結ばれたい想いを剣に乗せて

杉の木ノキ

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第六章 王立学院サフラン・ブレイバード編

第110話 報告と狂恋

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 [風紀部調査報告書㊙︎]

 以下の生徒について調査内容を報告する。

 NO.1
 ガタイのいい坊主頭のスレイズ。この男は白である。
 快活な性格から女子生徒達からの人気は高いものの、彼自身が異性交友に対する免疫が無いため、そういった知識に乏しい。哀しき獣よな。

 NO.2
 綺麗な葡萄色の髪に似つかわしくない目つきの悪さを持つ背の高い根暗、オルガール。この男も白である。
 主に彼に仕事を教わった。
 普段は冷たく当たってくるのに、二人きりだと優しい。
 試しに後ろからハグしてみたら、口をパクパクして城壁のように固まってしまった。
 隣に座り、頭を差し出したら撫でてくれた。
 あんもうチョロいチョロい。
 このお間抜けさん。

 NO.3
 背の低い美男子系副部長にして、まるでチェリーみたいな深い赤色の髪を持つ優男、フォルカ。
 彼も白。
 というか彼女さんがいるらしい。
 ぞっこん過ぎて周囲がドン引きしているそうだ。
 風紀部って何だろう…?
 副部長って何だろう…?

 NO.4
 人呼んで赤メッシュ黒髪ナルシスト兼たらし男、エルナト。意外にも白。
 女を侍らせている姿は度々目撃されているが、それ以外の素行は悪く無く、部活動に対しても意欲的で真面目。
 部長のレマは素行に対して彼を口汚く罵ったが、仕事の面では決して悪く言わなかった。
 むしろ「ご苦労様」と、吐き捨てるように言いつつも感謝するほどだ。
 因みに俺は一度キスされました。
 俺もその気になっちゃって、てか、楽しくなってきちゃって!なんかね!
 キス上手すぎるんだよコイツ!男の俺が惚れそうになったわ!
 いやー、思わず○キかけた。
 ふう。
 とまあ冗談(半分)はさておき、気になる点はあった。
 俺以外とはキスをしなかったのだ。
 女子生徒と2人きり、又は3人4人と侍らせている時は目を離さないようにしたのに、一度も目撃しなかった。
 そこだけ気になった。

 「以上が、わたくしライネル・ティッカードがひと月半掛けてまとめあげた調査報告書になります。御不明な点がございましたら、どんどん仰って下さい」

 理事長室にて、ルピナス理事長直々に手渡ししたこの調査報告書。
 我ながら完璧だと思う。
 不備なんて無い。絶対。
 ルピナスも感心感心と、満足そうに微笑んでる。

 「ご苦労だったな。一通り目を通してみたのだが率直な感想を言わせてくれ。なんだこれは、ふざけているのか?」

 そう言いつつも笑顔を崩さないルピナス。
 若干、顔が引き攣っているようにも見えるが気の所為だろう。
 指し示した所を見るに、エルナトへの記述に誤りがあるようだ。
 これの何処が間違ってんだ。

 「彼は女の扱いが非常に上手いです。思いつく限りの讚嘆に、気配りも出来て非の打ち所がない。まさしく百戦錬磨。恐ろしい男です」

 「聞きたいのはそこじゃないんだが…」

 「きっとルピナス理事長も惚れますよ」

 と言った途端、バタンと激しい音を立てて部屋の扉が蹴破られた。
 廊下から伝う豪気。
 コルチカムが、ずかずかと入って来た。

 「発言には気をつけなよライネル君。僕の気分次第で、何時でも誰でも除籍処分にすることが出来るんだからね」

 「いや…ほんとすみません…」

 怖い。
 へび睨みがキツすぎて視線を合わせられない。

 「まあ説教はこれぐらいにして、本題に移ろうか」

 コルチカムの一言で席に着いた。
 本題というのは会議だ。
 今日はその為に集まったのである。

 まず初めに、議長のコルチカムが話を切り出した。

 「先刻、君が提出した風紀部調査報告書は、はっきり言って懲罰物だ」

 「おふざけが過ぎたと猛省しております」

 「よろしい。ま、要点は抑えてあるね」

 「と言いますと?」

 「風紀部内3名は優良生徒であると確認出来たし、君以外とまともな関係を持たなかったエルナト、彼も優良生徒だと知ることが出来た。まあエルナト君は学年首席だし、消すには惜しいと思ってたんだ」

 驚いた。
 エルナトは成績優秀らしい。

 「レマ君の記述が無いが、どうしてだい?」

 「ああそれは…」

 風紀部部長レマ。
 彼女については何も知れなかったんだ。
 しっぽを見せないとかいう次元じゃない。
 まず後をつけさせないし、話も当たり障りのないものばかり。
 自身の話はまるでしない。
 時たま暇になれば遊戯に精を出したり、お茶したり、ソファーを殴ったり。
 喜怒哀楽が一気に流れ出るぐらいで、情報と呼べる情報が無かった。
 趣味嗜好が滅茶苦茶だし、わざとそうしてるようにさえ見えた。

 「白なのか黒なのか、まだ分からなくて」

 個人的にレマは白であって欲しい。
 そんな祈りを知ってか知らずか、コルチカムが俺の顔を覗き込んできた。

 「或いは灰色かもね」

 コルチカムは指をパチンと鳴らした。
 すると天井の一片が開き、一人の少女が降りてきた。
 輝く金色の髪をした美少女エルフ。
 ミラだ。
 何故ここに。
 そして何故、天井裏に。

 「呼んだかしら?」

 「すまないミラ君。早速なんだけど用事を頼まれてくれるかい?」

 「いいわよ。じゃあ頂戴」

 コルチカムは、謎の青い玉がぎっしり詰まった透明な袋をミラに渡した。

 「少しオマケしといたよ」
 
 「やった…ふふふっ」

 ミラはヨダレを垂らしながら袋の中を覗き見ていた。
 何かしら密約があるのだろう。
 下手に詮索したら除籍処分されそうなので止める。

 「ミラ君には明夜、風紀部の部室に張り込んでもらう。もし異変があれば僕に知らせてね」

 「りょ」

 「返事はそうじゃないでしょ」

 「了解しました」

 あれ。なんか二人、仲良いな。
 寸劇を見せられてるみたいだ。
 それを見たルピナスが、呆れ顔を維持したままこちらに体勢を向けた。
 そして静かに口を開いた。
 
 「この二人に任せたら絶対に失敗する。だから君も張り込みに参加して欲しい」

 「信用無いですね…」

 「私が信用してるのは君だけだ」

 思わずニヤけてしまうよな、嬉しいことを言われた。
 もう顔に出てるかもしれない。

 「お任せ下さい理事長。必ずや風紀部の闇を暴いてご覧にいれます」

 「楽しみにしてるよ…」

 最後。
 女神のように麗しい笑みを浮かべたルピナスを刮目して会議は終わった。

---

 時間はあっという間に過ぎ、本日全ての授業を終えて帰宅。
 珍しく誰も居ない。
 スレナは買い物に行ってるようだ。
 椅子に腰かけて荷物を置いた。すると突然、背中に気配を感じた。
 振り返ると、そこにはミラがいた。
 荷物を持っていて、余計ちまっとした印象を受ける。
 でも愛らしい姿だ。

 「好き」

 ミラが無表情で言う。
 恐怖とはまた違う不気味さを蓄えて。

 「結構な回数聞いてる気がする」

 「毎日言ってるわね」

 「好きの形は人それぞれなんだけどさ、ミラは特別重たいよね。愛に近い感じがする」

 「うん…それ合ってる」

 ミラは俺の膝に跨り、正面からピタリとくっついてきた。
 心臓の音を聞くようにして体を預けてきた。
 とりあえず頭を撫でてあげた。

 「甘えんぼさんめ」

 「ふふっ…そうね。ずっとこうしてたいわ…」

 ミラは気持ち良さそうな顔を見せてきた。
 今までに無いニコッとした笑顔だ。

 「明日はよろしくな。俺、隠密行動苦手だから足引っ張るかもしれない」

 「そこは私がカバーするから安心して。報酬は頂くけど」

 「目ざといのな。でもいいよ、何が欲しい?」

 俺の問いに、ミラは舌を使う口付けで返した。

 「これじゃあ何が欲しいか分からないよ」

 「これを一晩中したい。夜が明けるまで、次の日が休みなら一日中。昔、クロンとよくしてたのよ」

 唐突に出た名前にドキリとした。

 「おまッ…息子じゃないのか?」

 「好きな人との間にできた子供だもの。人相はそっくりで、成長すれば尚のこと。いい具合に調節したから、今でも誘えば乗ってくるかもしれないわね」

 「いや、流石にそ―――」

 俺は椅子から転げ落ちた。
 ミラに頭を押さえつけられた。
 依然として優しい顔で、彼女は狂気を振るう。

 「欲しいのはライネル、あなたよ。でも婚約者になれとは言わない。この様子じゃどうせ無理でしょうし。なら、もういっそ私の子になりなさい。それなら問題無いでしょ?」

 「大ありなんだよなぁ」

 「私、子供が大好きなのよ。息子なんか特に。何をしても誰も咎めないから」

 「ミラは優しい女性だと思ってたけど、案外そうでも無いのか?」

 これはいけない。
 ミラの手に力が入った。

 「その丸いお目目は節穴かしら?何処をどう見たら私が優しくないのよ……ねェ!」

 ドガンと思い切り顔面を殴られた。
 頭蓋骨を簡単に通過し、脳に直接響く打撃だ。
 
 「…痛い」

 思いの外、俺は冷静だった。
 慣れって怖いね。
 こんな状況下に置かれても尚、ミラの良いところを探そうとしてる。
 無抵抗の俺を見たからか、ミラは手を止めた。
 我に返り、青ざめている。

 「あ…あぁ…」

 ミラの怯え方は尋常ではなかった。
 激しい動悸に胸を掴み、嗚咽までしていた。
 俺は直ちにミラを抱擁し、深呼吸させた。
 
 「大丈夫…大丈夫…」

 優しく腰を摩ってあげた。

 「ごめんなさい…ごめんなさい…」

 「思い出したくない過去を思い出させちゃったかな…?」

 ミラは首を横に振った。
 違うようだ。

 「…頼りにしてるよ。明日は宜しくね」

 ミラは、こくりと頷いた。
 何故俺を殴ったのかは聞かない。
 ただ、力になってあげたい。
 調査が終わり次第、彼女のために時間を使いたい。
 そう思った。
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