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第七章 天穹守護編

第128話 古代迷宮

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 古代迷宮への立ち入りを許可された。
 ルピナスが上に掛け合ってくれた。
 コルチカムに悟られぬよう、最善の注意を払って手続きをしてくれた。

 よし。
 これでハルを追いかけられる。
 と、そんな甘い考えで臨んでは死ぬ事がわかった。
 
 曰く、古代迷宮は時の流れが遅い。
 正確には、外界と隔絶された時間軸を持っている。
 古代迷宮での一分が、この世界での一時間。
 つまり、二十四分で一日が経過するというわけだ。
 
 古代迷宮は広く、恐ろしい魔物が潜んでいる。
 生半可な攻撃では傷一つ付かない、出鱈目な怪物もいる。
 それに加え、時の制約がつくのだ。

 ざっくりとルピナスに説明された注意事項を振り返ってみる。

 1.古代迷宮の入口と出口は別にある。
 2.深層では光属系魔術が使用できない。
 3.深層への片道は最短2日。どう足掻いても、外に出たら118日はズレる。
 4.飲み水は持参すべし。自生する動植物は決して口にするな。
 5.恐らくハルは深層に居ない。居るとすれば追憶の間。
 6.追憶の間は深層手前。しかし、深層に最も近い地点に存在するので、脱出も考えたら3日は覚悟すること。
 7.古代迷宮で息する生物は皆、雌の匂いを嗅ぎつける。体臭の薄いミラなら問題ないかもしれないが、そこで何かしらアクションがあった場合、この限りでは無い。
 8.大規模魔術は、古代迷宮の意志によって未然に阻止される。その上、凄惨な反撃を受ける。
 9.直感で動くな。先人が遺した道標を辿れ。
 10.テオネスの事は任せろ。

 以上である。
 最後の最後で、有難いお言葉を頂いた。

 俺とミラは事前に準備していた荷物を持ち、古代迷宮の入口に向かった。

---

 入口は学院地下。
 とてつもなく広い空間に、ひっそりと重厚な扉がある。
 青白く光るそれは、俺たちの魔力を感知して明滅。
 ギギギと音を立てて、ゆっくりと開いた。

 「馬鹿みたいに厳重だな」

 「まるで監獄ね」

 扉が完全に開いた。
 恐ろしく暗い扉の奥に進む。

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 古代迷宮一階。
 ここはただひたすらに暗い。
 一人で来たらチビってた。
 火属系魔術で辺りを照らして進む。

 「あ、キノコ」

 ミラがしゃがみこんで、キノコみたいな昆虫に手を伸ばした。

 「食べちゃダメだ。それに虫だからな?それ」

 「うおっ」

 ミラがびとっと張り付いてきた。
 虫は苦手みたいだ。
 気を取り直して、更に奥へ進む。

 「よくもまあ、こんなところに一人で来れるよな。真っ暗で何も見えやしない」

 「あら、私にはハッキリ見えるわよ。そこ崖」

 吹き抜ける風と冷や汗で体温が急降下。
 パラっと崖下に石ころが落ちた。

 「もうちょっと早く言ってね」

 「うん」

 ちゃんと階段があった。
 降りたら次の階だ。

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 古代迷宮地下一階。
 明るい場所に出た。
 不気味なぐらい色とりどりの植物が自生している。
 脈打つ樹木や、気色悪い虫を食べる花。
 魔獣に根を張る草花まである。

 「ここから先は死地だよって、暗に示してるわけだ」

 「いくら私達でも油断出来ないわね」

 ここまで歩いてきて約30分。
 深層は10階からだから意外と早く着くかも…?

 「無理よ。ここはまだ地上だから」

 と、ミラに爆速で否定された。

 「どういうことだ?」

 「あれ見て」

 ミラが指を指す方向。
 階段のある北だ。

 しかし、何も見えない。
 暗過ぎてよくわからない。
 でも果てしなく遠い気がする。
 気がするでは無い、遠い。

 「マジで言ってんのか…」

 見えた。
 書いてあった。
 ここは地上50階。
 あの扉は転移魔法陣の役割を果たしていた。
 つまり、ここは世界の何処かで、現実に存在する魔境。
 古代迷宮とは、計60の大世界だ。
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