結ばれたい想いを剣に乗せて

杉の木ノキ

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第六章 王立学院サフラン・ブレイバード編

第109話 癖を身につけろ②

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 ともあれ、ミラをノックダウン出来た。
 耳に流し込む蕩けそうな程甘い台詞。
 これを女性視点に改良する。
 
 「合格みたいだし、変換してみよう。風紀部の面々とは一通り関係を築いたと思うので、不意打ちが効くかと思われます」

 「あっはァ、とかどう?」

 「それは貴方にしか出来ません…」

 「なんで敬語…?」

 「別に教えて欲しいなーなんて、思ってないんだからね!的な何かを教えて欲しい」

 「そゆことか。うーん…ツンデレにするのは厳しいんじゃないかな。周囲に今までのキャラが認知されている訳だし不自然だよ」

 「そっか。なら単に女性らしい口調で言って、勘違いさせる仕草を出せばいいか」

 「持ち味を活かす。だね」

 「それだー」

 ミリーもそうやって来たのかな。
 年齢不詳だから、誰を対象にしていたのかは分からないけど。

 「私が教えてあげるわ…」

 ミラが起き上がった。
 と、思いきや。
 俺の背後に立っていた。
 あれは残像か。
 
  「よろしくお願いします」

 「ええ…そりゃもう骨抜きにしてやるわ」

 「加減してね?痛いのヤだからね」

 「……いいわね、その台詞」

 懐かしむような声が、ミラの口から零れた。
 俺は押し倒されて髪を掴まれた。
 グイグイと乱暴に引かれて、頬を叩かれた。

 「言った傍から!?」

 「どうして私の言うことが聞けないの…?」

 「あれ?もう練習始まってます?」

 「始まってる始まってる」

 「あ…そう。じゃあ続けましょうか」

 シチュエーションがホラーテイスト。
 目を見張る演技力で感情を表現している。

 「私は家で大人しくしててって言ったのよ!?なんで外に出てるの!」

 「痛い!許してお母さん!」

 「脱ぎなさい!今日もみっちり叩き込んでやるわ!」

 「ちょっタンマ。俺は息子役で合ってますか?」

 「合ってる合ってる」

 「そう…じゃあ続けましょうか」

 おかしいだろ。
 いや、即座に対応できた俺もおかしいんだが。
 まあ教えてくれるならいいか。
 ミラが俺の服を引き千切ろうとしてくる。
 コイツはガチだ。
 
 「そこまでやらなくてもいいだろ!」

 「現実味を帯びていた方がいいわ。家の中で――」

 「ここで出来る範囲でお願いします」

 「もう…照れなくていいのに」

 勘違いしてるのはミラの方かよ。
 ミリーに止めて貰いたいけど、彼女は洗濯物を干し終えたスレナと一緒に小休憩を取っている。
 助け舟は期待出来ない。

 「続けますか…」

 仕切り直しだ。
 ミラと向かいあわせになり、演技が始まる。
 暫く御付き合い下さい。

 「ねぇどうして?どうして私を困らせるの?」

 ミラは俺の首に爪を立てた。

 「あ…遊びたくて。ずっと家の中に居るのはつまんないから」

 「何もしない子に遊ぶ権利があるのかしらね。それと、昨日来た女の子は何処の誰?答えなさい」

 え…本当に何処の誰。
 もしかすると、実体験を織り交ぜてるのでは。
 でもそんなの知らないし、テキトーに話を合わせるか。

 「隣の村の子…です」

 そう言った途端、頬を思い切り引っぱたかれた。
 痛くてヒリヒリする。
 
 「嘘つくんじゃないわよ!この!この!」

 「御免なさい!御免なさい!」

 ゲシゲシ、と踏まれた。
 ミラの息が切れるまで。

 「ハァ…ハァ…あ。ごめんさい」

 「いてて…大丈夫だよ。お母さん」

 「ふふっ…本当にいい子ね。エラいエラい…」

 暴虐の限りから一転。
 ミラはズタボロの俺に治癒魔術を掛けて、優しい言葉をかけてきた。
 頭も撫でてきた。
 耳も甘噛みされた。 
 親子の触れ合いではなかった。

 「許してくれるの?」

 「うん。もうお母さんに嘘付かないって約束してくれるなら」

 「約束するよ!」

 「なら何をしたらいいか…分かるわよね?」

 よからぬ事を企んでいる顔だ。
 でもミラは、ここでお終いと手を叩いて早々に切り上げた。
 俺が指摘する前に強制終了させた。
 そしたらミラが「終わり終わり」と、意味深な言葉を発してすぐ。

 「ほんと…卑しい子」

 耳を突き抜けた鋭利な言葉。
 脳に直接響く砲撃でもあった。
 意識外からの攻撃に、心拍数と呼吸が大きく乱れた。
 一瞬にして体の乾きが産声を上げる程に。

 「凄いな。まさか女王様気質だったとは…」

 ミラは、くすくすと笑った。

 「分かったかしら?これは機嫌が悪い時に使える技よ。貴方は滅多な事じゃないと怒らないし、怒ったら怒ったで手が付けられないから、こういう話術も学んでおいて損は無いわ。精神安定にもなるしね。それに感情の起伏が激しい方が、一般生徒からも魅力的に見えるんじゃないかしら」

 少し的を射た持論を展開するミラ。
 考えあっての事であると気付かされた。

 「成程。確かに、嫌な事をされて怒らないのは怪しまれるよな。まるで目的を達成するまで我慢してる様だ、と思われてもおかしくない」

 「そうそう、それが言いたかったの。今さっきのは忘れて」

 「ミラの自意識過剰っぷりが全面に押し出されていたから?」

 「ち…違うわ!というか貴方、私に心を読まれたくないが為に反射で口動かしてるでしょ!」

 「バレたか。でもまあ、ミラは自身が輝ける環境で過ごす内に自信がついたんだろうし、助言が上から目線になるのは仕方無いよ。いやー可愛いなぁミラさん」

 「なんか嫌味言われた!ミリー!コイツを――」

 「待って!ごめんさい!普通に可愛いです!」

 ミリーの元へ向かおうとするミラを必死で止めた。
 また縛られて好き勝手されるのは御免だから。
 
 でも妙だ。
 ミラは俺の手を振りほどかないで抵抗している。
 もしかしたら、触られているのが嬉しいのかもしれない。
 吐息混じりの恍惚とした表情からそう判断した。

 〝 もう離さない…絶対〟

 薄らと聞こえた声。
 ミラなのだろうか。
 女性の声ではあったし、候補は絞られる。

 「ミラ?」

 「ん?何かしら?」

 「今、変な声聞こえたんだけど」

 「……さあ。私は聞いてないわね」

 俺よりも耳が良いはずなのに、ミラは聞いてないと言った。
 少し不気味に感じた。
 俺の胡座の上にちょこんと座るミラは、どこか後暗い表情を浮かべていた。
 思えば練習を早々に切り上げた理由は何だろうか。
 親子設定だからか。
 相手が俺だから練習に身が入らなかったとか、色々予想は立てられる。
 だが、あくまで予想。決して確実では無い。
 一つだけ分かる事があるとすれば、クロンはミラに虐待を受けていた。
 それだけだ。
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