結ばれたい想いを剣に乗せて

杉の木ノキ

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第八章 時神の千剣編

第140話 これは攻めの剣か守りの剣か

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 千剣の構造を知るには、まず模倣から始める。
 取り敢えず真似て、感覚を掴む。
 出血に出血を重ねて、大量の肉を食べる。
 身体作りも並行して行わなければならない。

 メリナの肉体は少し特殊で、肉の代わりに大量の薬物を注入している。
 どう考えても身体に良くない、むしろ猛毒になりうる調合薬をこれでもかというほど服用している。
 凡人には理解し難い、マッドサイエンティストだ。
 何事も、自然が一番。
 
 「シズクが高熱を出して寝込んだ時、処方箋を無償提供してくれたらしいわ。ただ副作用が腸内細菌ぐらい多かったらしくて、ソニアが直前に渋ったんだとか」

 「死ぬってば、それ死ぬってば」

 そういうものを世間一般では毒と言います。
 勉強になったね、ミラ。

 「薬なんて無くても、筋トレしとけば治るよ」

 「出た。古の民間療法」

 「クロンも、そうやって治してたのでは?」

 「あの子はね、追い詰められると治るのよ」

 さらっと危険な暴露話が飛び出た。
 追い詰められる…て。
 病相手に効果的とは思えない。
 だが、武的観点から言うなら正道。

 「どうせなら、俺を追い詰めてくんない?」

 「いいわよ。そういうの大好き」

 「あ、そっちじゃないです、はい」

 「なによ。釣れないわね」

 ミラの背後から、不意討ちの刃が飛んできた。
 軽く首を傾けて回避。
 二対一は狡いだろ。

 「千剣なら、反射的に弾けるのだがな」

 リンドウ師匠の太刀が迫る。
 剣はいつの間にか消失していた。
 ミラの黒い糸に奪われたんだ。

 「教本を読み漁っている内に、頭が固くなったのではないか?」

 「そうかもしれませんね」

 油断を御する戦いの果てに、遊び心を忘れてしまった。
 構えた右手に、冷たい刃が当たる。
 寒気が走った。
 斬られると思った。
 実際斬られてて、距離を取った。
 
 何重にも展開した未完の千剣。
 両手を閉じるように挟み撃ち。
 指揮者を真似て巧みに操り、最速とされる師匠のお株を奪う。

 ただ軽すぎた。
 質量があまりにも酷く、かすり傷がやっと。
 貫通まではできない。

 「テオネスの残光を10とするなら、お前は2。物量なら20だが、如何せん分裂体にも及ばない精度と威力だ。てんで脅威にならん」

 即席の投影剣で師匠の剣を捌いた。
 蹴って弾いて、重心を傾ける。
 旋回から、薙ぎ払いの斬撃を放った。
 斬撃は、師匠の肩を軽く掠めるに留まった。

 「ふむ……剣技は衰えてないようだ。どころか、ますます磨きがかかってる」

 「ありがとうございます」

 「数を減らして重さを足せ。それだけで多少マシになる」

 言われた通り、投影の数を減らした。
 代わりに一本一本の質量をあげた。
 100本を50本に、更に減らして20本に。
 重さをテオネスの残光と同等まで引き上げた。
 
 そして的を絞る。
 さっきの攻防で露呈した瞬発力の欠如。
 それを補うために、相手の初動を潰す。

 「残……ちょっ!」

 足をすくい取られてコケてしまった。
 ミラが、このタイミングで邪魔してきた。
 なんてやつ。

 「足元が疎かになっているぞ」
 
 「そりゃあ邪魔されましたから」

 師匠の追撃を躱し、掌底を打ち込んだ。
 そしてトドメの残光。
 とはならず、直前で花びらにされた。

 「僅かに遅かったな」

 「反省点ですね」

 「まあそうだが……前向きに考えろよ? お前の本領は実戦なんだから」

 そうは言っても、ものにするには時間がかかりそうだ。
 経験を積まないと、俺は誰にも勝てない。
 何も守れない。
 
 「卑屈な性格は嫌いよ。シャキッとしなさいシャキッと」

 ミラが、ママしてる。
 ぽく見える。

 「それは、クロンがそうだったから?」

 「そうよ。なんでクロンを例題に挙げるのかわからないけど、というかなんで、さっきからクロンの話ばかりなの?」

 「曲がり角で直角に曲がらないでくれますか?」

 「私ヘビ嫌いなのよ。だからそうなる」

 「好き嫌いを論点に反映させないでくれ…」

 ミラに喉仏をツンツンとつつかれた。
 意味深で、不気味な笑みだ。
 つまり、しめたんですね?

 「ふふっ……あったりー」

 なにか理由があってそうしたんだろう。
 近いうちに探ってみるとする。
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