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第六章 王立学院サフラン・ブレイバード編
第96話 お幸せに
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合同実技の一件を経て。
テオネスはAクラスの人気者になっていた。
容姿端麗、頭脳明晰。強くて優しい彼女に惹かれる男子も多く、放課後に呼び出される事も少なくない。
その度に断わり、辛そうな顔をして帰る男子の皆様。
今日もまた、罪を重ねたテオネスであった。
「これで15回目だよ!もうやだー!」
盛大に愚痴を零すテオネス。
好きでも嫌いでもない人からの告白だからな。
傍から聞けば自慢話だけど。
「いいじゃないか、俺なら嬉しい」
「お兄は浮気性だからそう思うだけだよ。私からすれば、鬱陶しいこと上ない」
「クラスに好きな人いないのか?」
「いない…わけじゃない」
おおっとぉー!
テオネスが頬を赤らめて恥じらっている。
この反応はいるって事ですね。
妹に恋が芽生えるとは、やはり学校生活はいいものだ。
して誰か。
テオネスのことだから地雷男は選ばないだろうけど、変な男なら全力で止めに入るぞ。
お兄ちゃん許さないから(どの口が言う)。
「誰が好きなの?教えて教えて」
「ハル…」
たしか合同実技の時に、テオネスの横にいた子だ。
私見だが、Aクラスでも異質な力を持っていると感じた。
あの時は赤黒い魔力に覆われていたせいで、姿形がよく分からなかったし、言動もやる気を感じさせなかったけど、優しい子だとは思った。
当時、避けられていたテオネスの傍で、一緒に本を読み、休み時間もよく一緒にいたと聞いている。
そんな彼を好きになったと。
純粋無垢な乙女のようだ。
「告白すべきだ!お前は高嶺の花なんだし、ハル君も拒否しないと思う」
「いや…告白はしたんだ」
「したのか。で、返事は?」
「無言でキスされて、ちょっと触られて、返事をくれなかった」
あ?んだその男。
なぜ返事をしない。
ナルシスト気質にも程があろうよ。
可哀想な妹の扱いにイライラが止まらない。
「あ!でも時々、家に来てキスしてくれるの。もうこれって好きみたいなもんだよね」
「来てたの知らないんだけど…」
「お兄ちゃんが居ない時だけ来るよ。昨日も来てた」
コソコソしやがって。
さては俺の目を掻い潜って、テオネスを辱めてるんじゃなかろうか。
そんな輩、生かしておけんな。
---
テオネスがハルと別れた後を狙って、彼に接触を図る。
どういう関係なのか、洗いざらい吐いてもらう。
Aクラスの前で待機し、ハルが出てくるのを待つ。
「あれ、テオネスのお兄さんじゃないですか?」
遠くから可愛い女の子の声がした。
目を凝らすと、集団で固まる女子生徒達がいた。
たちまち駆け寄ってくる女子生徒達に、俺は一瞬にして囲まれ、身動きが取れなくなりました。
「どうしたら強くなれますか!」
「フリーですか!?なら私と――」
「頭良いって聞きましたよ。勉強教えてください」
「テオネスは家だとどんな感じなんですか?やっぱ勉強漬けですか?」
「缶切り無くて…剣、貸して下さい」
好き勝手かつ一方的に話す少女達。
剣も奪われ、高名な剣は缶切りに使われた。
中から出てきた桃を爪楊枝に刺して、俺に渡してきた。
食べますけども。うん、普通。
缶詰だもの。
「ところで、お兄さんはどうしてここに?」
「ああ、ハルって子に用事があって」
「ハルなら行っちゃいましたよ?」
呑気にしてる場合じゃなかった。
早く向かわないと。
「ありがとう!じゃ!」
俺は一目散に駆け出した。
どっちに向かったは分からないが、とにかく彼女達から離れたかった。
質問責めにあうだけで、深く関わってもロクな事にならない。
剣は置き去りだ。後で取りに来ればいい。
校舎内を走り回っていると、ルピナスに首根っこ掴まれ止められた。
理事長に見つかるとは運が無い。
「どこへ行こうというのかね」
「えっとぉ…知り合いを探しに」
「反省文。楽しみにしてるよ」
ちくしょう。
ルピナスに紙を渡されてしまった。
手荷物になるし、記されている内容は恥そのもの。
誰にも見せられない。
屋上へ来た。
何度来ても、見晴らしのいい所だと思う。
キャッキャと、楽しそうな話し声が聞こえ、陰に隠れた。
男の子と女の子の声だ。
こっそり覗くと、テオネスと話す、薄い青色の髪をした少年に目が行った。
その髪は耳に届くまでの長さしかなく、小まめに手入れされた質感を持ち、風が吹く度ふわふわとなびく。
爽やかな顔をした少年だ。
「ねぇハル。卒業したら何になりたい?」
テオネスが少年をハルと呼んだ。
そして、夢を尋ねた。
あの少年がそうなのか。
ハルは、この質問に乗り気じゃない雰囲気を出している。
「うーん…ぼくは軍属でいいかなーって思ってる」
「えー!それは夢が無いよ!どうせなら、もっとこう、花のある職業にしなよ」
「て言ってもなぁ…何があるかな」
「…私と旅しない?」
空気が変わった。
テオネスから滲み出た提案は、暗くなりかけていたハルの表情を明るくした。
「それってどういう…」
「だーかーらぁー。私と一緒に、世界中を旅しようって言ってるの。ほら、世の中暗い話ばかりでしょ?誰々が誘拐されただの、殺されただの、圧政がどうのこうの。息苦しいったらありゃしない。夢見る少年少女達の希望なんて、大層なものになる気は無いよ。でもね、少しは憧れるんだよ。対価を貰わずに正義を掲げる…勇者?的なやつに。私一人じゃ叶えられっこないけど、ハルと一緒なら叶えられる気がする」
「旅って言っといて、結局は人助けじゃないか」
「だね。でも、素敵な夢じゃない?」
「うん…キミにピッタリだ」
嬉々として夢を語るテオネス。
ハルは苦笑しつつも、その顔はどこか嬉しそうだった。
俺には明かさなかった夢を彼には明かした。
真の意味で、好きな人と共に在りたいという心の現れ。
尊敬してしまうほど…真っ直ぐな告白だ。
「テーオーネースー!」
校庭からテオネスの名を叫ぶ声が聞こえた。
「待ってー!今行くー!じゃ、待たね!」
テオネスは柵を飛び越し、魔術を使って校庭へ一直線に向かって行った。
一人取り残されたハルの周りは、嵐が過ぎ去った後のような静けさがあり、彼の後ろ姿は寂しさを感じさせた。
もう少し話していたかったと。口には出来ない、哀愁を漂わせながら。
「コソコソと…いつまで隠れてるんです?」
ハルの言葉に、背筋がピーンと伸びた。
気づいてたのか。
「はぁ…苦手なんだよな。他人の恋路を覗くの」
「それで、どういったご要件で?」
「んあー…テオネスの事、どう思ってんのかなって」
「……………」
「あ、悪い。変な質問だったよな」
「好きですよ」
「へ?」
「大好きです…」
じゃあなんで告白を断ったんだよ、と。
思わず叫んでしまいそうだったが、胸の内に留めた。
ただでさえテオネスの知らないところで、勝手に動いているんだ。
バレたら嫌われる。
深呼吸をして、真面目な表情を作った。
「テオネスを振った理由について教えてくれ」
二人の様子を見ていると、恋人でないことが信じられない。
テオネスが明確に好きと言ったのは、今までに無い。
俺は言われたことあるけど、俺は兄だ。ノーカウント。
他人の異性には初めてだ。
ハルは神妙な面持ちで答える。
「ぼく…もうすぐ死ぬんです。後6年ほどで」
その言葉を聞いた瞬間、心にぽっかりと穴が空いた気がした。
同時に頭を駆け巡ったのは、理由を聞きたいけど聞きたくない。そんな冷たい感情。
テオネスはこの事を知らないで、ハルとの未来を掴もうとしたんだ。
なんだ…。
なんなんだこの気持ちは。
自分には関係ないのに。胸が…張り裂けそうだ…。
「病気…なのか?」
「少し違います。正確には、ぼくが持つ魔力に原因があるんです。お兄さんなら、わかるんじゃないんですか?」
「黒い魔力か」
「そうです。天壊人と同じ、漆黒の魔力です」
「違う!お前のは赤黒い魔力だ…」
「その成れの果てが天壊人です」
ハルは何もかも諦めた顔をしている。
天穹守護と天壊人。あの本には、重要な一説が抜けている。
それは。
[天壊人の一族は既に滅んでいるが、その末裔は今も存命している]
これが抜けている。
つまり、ハルがその末裔。
気味が悪いほどの禍々しい魔力は、天壊人の血が色濃く出たもの。
不幸にも彼は選ばれた。
天壊人の後継者に。
「学校生活も意外と悪くなかった。テオネスとも出逢えましたし」
その言葉に、俺はカチンときた。
理由は不明。
しかし、突如湧いて出た歯止めの効かない怒りが、口を動かした。
「死ぬって分かってたらさ、普通、好き勝手に生きるもんじゃないのか?昼夜問わず遊び回ったり、飲み歩いたり、楽しい事づくめにしたって誰も文句言わないだろ。短い生涯、その残りを学校で消費するなんて、絶対におかしい。だってそうだろ。ここは教育機関で、校則に縛られた自由しか無いんだから。唯一利点を挙げるとするならば、想い人と出逢えること。でもそれは、ハルにとって辛いものだろ。すぐに離れ離れになっちゃうんだぞ。自分は死ぬからいいやってか。ふざけんな。死に別れなんて真っ平御免だ。んなこと、誰だって思う。テオネスだって…いや、テオネスなら尚更そう思うはずだ。お前が好きだって、ハルが好きだって、楽しそうに話してたんだよあいつ。キスしてくれたことも、触ってくれたことだって、あいつにとっては人生の1ページに過ぎない。だけどな。その1ページは決して破れないんだよ。インクを垂らして真っ黒に染めてしまえば、何時までもその黒がチラつく。上書き出来ない色に生涯テオネスは苦しめられる。責任取れよ。あいつはお前が好きで、お前はあいつが好きなんだろ。両想いなんだろ。だったら、最後の瞬間まで傍に居てやってくれよ。頼むよ…」
ついムキになって言ってしまった。
キミのお兄さんって五月蝿いねと、陰で言われてもおかしくない。
あー、言わなきゃ良かった。
せっかく、仲良くなれそうだったのにな。
ハルは視線を落とし、何かを考えながら、ゆっくりと口を開いた。
「テオネスは辛くないでしょうか…」
「お前が笑顔で過ごしてるうちはな」
「ぼくはテオネスの足枷にならないでしょうか…」
「よく分かんねぇから、勝手な解釈で言うぞ。実力を隠すな。お前があいつを守れ」
「あと…6年なんですよ…?」
「その間にテオネスの記憶に刻み込め。この人と出逢えてよかったと、そう思って貰えるように」
「ぼくはテオネスが好きです…」
「ああ、知ってる」
「だからこそ…あの子とは――」
「ウジウジするな!欲望に身を任せろ!女の子はな、嫌なら嫌ってハッキリ言うんだよ。少なくとも、テオネスは嫌がってない。むしろ嬉しかったってさ」
「…ッ!」
「やっと顔が明るくなったな。時間かかりすぎだ…」
ハルの瞳からは一筋の涙が零れていた。
なんだよ。ちゃんと好きだったんじゃないか。
嘘偽りの無い涙だ。
「家に入ってすぐ右横。白い壁に隠し扉を作ってある。その中に鍵のかかった箱がある。解除ナンバーは104。輪ゴム入ってるから勝手に使っていい。くれぐれも、自分で持ってきたと言うように」
「それって…まずいんじゃ」
「不味くならないようにする為の道具だ」
「えっ…えぇ!?は…はい!」
オロオロしながらも、ハルは元気よく返事をした。
果たして、純情そうな彼が使うのかは定かでは無い。
そっちの気は無いかもしれないから。
---
しばらくして。
「でさー!夏になったらハルと海に行くの!わざわざ水着も用意してくれたんだ!しかもサイズピッタリ。どこで調べたんだろ?」
一件以降、ハルの話が止まらない。
テオネスのスリーサイズは事前に調べて教えた。
露骨に気味悪がった顔をハルに向けられたが、彼が知りたいと言ったから教えたのだ。
お陰でテオネスは上機嫌だし、良い方向に向かっていると思う。
俺が首を突っ込まなくても、海には行けただろう。
しかし。
(一応見ておきますか…)
定期的に箱の中の在庫調査をしている。
リーズに頼んで、俺が使用する分は自室に置くことにした。
ゆえに、この箱自体はハルとテオネスの物。
あの日以来、彼とは顔を合わせていないが、我が家には高頻度で来てるらしい。
俺が居る時は来てくれないか。
まぁいいや、お目当てはテオネスだし。
「だよな…」
そして、箱の中身は減っていた。
テオネスはAクラスの人気者になっていた。
容姿端麗、頭脳明晰。強くて優しい彼女に惹かれる男子も多く、放課後に呼び出される事も少なくない。
その度に断わり、辛そうな顔をして帰る男子の皆様。
今日もまた、罪を重ねたテオネスであった。
「これで15回目だよ!もうやだー!」
盛大に愚痴を零すテオネス。
好きでも嫌いでもない人からの告白だからな。
傍から聞けば自慢話だけど。
「いいじゃないか、俺なら嬉しい」
「お兄は浮気性だからそう思うだけだよ。私からすれば、鬱陶しいこと上ない」
「クラスに好きな人いないのか?」
「いない…わけじゃない」
おおっとぉー!
テオネスが頬を赤らめて恥じらっている。
この反応はいるって事ですね。
妹に恋が芽生えるとは、やはり学校生活はいいものだ。
して誰か。
テオネスのことだから地雷男は選ばないだろうけど、変な男なら全力で止めに入るぞ。
お兄ちゃん許さないから(どの口が言う)。
「誰が好きなの?教えて教えて」
「ハル…」
たしか合同実技の時に、テオネスの横にいた子だ。
私見だが、Aクラスでも異質な力を持っていると感じた。
あの時は赤黒い魔力に覆われていたせいで、姿形がよく分からなかったし、言動もやる気を感じさせなかったけど、優しい子だとは思った。
当時、避けられていたテオネスの傍で、一緒に本を読み、休み時間もよく一緒にいたと聞いている。
そんな彼を好きになったと。
純粋無垢な乙女のようだ。
「告白すべきだ!お前は高嶺の花なんだし、ハル君も拒否しないと思う」
「いや…告白はしたんだ」
「したのか。で、返事は?」
「無言でキスされて、ちょっと触られて、返事をくれなかった」
あ?んだその男。
なぜ返事をしない。
ナルシスト気質にも程があろうよ。
可哀想な妹の扱いにイライラが止まらない。
「あ!でも時々、家に来てキスしてくれるの。もうこれって好きみたいなもんだよね」
「来てたの知らないんだけど…」
「お兄ちゃんが居ない時だけ来るよ。昨日も来てた」
コソコソしやがって。
さては俺の目を掻い潜って、テオネスを辱めてるんじゃなかろうか。
そんな輩、生かしておけんな。
---
テオネスがハルと別れた後を狙って、彼に接触を図る。
どういう関係なのか、洗いざらい吐いてもらう。
Aクラスの前で待機し、ハルが出てくるのを待つ。
「あれ、テオネスのお兄さんじゃないですか?」
遠くから可愛い女の子の声がした。
目を凝らすと、集団で固まる女子生徒達がいた。
たちまち駆け寄ってくる女子生徒達に、俺は一瞬にして囲まれ、身動きが取れなくなりました。
「どうしたら強くなれますか!」
「フリーですか!?なら私と――」
「頭良いって聞きましたよ。勉強教えてください」
「テオネスは家だとどんな感じなんですか?やっぱ勉強漬けですか?」
「缶切り無くて…剣、貸して下さい」
好き勝手かつ一方的に話す少女達。
剣も奪われ、高名な剣は缶切りに使われた。
中から出てきた桃を爪楊枝に刺して、俺に渡してきた。
食べますけども。うん、普通。
缶詰だもの。
「ところで、お兄さんはどうしてここに?」
「ああ、ハルって子に用事があって」
「ハルなら行っちゃいましたよ?」
呑気にしてる場合じゃなかった。
早く向かわないと。
「ありがとう!じゃ!」
俺は一目散に駆け出した。
どっちに向かったは分からないが、とにかく彼女達から離れたかった。
質問責めにあうだけで、深く関わってもロクな事にならない。
剣は置き去りだ。後で取りに来ればいい。
校舎内を走り回っていると、ルピナスに首根っこ掴まれ止められた。
理事長に見つかるとは運が無い。
「どこへ行こうというのかね」
「えっとぉ…知り合いを探しに」
「反省文。楽しみにしてるよ」
ちくしょう。
ルピナスに紙を渡されてしまった。
手荷物になるし、記されている内容は恥そのもの。
誰にも見せられない。
屋上へ来た。
何度来ても、見晴らしのいい所だと思う。
キャッキャと、楽しそうな話し声が聞こえ、陰に隠れた。
男の子と女の子の声だ。
こっそり覗くと、テオネスと話す、薄い青色の髪をした少年に目が行った。
その髪は耳に届くまでの長さしかなく、小まめに手入れされた質感を持ち、風が吹く度ふわふわとなびく。
爽やかな顔をした少年だ。
「ねぇハル。卒業したら何になりたい?」
テオネスが少年をハルと呼んだ。
そして、夢を尋ねた。
あの少年がそうなのか。
ハルは、この質問に乗り気じゃない雰囲気を出している。
「うーん…ぼくは軍属でいいかなーって思ってる」
「えー!それは夢が無いよ!どうせなら、もっとこう、花のある職業にしなよ」
「て言ってもなぁ…何があるかな」
「…私と旅しない?」
空気が変わった。
テオネスから滲み出た提案は、暗くなりかけていたハルの表情を明るくした。
「それってどういう…」
「だーかーらぁー。私と一緒に、世界中を旅しようって言ってるの。ほら、世の中暗い話ばかりでしょ?誰々が誘拐されただの、殺されただの、圧政がどうのこうの。息苦しいったらありゃしない。夢見る少年少女達の希望なんて、大層なものになる気は無いよ。でもね、少しは憧れるんだよ。対価を貰わずに正義を掲げる…勇者?的なやつに。私一人じゃ叶えられっこないけど、ハルと一緒なら叶えられる気がする」
「旅って言っといて、結局は人助けじゃないか」
「だね。でも、素敵な夢じゃない?」
「うん…キミにピッタリだ」
嬉々として夢を語るテオネス。
ハルは苦笑しつつも、その顔はどこか嬉しそうだった。
俺には明かさなかった夢を彼には明かした。
真の意味で、好きな人と共に在りたいという心の現れ。
尊敬してしまうほど…真っ直ぐな告白だ。
「テーオーネースー!」
校庭からテオネスの名を叫ぶ声が聞こえた。
「待ってー!今行くー!じゃ、待たね!」
テオネスは柵を飛び越し、魔術を使って校庭へ一直線に向かって行った。
一人取り残されたハルの周りは、嵐が過ぎ去った後のような静けさがあり、彼の後ろ姿は寂しさを感じさせた。
もう少し話していたかったと。口には出来ない、哀愁を漂わせながら。
「コソコソと…いつまで隠れてるんです?」
ハルの言葉に、背筋がピーンと伸びた。
気づいてたのか。
「はぁ…苦手なんだよな。他人の恋路を覗くの」
「それで、どういったご要件で?」
「んあー…テオネスの事、どう思ってんのかなって」
「……………」
「あ、悪い。変な質問だったよな」
「好きですよ」
「へ?」
「大好きです…」
じゃあなんで告白を断ったんだよ、と。
思わず叫んでしまいそうだったが、胸の内に留めた。
ただでさえテオネスの知らないところで、勝手に動いているんだ。
バレたら嫌われる。
深呼吸をして、真面目な表情を作った。
「テオネスを振った理由について教えてくれ」
二人の様子を見ていると、恋人でないことが信じられない。
テオネスが明確に好きと言ったのは、今までに無い。
俺は言われたことあるけど、俺は兄だ。ノーカウント。
他人の異性には初めてだ。
ハルは神妙な面持ちで答える。
「ぼく…もうすぐ死ぬんです。後6年ほどで」
その言葉を聞いた瞬間、心にぽっかりと穴が空いた気がした。
同時に頭を駆け巡ったのは、理由を聞きたいけど聞きたくない。そんな冷たい感情。
テオネスはこの事を知らないで、ハルとの未来を掴もうとしたんだ。
なんだ…。
なんなんだこの気持ちは。
自分には関係ないのに。胸が…張り裂けそうだ…。
「病気…なのか?」
「少し違います。正確には、ぼくが持つ魔力に原因があるんです。お兄さんなら、わかるんじゃないんですか?」
「黒い魔力か」
「そうです。天壊人と同じ、漆黒の魔力です」
「違う!お前のは赤黒い魔力だ…」
「その成れの果てが天壊人です」
ハルは何もかも諦めた顔をしている。
天穹守護と天壊人。あの本には、重要な一説が抜けている。
それは。
[天壊人の一族は既に滅んでいるが、その末裔は今も存命している]
これが抜けている。
つまり、ハルがその末裔。
気味が悪いほどの禍々しい魔力は、天壊人の血が色濃く出たもの。
不幸にも彼は選ばれた。
天壊人の後継者に。
「学校生活も意外と悪くなかった。テオネスとも出逢えましたし」
その言葉に、俺はカチンときた。
理由は不明。
しかし、突如湧いて出た歯止めの効かない怒りが、口を動かした。
「死ぬって分かってたらさ、普通、好き勝手に生きるもんじゃないのか?昼夜問わず遊び回ったり、飲み歩いたり、楽しい事づくめにしたって誰も文句言わないだろ。短い生涯、その残りを学校で消費するなんて、絶対におかしい。だってそうだろ。ここは教育機関で、校則に縛られた自由しか無いんだから。唯一利点を挙げるとするならば、想い人と出逢えること。でもそれは、ハルにとって辛いものだろ。すぐに離れ離れになっちゃうんだぞ。自分は死ぬからいいやってか。ふざけんな。死に別れなんて真っ平御免だ。んなこと、誰だって思う。テオネスだって…いや、テオネスなら尚更そう思うはずだ。お前が好きだって、ハルが好きだって、楽しそうに話してたんだよあいつ。キスしてくれたことも、触ってくれたことだって、あいつにとっては人生の1ページに過ぎない。だけどな。その1ページは決して破れないんだよ。インクを垂らして真っ黒に染めてしまえば、何時までもその黒がチラつく。上書き出来ない色に生涯テオネスは苦しめられる。責任取れよ。あいつはお前が好きで、お前はあいつが好きなんだろ。両想いなんだろ。だったら、最後の瞬間まで傍に居てやってくれよ。頼むよ…」
ついムキになって言ってしまった。
キミのお兄さんって五月蝿いねと、陰で言われてもおかしくない。
あー、言わなきゃ良かった。
せっかく、仲良くなれそうだったのにな。
ハルは視線を落とし、何かを考えながら、ゆっくりと口を開いた。
「テオネスは辛くないでしょうか…」
「お前が笑顔で過ごしてるうちはな」
「ぼくはテオネスの足枷にならないでしょうか…」
「よく分かんねぇから、勝手な解釈で言うぞ。実力を隠すな。お前があいつを守れ」
「あと…6年なんですよ…?」
「その間にテオネスの記憶に刻み込め。この人と出逢えてよかったと、そう思って貰えるように」
「ぼくはテオネスが好きです…」
「ああ、知ってる」
「だからこそ…あの子とは――」
「ウジウジするな!欲望に身を任せろ!女の子はな、嫌なら嫌ってハッキリ言うんだよ。少なくとも、テオネスは嫌がってない。むしろ嬉しかったってさ」
「…ッ!」
「やっと顔が明るくなったな。時間かかりすぎだ…」
ハルの瞳からは一筋の涙が零れていた。
なんだよ。ちゃんと好きだったんじゃないか。
嘘偽りの無い涙だ。
「家に入ってすぐ右横。白い壁に隠し扉を作ってある。その中に鍵のかかった箱がある。解除ナンバーは104。輪ゴム入ってるから勝手に使っていい。くれぐれも、自分で持ってきたと言うように」
「それって…まずいんじゃ」
「不味くならないようにする為の道具だ」
「えっ…えぇ!?は…はい!」
オロオロしながらも、ハルは元気よく返事をした。
果たして、純情そうな彼が使うのかは定かでは無い。
そっちの気は無いかもしれないから。
---
しばらくして。
「でさー!夏になったらハルと海に行くの!わざわざ水着も用意してくれたんだ!しかもサイズピッタリ。どこで調べたんだろ?」
一件以降、ハルの話が止まらない。
テオネスのスリーサイズは事前に調べて教えた。
露骨に気味悪がった顔をハルに向けられたが、彼が知りたいと言ったから教えたのだ。
お陰でテオネスは上機嫌だし、良い方向に向かっていると思う。
俺が首を突っ込まなくても、海には行けただろう。
しかし。
(一応見ておきますか…)
定期的に箱の中の在庫調査をしている。
リーズに頼んで、俺が使用する分は自室に置くことにした。
ゆえに、この箱自体はハルとテオネスの物。
あの日以来、彼とは顔を合わせていないが、我が家には高頻度で来てるらしい。
俺が居る時は来てくれないか。
まぁいいや、お目当てはテオネスだし。
「だよな…」
そして、箱の中身は減っていた。
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加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
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とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
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#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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