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第六章 王立学院サフラン・ブレイバード編
第100話 今年は夏が暑い
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本格的に暑くなってきた。
暑い暑い。肌は焼けてヒリヒリするし、汗が止まらない。
肌はクリームを塗ればなんとかなるけど、汗は乾いてすぐ、ぺたぺたと変な感触が残るので嫌だ。
ケルヴ村はこんなに暑くなかった。
地面に石が敷かれているだけで、こうも照り返しが強くなるのか。
外と違い、教室は蒸し暑くてジメジメする。
人数が多いクラスはご愁傷様。うちのクラスは3人なのが救いだな。
隣と席が離れてるし、風通しもいい。
最高の学習環境と言えるだろう。
しかし。しかしだ。
それでも暑いものは暑い。
夏嫌い。
冬になったら冬嫌い言うんだろうな。
丁度いい気候でしか生きられない体質。
贅沢な体質だ。
他のクラスはどう過ごしているのか気になり、まず初めにAクラスを覗いて見たら、恐ろしいほど暑かった。
何故こんなにも暑いのか。
Aクラス一同、殺伐としてるし何かあったのか。
あったのだ。
こんなクソ暑い中、イチャつくカップルが居たからだ。
「ねー、くすぐったいよー」
「テオネスのお腹触るの好きなんだよ」
「やだなー。太ったのバレちゃうじゃん」
「モチモチで面白い」
「やめてよもぉー!」
なんて言いつつ、テオネスはハルの膝の上から動こうとしないのである。
このバカップルが発熱機構となっている。
殺意沸くよな。
同情するぜAクラス。
---
Bクラス一組。
ミラの居るクラスだ。
妙に教室が暗い。
てか真っ暗だ。何も見えない。
風通しが俺のクラスよりも良く、日差しが入ってこないから室温が急激に下がっている。
涼し過ぎる。
「どうなってんのこれ?」
「私の魔術で作ったのよ。ほら、黒い糸出すやつ」
「あったような無かったような…」
「まだ思い出せないの?私の事嫌いになった?ねぇねぇねぇねぇ」
ミラに激しく揺さぶられた。
教室が暗くて顔は見えなかったが、怒ってるのはわかった。
教室を出た瞬間、腰に鈍い痛みを感じた。
ミラのやつ、ナイフの玩具を投げてきやがった。
---
Bクラス二組。
ここにはリーズが居る。
我が愛しの妻でございます。
何の変哲もない普通のクラスで、真面目そうな子が多い印象を受ける。
リーズは人当たりのいい性格をしているから、男女問わず、よく恋愛相談を受けるらしい。
結婚してるのに、男子から邪な目で見られることもしばしば。
男子には積極的にいくようにとアドバイスして、女子には男なんて勝手に寄ってくるとアドバイス。
これだと、リーズは男子なのでは?と思うだろう。
実際俺もそう思って尋ねてみたことがあるが、時間帯が夜だったので、夜テンションで頬をひっぱたかれた。
これが答えだと言わんばかりに。
椅子に座りながら足を組み、男子と仲良く話をしているリーズ。
体のラインが強調された服を着ていて、胸に目がいってしまう。
くびれた腰は手で摩りたくなる。
と、男子の視線がそう言っている。
じばくぞ。
「仲良いんだね…」
「そうかなぁ。普通だよ」
「天然たらしめ」
「なになに、嫉妬?可愛いんだけど」
自覚が無いらしい。
それに、俺はおちょくられているようだ。
リーズがニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべていたから、なんとなくそう感じた。
---
太陽が一番高い位置に昇る時間。
もはや灼熱地獄。
汗が絶え間なく流れ、一瞬で乾き、また出るの繰り返しである。
ルリアはシャツ一枚になった。
シャツに汗が染み込んでいて、中に着ている青い下着が透けている。
水筒の水を飲む姿は、刺激的過ぎて直視できない。
「ライネルも飲む?」
「ちょっと貰うわ」
ルリアに水筒を渡された。
少しだけのつもりだったが、半分ぐらい飲んでしまった。
味は甘塩っぱい飲料水。
変わった味だけど美味しかった。
「あちぃ…」
こんな中、通常通り授業をするなんて正気じゃない。
植物もなにも燃えてなくなるだろ。
窓から見える校庭は歪んでいて、鉄格子に触って火傷する生徒すらいた。
いずれ死者が出るぞ。
「だらしないぞお前ら。もっとシャキッとしろ、若いんだから」
一人だけ。セスティーだけは涼しそうな顔をしていた。
むしろ元気いっぱいだ。
「暑くないんですか?」
「このぐらいへっちゃらだ。わたしは魔族だからな」
「魔族って暑さに強いんですか?」
「人によるな。わたしは魔族でも龍族寄りの種族だ。暑さはもとより火に強い」
セスティーは納得の説明をしてくれた。
セスティーは火属系魔術の使い手で、火を纏って戦うこともある。
熱さに慣れてないと出来ない芸当だ。
彼女は夏が好きなのかもしれない。
「ライネル…テオネスを膝に乗せてた男について何か知らないか?」
リードが顔だけこちらに向けて、机の上に溶けた状態で言った。
嫉妬と不安が入り交じった顔だ。
「彼氏だよ。テオネスから告白したんだってさ」
「はぁ!?僕聞いてないよ!隠してたのか?そうだろ!絶対にそうだ!ちょっとAクラス行ってくる!」
「待て待て待て」
自己解決して、前が見え無くなったリードを羽交い締めにして止めた。
「離せ裏切り者」と言われたが、いつ俺が協力者になった。
俺はテオネスの味方だ。
あんな感じでも、俺はあの二人を応援しなければならない立場にある。
「暑苦しいなぁもう」
ルリアが呆れた様子で言った。
「君には関係無い!」
「そもそもさ。リードがあの子と一緒にいるとこ、見たことないよ。入学当初、テオネスが冷たい視線を浴びてた時だって、キミは態度に示すだけで何もしなかったもんね。後になって君が好きだーってアピールしたってさ、テオネスが振り向くわけなくない?だから取られたんだよ」
「そんなわけ…」
「あるんだなこれが。一番居て欲しい時に居ない人間なんて、端から眼中に無いよ」
ルリアが鋭い口調でリードを追い詰めた。
この話は俺にも向けられている。
「ルリアの…言う通りかもしれない」
リードは冷静になり、自分の席に戻った。
そして机に突っ伏した。
今は頭を冷やすのが吉。
---
理事長室。
ここは学院内のどこよりも綺麗だ。
煌びやかな装飾品は無いけど、壁に飾られた一本の剣が部屋全体を明るく見せている。
扉の横にある花瓶には白紫の花が入っていて、今は蕾となっている。
ルピナスに呼ばれて来たのだが、当の本人が見当たらない。
俺は一人、椅子に座って待っていた。
しかし、ただ待っているのも退屈だ。
物色してみようか。
勝手にルピナスの机の引き出しを開けた。
中には入学願書などの資料や、何かの調査書が入っていた。
調査書には、一部の生徒の能力について、事細かく書かれていた。
そこには俺も書かれていた。
成績上位者のみの記述。
それ以外は無い。
「変わった趣味を持っているね」
聞き覚えのある声だ。多分待ち望んでいた人のはず。
俺の肩に力強い手を乗せる人が。
戒めるように、俺の顔に自身の顔を近ずける人が。
俺の髪に触れるその女性は、ルピナスだった。
「ヒグッ!」
驚き過ぎてしゃっくりが出てしまった。
冷や汗をかきつつ、深呼吸する。
よし、治まった。
「私の机で致してたのかな?」
「どこをどう見たらそう見えるのでしょうか。それより、俺が呼ばれた理由は?わざわざ理事長室に呼ぶくらいですから、極秘ですよね」
「いかにも。君には風紀部の内部調査を頼みたい」
「風紀部?初めて聞きましたけど」
「細かいことは後ほど説明する。報酬も払う。やってくれるか?」
「喜んで」
わけが分からないまま、俺は快諾した。
この人、お金くれるんだもん。
やるしかないでしょ。
---リーズ視点---
コルチカム先生に理事長室の様子を見てきて欲しいと頼まれた。
普段の落ち着きある顔では無く、怒っているような顔をしていて、全身汗だくで息を切らしていた。
なぜに今。
自分で見に行けばいいのに。
コルチカム先生によると、ライネルはルピナス理事長と話をしているらしい。
畏れ多くも理事長室で。
ここがポイント。コルチカム先生が私に見てくるよう頼んだ理由だ。
極秘資料は全て理事長室に眠っていて、一般生徒は入る事が出来ない。
内部情報を持ち出される可能性があるから。
他国に売ったら金貨数百、或いは数千枚の値はつく。
それほどの価値が、あの一室に収められている。
なのに、ルピナス理事長はライネルを招いた。
雑用を頼もうとしているのではと、コルチカム先生は推測していたけど、自身の推理に納得がいってないようで、その瞳は疑念を映していた。
でも確かに変だ。
雑用を頼むなら内密にする必要なんてない。
私に隠れて何してるのかな。
隠れてといえばセスティーもだ。
あの人はライネルに告白した。
うちのクラスメイトが、放課後Sクラスの前を通った時、セスティーに押し倒されたライネルを目撃している。
なんなら舐めたらしいね。
教師の務めを放棄して何してんのさ。
「なんかイライラしてきた…」
人の男に手を出して、平気な顔してる連中はなんなんだろう。
寝とられる身にもなって欲しい。
ミラといい、セスティーといい、みんな節操が無い。
ミラはライネルに好意をもたれていたけど、今はそうじゃない。
理由は分からないけど、ライネルの記憶からミラとの思い出が消失したらしい。
テオネスから聞いた。
神聖国であった事件が関与してるかもって言ってたけど…。
セスティーはあんなにライネルを嫌っていたのに、どうしちゃったの。
ストレス?年齢的な焦り?人肌が恋しいの?
どれでもいいけどさ、ライネルに触れないで欲しい。
もう私の夫なの。
私のモノなの。
誰にも渡すもんか。
そうこうしてるうちに理事長室の前へ着いた。
二人に気付かれないように、理事長室に入らなければならない。
そんなの不可能だ。
しかし、それを可能にする装置を渡られた。
それがこの[透過侵略制裁装置]という、金属製の板にボタンが付いた装置。
軽く魔力を込めるだけで、透明人間になれる優れ物だそうだ。
自身が発する声も遮断してくれるので、万が一叫んでも大丈夫。
これを使い、壁をすり抜け、中に居る二人の会話を盗み聞きする。
じゃあ早速入ってみよう。
「ポチッとな」
押してみた。
反応が無い。
「これってもう効果出てる?」
独り言みたいで恥ずかしい。
見ないで。誰も見ないで。
そう思いながら壁に手を当てる。
「おおー!透けてる透けてる!」
壁に手が溶け込んだように入っていくのに、触ってる感覚が全くない。
私は装置の性能に感動を覚えつつ中に入った。
中に入ると、ルピナス理事長とライネルが向かいあわせで座っていた。
高そうなソファーに座っている。
テーブルに置かれている書類は、赤い判子が押されている明らかな学校機密。
それを一般生徒に見せてるなんて。
「なるほど…これは厄介ですね」
ライネルは数枚の紙を取って難しい顔をしている。
ほんと、昔から何も変わってなくて好き。
ライネルは思いつめてる時、決まってクールな顔をする。
無意識にそうなるんだろうけど、その顔に当てられる女の子は意外といるんだよ。
私もその一人。恋をするには十分でしょ。
ずっと見てられる顔。
あー、触りたい。かけたい。
やばっ、ライネルの顔にキスしようとしちゃった。
危うくバレるところだった。
気を取り直して仕事をしないと。
(えーっと、なになに…)
風紀部の内部調査と書かれている。
どうやら、風紀部に所属する一部の生徒が汚職めいたことをしているらしい。
名誉職を穢す、悪い輩がいるみたい。
「これはほんの一部。実際はもっと多くの事件が起きている。教師陣も手を子招いている状況だ」
「いっそ解体すべきでは?風紀部がどれだけ力を蓄えているのか知りませんが、学校側が圧力をかければ簡単に潰せるでしょう」
「証拠があれば…な」
「証拠なんていりませんよ」
「え…?」
「ここには校則という絶対の法律があります。生徒はそれに従うしかない。校則その二、不純異性交遊をした者は即退学となる。風紀部解体にうってつけです」
どういう事かな。
ライネルの悪そうな顔が少しだけ怖いんだけど。
てか凄いね。校則を暗記してるんだ。
入学初日に渡されたプリントに書いてたっけ。
私なんか読まずに鳥の形に折って、ミラとどこまで飛ぶか勝負してたよ。
「まさか…女子生徒を餌にするのか?」
「ははっ、まさか。そんな事をすれば、一時でも連中は良い思いするじゃないですか。それに女子生徒を餌にしたことが発覚すれば、理事長の立場も危うくなりますよ。人権問題は、学校運営に直接の影響を及ぼしますからね」
「ではどうするんだ?」
「俺が一肌脱ぎましょう」
そう言ってライネルは立ち上がった。
バンと音が出るほどの勢いで机に手をつき、ルピナス理事長と視線を合わせた。
「俺が女装して風紀部に潜入します。主犯格の男を落としてみせましょう」
「は?」
は?
と、ルピナス理事長と同じ感想が出た。
私の夫は何を言っているの?
無理に決まってんじゃん。
いや、でもいけるかな。ライネルって良く見れば中性的な顔してんだよね。
お化粧して、カツラを被って、スカートを履けば完璧。
さすがライネル。ばっかみたい。
何考えてんのさ。
「いやいやいや!無理があるだろう!それに不純異性交遊は両者に適応される。お前も退学処分になるぞ」
「理事長は肝心なことをお忘れで。女装するイコール名前が変わるんですよ。つまり、当学院に居ない生徒は、退学はもとい入学もしていない架空の生徒。一般市民に手を出したも同じです」
「な…!なる…ほど」
「懸念すべき点はありますね、はい、勿論。被害を受けたと、どう立証するかなどが挙げられますね」
「そうだ。それをどうすべきかだ」
「コルチカム先生に依頼して、女体化させて頂くことは可能でしょうか?あの人なら出来そうな気がするんですけど」
「にょ…!ま、まぁ出来なくは…ない」
「決まりですね」
何も決まってないよ!
あれがどれだけ痛いかわかって言ってるのか!
って叫びたい。
まあいいよ…身を持って体験するといいさ。
この事件が解決したら、私をもっと丁寧に扱ってくれるようになることを期待する。
多少は上手くなったけど、まだまだぎこちないからね。
ライネルが女装かぁ…ミラにも教えとこ。
暑い暑い。肌は焼けてヒリヒリするし、汗が止まらない。
肌はクリームを塗ればなんとかなるけど、汗は乾いてすぐ、ぺたぺたと変な感触が残るので嫌だ。
ケルヴ村はこんなに暑くなかった。
地面に石が敷かれているだけで、こうも照り返しが強くなるのか。
外と違い、教室は蒸し暑くてジメジメする。
人数が多いクラスはご愁傷様。うちのクラスは3人なのが救いだな。
隣と席が離れてるし、風通しもいい。
最高の学習環境と言えるだろう。
しかし。しかしだ。
それでも暑いものは暑い。
夏嫌い。
冬になったら冬嫌い言うんだろうな。
丁度いい気候でしか生きられない体質。
贅沢な体質だ。
他のクラスはどう過ごしているのか気になり、まず初めにAクラスを覗いて見たら、恐ろしいほど暑かった。
何故こんなにも暑いのか。
Aクラス一同、殺伐としてるし何かあったのか。
あったのだ。
こんなクソ暑い中、イチャつくカップルが居たからだ。
「ねー、くすぐったいよー」
「テオネスのお腹触るの好きなんだよ」
「やだなー。太ったのバレちゃうじゃん」
「モチモチで面白い」
「やめてよもぉー!」
なんて言いつつ、テオネスはハルの膝の上から動こうとしないのである。
このバカップルが発熱機構となっている。
殺意沸くよな。
同情するぜAクラス。
---
Bクラス一組。
ミラの居るクラスだ。
妙に教室が暗い。
てか真っ暗だ。何も見えない。
風通しが俺のクラスよりも良く、日差しが入ってこないから室温が急激に下がっている。
涼し過ぎる。
「どうなってんのこれ?」
「私の魔術で作ったのよ。ほら、黒い糸出すやつ」
「あったような無かったような…」
「まだ思い出せないの?私の事嫌いになった?ねぇねぇねぇねぇ」
ミラに激しく揺さぶられた。
教室が暗くて顔は見えなかったが、怒ってるのはわかった。
教室を出た瞬間、腰に鈍い痛みを感じた。
ミラのやつ、ナイフの玩具を投げてきやがった。
---
Bクラス二組。
ここにはリーズが居る。
我が愛しの妻でございます。
何の変哲もない普通のクラスで、真面目そうな子が多い印象を受ける。
リーズは人当たりのいい性格をしているから、男女問わず、よく恋愛相談を受けるらしい。
結婚してるのに、男子から邪な目で見られることもしばしば。
男子には積極的にいくようにとアドバイスして、女子には男なんて勝手に寄ってくるとアドバイス。
これだと、リーズは男子なのでは?と思うだろう。
実際俺もそう思って尋ねてみたことがあるが、時間帯が夜だったので、夜テンションで頬をひっぱたかれた。
これが答えだと言わんばかりに。
椅子に座りながら足を組み、男子と仲良く話をしているリーズ。
体のラインが強調された服を着ていて、胸に目がいってしまう。
くびれた腰は手で摩りたくなる。
と、男子の視線がそう言っている。
じばくぞ。
「仲良いんだね…」
「そうかなぁ。普通だよ」
「天然たらしめ」
「なになに、嫉妬?可愛いんだけど」
自覚が無いらしい。
それに、俺はおちょくられているようだ。
リーズがニヤニヤと悪そうな笑みを浮かべていたから、なんとなくそう感じた。
---
太陽が一番高い位置に昇る時間。
もはや灼熱地獄。
汗が絶え間なく流れ、一瞬で乾き、また出るの繰り返しである。
ルリアはシャツ一枚になった。
シャツに汗が染み込んでいて、中に着ている青い下着が透けている。
水筒の水を飲む姿は、刺激的過ぎて直視できない。
「ライネルも飲む?」
「ちょっと貰うわ」
ルリアに水筒を渡された。
少しだけのつもりだったが、半分ぐらい飲んでしまった。
味は甘塩っぱい飲料水。
変わった味だけど美味しかった。
「あちぃ…」
こんな中、通常通り授業をするなんて正気じゃない。
植物もなにも燃えてなくなるだろ。
窓から見える校庭は歪んでいて、鉄格子に触って火傷する生徒すらいた。
いずれ死者が出るぞ。
「だらしないぞお前ら。もっとシャキッとしろ、若いんだから」
一人だけ。セスティーだけは涼しそうな顔をしていた。
むしろ元気いっぱいだ。
「暑くないんですか?」
「このぐらいへっちゃらだ。わたしは魔族だからな」
「魔族って暑さに強いんですか?」
「人によるな。わたしは魔族でも龍族寄りの種族だ。暑さはもとより火に強い」
セスティーは納得の説明をしてくれた。
セスティーは火属系魔術の使い手で、火を纏って戦うこともある。
熱さに慣れてないと出来ない芸当だ。
彼女は夏が好きなのかもしれない。
「ライネル…テオネスを膝に乗せてた男について何か知らないか?」
リードが顔だけこちらに向けて、机の上に溶けた状態で言った。
嫉妬と不安が入り交じった顔だ。
「彼氏だよ。テオネスから告白したんだってさ」
「はぁ!?僕聞いてないよ!隠してたのか?そうだろ!絶対にそうだ!ちょっとAクラス行ってくる!」
「待て待て待て」
自己解決して、前が見え無くなったリードを羽交い締めにして止めた。
「離せ裏切り者」と言われたが、いつ俺が協力者になった。
俺はテオネスの味方だ。
あんな感じでも、俺はあの二人を応援しなければならない立場にある。
「暑苦しいなぁもう」
ルリアが呆れた様子で言った。
「君には関係無い!」
「そもそもさ。リードがあの子と一緒にいるとこ、見たことないよ。入学当初、テオネスが冷たい視線を浴びてた時だって、キミは態度に示すだけで何もしなかったもんね。後になって君が好きだーってアピールしたってさ、テオネスが振り向くわけなくない?だから取られたんだよ」
「そんなわけ…」
「あるんだなこれが。一番居て欲しい時に居ない人間なんて、端から眼中に無いよ」
ルリアが鋭い口調でリードを追い詰めた。
この話は俺にも向けられている。
「ルリアの…言う通りかもしれない」
リードは冷静になり、自分の席に戻った。
そして机に突っ伏した。
今は頭を冷やすのが吉。
---
理事長室。
ここは学院内のどこよりも綺麗だ。
煌びやかな装飾品は無いけど、壁に飾られた一本の剣が部屋全体を明るく見せている。
扉の横にある花瓶には白紫の花が入っていて、今は蕾となっている。
ルピナスに呼ばれて来たのだが、当の本人が見当たらない。
俺は一人、椅子に座って待っていた。
しかし、ただ待っているのも退屈だ。
物色してみようか。
勝手にルピナスの机の引き出しを開けた。
中には入学願書などの資料や、何かの調査書が入っていた。
調査書には、一部の生徒の能力について、事細かく書かれていた。
そこには俺も書かれていた。
成績上位者のみの記述。
それ以外は無い。
「変わった趣味を持っているね」
聞き覚えのある声だ。多分待ち望んでいた人のはず。
俺の肩に力強い手を乗せる人が。
戒めるように、俺の顔に自身の顔を近ずける人が。
俺の髪に触れるその女性は、ルピナスだった。
「ヒグッ!」
驚き過ぎてしゃっくりが出てしまった。
冷や汗をかきつつ、深呼吸する。
よし、治まった。
「私の机で致してたのかな?」
「どこをどう見たらそう見えるのでしょうか。それより、俺が呼ばれた理由は?わざわざ理事長室に呼ぶくらいですから、極秘ですよね」
「いかにも。君には風紀部の内部調査を頼みたい」
「風紀部?初めて聞きましたけど」
「細かいことは後ほど説明する。報酬も払う。やってくれるか?」
「喜んで」
わけが分からないまま、俺は快諾した。
この人、お金くれるんだもん。
やるしかないでしょ。
---リーズ視点---
コルチカム先生に理事長室の様子を見てきて欲しいと頼まれた。
普段の落ち着きある顔では無く、怒っているような顔をしていて、全身汗だくで息を切らしていた。
なぜに今。
自分で見に行けばいいのに。
コルチカム先生によると、ライネルはルピナス理事長と話をしているらしい。
畏れ多くも理事長室で。
ここがポイント。コルチカム先生が私に見てくるよう頼んだ理由だ。
極秘資料は全て理事長室に眠っていて、一般生徒は入る事が出来ない。
内部情報を持ち出される可能性があるから。
他国に売ったら金貨数百、或いは数千枚の値はつく。
それほどの価値が、あの一室に収められている。
なのに、ルピナス理事長はライネルを招いた。
雑用を頼もうとしているのではと、コルチカム先生は推測していたけど、自身の推理に納得がいってないようで、その瞳は疑念を映していた。
でも確かに変だ。
雑用を頼むなら内密にする必要なんてない。
私に隠れて何してるのかな。
隠れてといえばセスティーもだ。
あの人はライネルに告白した。
うちのクラスメイトが、放課後Sクラスの前を通った時、セスティーに押し倒されたライネルを目撃している。
なんなら舐めたらしいね。
教師の務めを放棄して何してんのさ。
「なんかイライラしてきた…」
人の男に手を出して、平気な顔してる連中はなんなんだろう。
寝とられる身にもなって欲しい。
ミラといい、セスティーといい、みんな節操が無い。
ミラはライネルに好意をもたれていたけど、今はそうじゃない。
理由は分からないけど、ライネルの記憶からミラとの思い出が消失したらしい。
テオネスから聞いた。
神聖国であった事件が関与してるかもって言ってたけど…。
セスティーはあんなにライネルを嫌っていたのに、どうしちゃったの。
ストレス?年齢的な焦り?人肌が恋しいの?
どれでもいいけどさ、ライネルに触れないで欲しい。
もう私の夫なの。
私のモノなの。
誰にも渡すもんか。
そうこうしてるうちに理事長室の前へ着いた。
二人に気付かれないように、理事長室に入らなければならない。
そんなの不可能だ。
しかし、それを可能にする装置を渡られた。
それがこの[透過侵略制裁装置]という、金属製の板にボタンが付いた装置。
軽く魔力を込めるだけで、透明人間になれる優れ物だそうだ。
自身が発する声も遮断してくれるので、万が一叫んでも大丈夫。
これを使い、壁をすり抜け、中に居る二人の会話を盗み聞きする。
じゃあ早速入ってみよう。
「ポチッとな」
押してみた。
反応が無い。
「これってもう効果出てる?」
独り言みたいで恥ずかしい。
見ないで。誰も見ないで。
そう思いながら壁に手を当てる。
「おおー!透けてる透けてる!」
壁に手が溶け込んだように入っていくのに、触ってる感覚が全くない。
私は装置の性能に感動を覚えつつ中に入った。
中に入ると、ルピナス理事長とライネルが向かいあわせで座っていた。
高そうなソファーに座っている。
テーブルに置かれている書類は、赤い判子が押されている明らかな学校機密。
それを一般生徒に見せてるなんて。
「なるほど…これは厄介ですね」
ライネルは数枚の紙を取って難しい顔をしている。
ほんと、昔から何も変わってなくて好き。
ライネルは思いつめてる時、決まってクールな顔をする。
無意識にそうなるんだろうけど、その顔に当てられる女の子は意外といるんだよ。
私もその一人。恋をするには十分でしょ。
ずっと見てられる顔。
あー、触りたい。かけたい。
やばっ、ライネルの顔にキスしようとしちゃった。
危うくバレるところだった。
気を取り直して仕事をしないと。
(えーっと、なになに…)
風紀部の内部調査と書かれている。
どうやら、風紀部に所属する一部の生徒が汚職めいたことをしているらしい。
名誉職を穢す、悪い輩がいるみたい。
「これはほんの一部。実際はもっと多くの事件が起きている。教師陣も手を子招いている状況だ」
「いっそ解体すべきでは?風紀部がどれだけ力を蓄えているのか知りませんが、学校側が圧力をかければ簡単に潰せるでしょう」
「証拠があれば…な」
「証拠なんていりませんよ」
「え…?」
「ここには校則という絶対の法律があります。生徒はそれに従うしかない。校則その二、不純異性交遊をした者は即退学となる。風紀部解体にうってつけです」
どういう事かな。
ライネルの悪そうな顔が少しだけ怖いんだけど。
てか凄いね。校則を暗記してるんだ。
入学初日に渡されたプリントに書いてたっけ。
私なんか読まずに鳥の形に折って、ミラとどこまで飛ぶか勝負してたよ。
「まさか…女子生徒を餌にするのか?」
「ははっ、まさか。そんな事をすれば、一時でも連中は良い思いするじゃないですか。それに女子生徒を餌にしたことが発覚すれば、理事長の立場も危うくなりますよ。人権問題は、学校運営に直接の影響を及ぼしますからね」
「ではどうするんだ?」
「俺が一肌脱ぎましょう」
そう言ってライネルは立ち上がった。
バンと音が出るほどの勢いで机に手をつき、ルピナス理事長と視線を合わせた。
「俺が女装して風紀部に潜入します。主犯格の男を落としてみせましょう」
「は?」
は?
と、ルピナス理事長と同じ感想が出た。
私の夫は何を言っているの?
無理に決まってんじゃん。
いや、でもいけるかな。ライネルって良く見れば中性的な顔してんだよね。
お化粧して、カツラを被って、スカートを履けば完璧。
さすがライネル。ばっかみたい。
何考えてんのさ。
「いやいやいや!無理があるだろう!それに不純異性交遊は両者に適応される。お前も退学処分になるぞ」
「理事長は肝心なことをお忘れで。女装するイコール名前が変わるんですよ。つまり、当学院に居ない生徒は、退学はもとい入学もしていない架空の生徒。一般市民に手を出したも同じです」
「な…!なる…ほど」
「懸念すべき点はありますね、はい、勿論。被害を受けたと、どう立証するかなどが挙げられますね」
「そうだ。それをどうすべきかだ」
「コルチカム先生に依頼して、女体化させて頂くことは可能でしょうか?あの人なら出来そうな気がするんですけど」
「にょ…!ま、まぁ出来なくは…ない」
「決まりですね」
何も決まってないよ!
あれがどれだけ痛いかわかって言ってるのか!
って叫びたい。
まあいいよ…身を持って体験するといいさ。
この事件が解決したら、私をもっと丁寧に扱ってくれるようになることを期待する。
多少は上手くなったけど、まだまだぎこちないからね。
ライネルが女装かぁ…ミラにも教えとこ。
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#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
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追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
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