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第八章 時神の千剣編
第139話 師との再会
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休日。コルチカム謹製の転移魔法陣を借りて、ゲルブ村に帰ってきた。
本当に久しぶりだ。
マジで何も変わってない。
誰が増えたわけでも減ったわけでもなく、農具が外に放ったらかしになってる不用心もそのまんま。
変わり映えしない。
「実家のような安心感ね」
「わかる」
ミラもすっかり嬉しそう。
でもこんな寂れた村のどこがいいと言うのか。
都会を知った以上、もう絶対に戻れない。
都会便利過ぎる。
「リンドウ、元気してるかしら」
「もうピンピンしてるよ、多分」
「その言葉遣いは間違ってるわよ、多分」
ミラがおんぶしろと両手を広げて来たので、抱き締めた。
絵面が最悪。
「この体勢…良くないわよね」
「うん。なんか罰ゲームみたいだ」
どちらかと言うと、野外プレイ。
て、そんなことはどうでもいいのだ。
早くリンドウ師匠に挨拶に行こう。
---
ゲルブ村道場に到着。
改装したのか一回り大きくなってる。
ああそうだ、リンドウ師匠がぶっ壊したんだった。
ごめんなさい、俺がエルンを連れてきたばっかりに。
玄関前に呆然と突っ立っていると、社会不適合者みたいだ。
手に職付けるまでもう少しだけ期間があるけど、何事も慣れておく必要がある。
たとえ喧嘩別れした相手でも、頭を下げれば許してくれるはずだ。
この際一発ぶん殴られても構わない。
いや構う。それは構う。
誠心誠意お詫びしよう。
こう見えて俺、メリナさんに認められたんですよって。
八つ裂き決定事項盛り沢山でお送りしよう。
「疲れてるの?」
「疲れてるかもしれない」
引き戸が開いた。
出てきたのはシズク。
あっけらかんとしたシズク。
「お久しゅうございます、シズクお嬢様」
「わお、とっても不気味な挨拶だね。チビりそうになっちゃったよ」
「相変わらずなようで」
「まあね。さ、入りなよ」
シズクの手引きで、道場の奥へと招かれた。
活きのいい若人達の発声が耳に届く。
おおよそ30名前後の門下生が稽古をしているのだろう。
打ち込み班と素振り班で、それぞれ2、3人のグループに分けられている。
「なんでわかるの?」
「音がそんな感じする」
「へー。凄いわね」
扉を開けたら、やっぱりそうだった。
みな真剣な顔で稽古に打ち込んでいる。
増築したおかげで、風の通りがいい。
空気が好循環する構造でカビが生えにくい。
「構造だけでどうにかなるものなの?」
「いや。ここよ、ここ」
「あー、盲点」
床が全面、桧なんだ。
結構お金使っただろうな。
「パパー。ライネル来たよー」
シズクがそう言うと、なぜか門下生達が一斉に振り返った。
なんか…睨まれてる?
殺伐とした視線に、師匠のぽかんとした瞳が足される。
あれ…怒ってない感じですか?
「え、ちょ……ん? どの面下げて帰ってきたんだ?」
もうカンカンに怒っていた。
瞬間、俺の腹部を貫く一閃。
辛うじて右手で受け止めた。
「お久しぶりです師匠」
「ああ久しぶり。余裕だったか?」
「冷や汗かいてるのわかります?」
「ハハッ。減らず口を言うな生徒会長」
師匠は乾いた笑いで俺を迎えた。
今度はミラの頭をぐりぐりと痛めつける。
「いたたっ」
「殺気を消した途端このザマか。なんとも、お優しい純朴エルフだな」
「はーなーしーてー」
「子持ちエルフのくせして、一丁前にガキの声を出しやがる。羨ましいこった」
「は? バラすわよ?」
「……」
師匠はムッとした顔をしていた。
ミラから手を離して直ぐに、俺を叩く。
痛くないけど、なんで?
「はあ……」
ため息をつかれ、重要な部分を引き出すに至らなかった。
もしかすると、もしかするか?
俺の現状を知っているならありえる。
おそらく、アルファ・ソールライトが情報を流したのだ。
俺とメリナが接触したと。
「アルファさんに何か聞きましたか?」
「聞いた。というかなぜお前が、俺とアルファの繋がりを知ってる」
「そこら辺はほら、スピカさんの話をソニアさんから聞きましたので」
「あいつ……まあいいや。ちょっと座れ」
言われた通り、俺は胡座をかいて座った。
門下生達がざわめいている。
シズクはミラを膝に乗せてご満悦。
ミラもニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「後にも先にもお前だけだろうな、俺をナメる不届き者は」
「敬愛なる師をナメたことなど、一度もありませんよ」
「ほざいてろ」
師匠はどことなく嬉しそうに言う。
そんな顔されると、こっちまで嬉しくなる。
「ひとしお鍛え直したな。どうだ? やはり上には上がいたか?」
「いましたね。一方的な破壊を受けました」
「ほう。経験になったじゃないか」
「そのせいでストーカーされてます。助けてください」
「嫌だ。どうせあいつだろ、メリナだろ」
「ご名答です」
「あー……でもあれだ、学校帰りだけだろ?」
「それが授業参観にも来るんですよ。毎回毎回際どい服で来ては授業に首突っ込んで、先生を論破するんです。もう、悪目立ちどころじゃないですよ。名のある学者の親御さんや、軍方面の副大臣まで擦り寄ってくる始末。まあ副大臣の方はメリナさんの身体に興味があったようですが…」
「あんの、アラサー魔女め」
「伝えておきます」
「やめろ。村が消える」
おおかた伝わっただろう。
メリナの話が本題だと。
「面倒な手順を踏むな。わかりにくい」
「さすが。師匠なら、わかってくれると思ってました」
「……似たようなことをな、昔言われたことがある」
「スピカさんに、ですか?」
「そうだ。まあ結局、俺は伝説の勇者でも何でもなかったんだが、万能感に酔いしれて常勝無敗を維持してた」
「で、メリナさんに負けた、と」
「いや…負けては無い。ただ近付けなかった」
「負け惜しみですか?」
「違うわ馬鹿者。あいつはな、千の太刀で天壊人を押し退けたのだ。んな馬鹿げたチート、誰が対応出来るか」
師匠が急に子供っぽく話し始めたので驚いた。
チートって何?
その単語知らない。
「残光・千剣の禍津日は、言わば千剣の簡易版。本当の千剣は、奴自身の血が生み出す鮮血の刃だ」
「それって……あの強化魔術そっくりでは?」
「そこからデメリットを省いた、完全上位互換と言えよう」
「……」
「とはいえ、身体強化魔術とはまるで別物だけどな」
ただでさえ強力な夭桃・号哭の真珠星からデメリットを省いた技。
千剣。
使えるものなら使ってみたい。
というか、それが無いと勝てないか。
「俺流の二刀流、極めたいと思います」
死に近づく戦い方かもしれない。
でも俺は、ミラの期待に応えたいんだ。
本当に久しぶりだ。
マジで何も変わってない。
誰が増えたわけでも減ったわけでもなく、農具が外に放ったらかしになってる不用心もそのまんま。
変わり映えしない。
「実家のような安心感ね」
「わかる」
ミラもすっかり嬉しそう。
でもこんな寂れた村のどこがいいと言うのか。
都会を知った以上、もう絶対に戻れない。
都会便利過ぎる。
「リンドウ、元気してるかしら」
「もうピンピンしてるよ、多分」
「その言葉遣いは間違ってるわよ、多分」
ミラがおんぶしろと両手を広げて来たので、抱き締めた。
絵面が最悪。
「この体勢…良くないわよね」
「うん。なんか罰ゲームみたいだ」
どちらかと言うと、野外プレイ。
て、そんなことはどうでもいいのだ。
早くリンドウ師匠に挨拶に行こう。
---
ゲルブ村道場に到着。
改装したのか一回り大きくなってる。
ああそうだ、リンドウ師匠がぶっ壊したんだった。
ごめんなさい、俺がエルンを連れてきたばっかりに。
玄関前に呆然と突っ立っていると、社会不適合者みたいだ。
手に職付けるまでもう少しだけ期間があるけど、何事も慣れておく必要がある。
たとえ喧嘩別れした相手でも、頭を下げれば許してくれるはずだ。
この際一発ぶん殴られても構わない。
いや構う。それは構う。
誠心誠意お詫びしよう。
こう見えて俺、メリナさんに認められたんですよって。
八つ裂き決定事項盛り沢山でお送りしよう。
「疲れてるの?」
「疲れてるかもしれない」
引き戸が開いた。
出てきたのはシズク。
あっけらかんとしたシズク。
「お久しゅうございます、シズクお嬢様」
「わお、とっても不気味な挨拶だね。チビりそうになっちゃったよ」
「相変わらずなようで」
「まあね。さ、入りなよ」
シズクの手引きで、道場の奥へと招かれた。
活きのいい若人達の発声が耳に届く。
おおよそ30名前後の門下生が稽古をしているのだろう。
打ち込み班と素振り班で、それぞれ2、3人のグループに分けられている。
「なんでわかるの?」
「音がそんな感じする」
「へー。凄いわね」
扉を開けたら、やっぱりそうだった。
みな真剣な顔で稽古に打ち込んでいる。
増築したおかげで、風の通りがいい。
空気が好循環する構造でカビが生えにくい。
「構造だけでどうにかなるものなの?」
「いや。ここよ、ここ」
「あー、盲点」
床が全面、桧なんだ。
結構お金使っただろうな。
「パパー。ライネル来たよー」
シズクがそう言うと、なぜか門下生達が一斉に振り返った。
なんか…睨まれてる?
殺伐とした視線に、師匠のぽかんとした瞳が足される。
あれ…怒ってない感じですか?
「え、ちょ……ん? どの面下げて帰ってきたんだ?」
もうカンカンに怒っていた。
瞬間、俺の腹部を貫く一閃。
辛うじて右手で受け止めた。
「お久しぶりです師匠」
「ああ久しぶり。余裕だったか?」
「冷や汗かいてるのわかります?」
「ハハッ。減らず口を言うな生徒会長」
師匠は乾いた笑いで俺を迎えた。
今度はミラの頭をぐりぐりと痛めつける。
「いたたっ」
「殺気を消した途端このザマか。なんとも、お優しい純朴エルフだな」
「はーなーしーてー」
「子持ちエルフのくせして、一丁前にガキの声を出しやがる。羨ましいこった」
「は? バラすわよ?」
「……」
師匠はムッとした顔をしていた。
ミラから手を離して直ぐに、俺を叩く。
痛くないけど、なんで?
「はあ……」
ため息をつかれ、重要な部分を引き出すに至らなかった。
もしかすると、もしかするか?
俺の現状を知っているならありえる。
おそらく、アルファ・ソールライトが情報を流したのだ。
俺とメリナが接触したと。
「アルファさんに何か聞きましたか?」
「聞いた。というかなぜお前が、俺とアルファの繋がりを知ってる」
「そこら辺はほら、スピカさんの話をソニアさんから聞きましたので」
「あいつ……まあいいや。ちょっと座れ」
言われた通り、俺は胡座をかいて座った。
門下生達がざわめいている。
シズクはミラを膝に乗せてご満悦。
ミラもニマニマと気持ち悪い笑みを浮かべていた。
「後にも先にもお前だけだろうな、俺をナメる不届き者は」
「敬愛なる師をナメたことなど、一度もありませんよ」
「ほざいてろ」
師匠はどことなく嬉しそうに言う。
そんな顔されると、こっちまで嬉しくなる。
「ひとしお鍛え直したな。どうだ? やはり上には上がいたか?」
「いましたね。一方的な破壊を受けました」
「ほう。経験になったじゃないか」
「そのせいでストーカーされてます。助けてください」
「嫌だ。どうせあいつだろ、メリナだろ」
「ご名答です」
「あー……でもあれだ、学校帰りだけだろ?」
「それが授業参観にも来るんですよ。毎回毎回際どい服で来ては授業に首突っ込んで、先生を論破するんです。もう、悪目立ちどころじゃないですよ。名のある学者の親御さんや、軍方面の副大臣まで擦り寄ってくる始末。まあ副大臣の方はメリナさんの身体に興味があったようですが…」
「あんの、アラサー魔女め」
「伝えておきます」
「やめろ。村が消える」
おおかた伝わっただろう。
メリナの話が本題だと。
「面倒な手順を踏むな。わかりにくい」
「さすが。師匠なら、わかってくれると思ってました」
「……似たようなことをな、昔言われたことがある」
「スピカさんに、ですか?」
「そうだ。まあ結局、俺は伝説の勇者でも何でもなかったんだが、万能感に酔いしれて常勝無敗を維持してた」
「で、メリナさんに負けた、と」
「いや…負けては無い。ただ近付けなかった」
「負け惜しみですか?」
「違うわ馬鹿者。あいつはな、千の太刀で天壊人を押し退けたのだ。んな馬鹿げたチート、誰が対応出来るか」
師匠が急に子供っぽく話し始めたので驚いた。
チートって何?
その単語知らない。
「残光・千剣の禍津日は、言わば千剣の簡易版。本当の千剣は、奴自身の血が生み出す鮮血の刃だ」
「それって……あの強化魔術そっくりでは?」
「そこからデメリットを省いた、完全上位互換と言えよう」
「……」
「とはいえ、身体強化魔術とはまるで別物だけどな」
ただでさえ強力な夭桃・号哭の真珠星からデメリットを省いた技。
千剣。
使えるものなら使ってみたい。
というか、それが無いと勝てないか。
「俺流の二刀流、極めたいと思います」
死に近づく戦い方かもしれない。
でも俺は、ミラの期待に応えたいんだ。
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