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第八章 時神の千剣編

第141話 三日空けて

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 三日ほどして自宅へと戻った。
 丸一日費やして、千剣のおさらいをした。
 生徒会長無断欠席が、学院中に広まったことは言うまでもない。

 トータル二日間のつもりが、まさか三日経っていたとは。
 時間の感覚が鈍っている。
 コルチカムにこっぴどく叱られた。
 ルピナスには始末書を提出しろと言われた。

 わいせつ行為などお構い無し。
 髪を弄ってくるわ、鼻をツンとつついてくるわ、耳に息を吹きかけてくるわ、鬼畜過ぎる。

 「あの、なんで俺だけ書かせれてんです?」

 「ん? 君が戦犯だから」

 「たかだか無断欠勤一回でしょうが。もうめんどいんで、理由記入欄に体調不良って書いときますね」
 
 「重罪だ」

 「あ、重罪なんですね。マジか……」

 背中をグイッと、胸で押された。
 俺、既婚者なのですが。
 落としにこないでくれますか?

 「リンドウの弟子だから大目に見てるけど、一般生徒なら即折檻してるから」

 「折檻…て。そんな物騒な」

 「特別扱いされてるだけ、マシに思わないとね」

 鼻と鼻が触れ合ったところで、理事長室の扉が開く。
 あっぶねぇ。
 咄嗟に後ろに倒れなければ、俺は間違いなく入室者に処刑されていた。

 「あ…」

 コルチカム学院長ではござらんか。
 どぎつい無表情で、右足を上に伸ばして。

 「ころ」

 「すみません!」

 なんで俺が謝ってんだ。
 理不尽、ここに極まれり。


---


 理事長室を後にして、教室へと戻った。
 ルリアが机の上にぐったりとしていた。
 勉強漬けの毎日に、頭がおかしくなっている模様。

 一方で、リードの余裕が垣間見えた。
 こいつは凄い。
 座学に関して言えば、俺と同等かそれ以上だ。
 応用こそシルバーに一歩譲るが、それでも十分戦場で通用するレベル。
 類稀な才能を遺憾無く発揮していると言えよう。

 ではフランはどうかというと、こいつはまさしく化け物。
 座学、実践を省いた全科目一位。
 特に文章問題に秀でている。

 これをこうするとこうなるから、こうしなければならない。
 で正解の問題に、理論上可能な推論を論文にして付け加えまくった結果、ほとんどの科目が100点を超える異例の事態に。
 職員会議でも、度々議題に上がるそう。
 筆が早くて、ミスが無いと高い評価を受けている。

 ディルクレムが教えているのだろうか?
 そう思っていた時期が、私にもありました。

 現在はマンツーマン方式が採用されている。
 なんと、彼女に勉強を教えていたのは、他ならぬリードであった。
 放課後、図書室を借りて教鞭を執っているそう。
 もはや教えを乞う立場なのだが、得意分野の違いもあり、お互いが教師と生徒だ。
 ぼっちじゃん、俺。

 「ボク、Sクラスから追放されるかもしれない…」
 
 シルバーも、俺の仲間かもしれない。
 学力的な意味では無く、人間関係の話で。

 「俺が教えてやろうか? 一応、学年一位だし」

 「本当に!? よかったぁ……二学年で最初に習うところから手詰まりだったから助かるよ!」

 「ごめん。それはもう助からない」

 二学年が一番範囲広いのに、序盤で躓いてら。
 なんて嘲笑いつつ、俺もおさらい。
 属性変化のあたりだったかな。

 ……ちょっと待てよ。
 思えば千剣って何属性なんだ?
 火? いやいや、錬成するとなれば土か?
 わかんないな。
 気にもとめてなかったから。


---


 シルバーの理解力の無さに頭打ちとなり、帰宅。
 死ぬほど疲れた。
 俺、教えるの下手なのかな…。

 「おかえりライネル」

 リーズがお出迎えしてくれた。
 スレナは買い出しかな。

 「ただいま。今はリーズだけか」

 「そうだよ。なに、不満?」

 「いえ全然…」

 事前説明を怠り、三日空けたのは良くなかった。
 案の定怒られた。
 次からは一言声掛けます、はい。

 「まったく。ライネルらしいよ」

 なんだかんだ、リーズは大目に見てくれた。
 隣にいるだけで暖かい。
 眠気を誘われる。

 「次の休み、二人だけでプルメリア行こっか」

 「プルメリア……てことはデートじゃないね」

 「察しがいいな。まあでも、ちょっとくらいはするさ」

 ミラは連れて行けない。
 おそらく彼女は、俺のプルメリア旅行を絶対に許さない。
 暴いて欲しい思い出もあれば、隠匿したい事実もあるからだ。
 今も、何処かで聞いてたりしてな。
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