していたのか。お前も母の血を引く女神のお役目を持つ者だ。女神様が助けを求めてきたのもうなずける」
「お役目は、俺は特にはありませんが…」
「そうなのか? そのあたりはステファナから詳しく聞いておらんが何かしらあるのではないのか? まあそれはそれとして、頼んだぞ。相手は危険な者たちであろう。精鋭を連れて行くといい」
「ならば俺の部下と、仲間たちで共に行きます」
テオドール王子はわたしに目を合わせて力強い笑みを浮かべた。信頼していると、目がはっきりと伝えている。
「おい、行くなら急げ。案内が済んだら用済みと王女が危険かも知れん。こちらも手を打っているが必ず守れると断言はできない」
魔王の発言にテオドール王子は目を丸くして驚いている。
手を打って…もしかして、ここにいないゲーデを王女に護衛としてつかせていたのだろうか?
「凄腕を貸してくれて感謝する。が、それならとっくに犯人がわかっていたのか? それどころか連れ去りを阻止できたんじゃないのか?」
それもそうだ、ゲーデの腕や目があれば巨悪と称された相手でも対処できたのでは?
「"神子"とやらを特定するため泳がせた。目星はつけているが確定情報が欲しい」
「誰なの?」
「お前も会った相手だ」
「わたしも会った相手? 城の中で?」
「答え合わせは、行けば分かる」
魔法陣にみんなの視線が集まる。
「私は地上で待つ。悔しいがこの身では足手まといだ。王位継承権を持つ者全てがひとつ所に集まるのも政の観点から宜しくないしな」
「はい、必ず全員無事に戻ります。シャルロッテも連れて。メトセラール公爵も文句を言いたいことが山とありますから引きずってでも連れ帰ります」
「ああ、それも生きて帰ってこそだな。必ず戻れ、テオドール」
「はい」
そうしてわたしたちは魔法陣へと乗ると輝き出した。光が魔法陣から溢れて視界が白く塗りつぶされると足元が消えた感覚があり、一行は亡き王妃の部屋から転移した。
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