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第八章 時神の千剣編

第142話 揺るがない想い

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 休日にプルメリアを訪れた。
 久しぶりの孤児院、モカラがダイブしてきた。
 それはもう大歓迎だ。
 煩悩に支配された彼女の身体は、烈火のごとく熱かった。

 ウェイルにお土産を渡して、部屋を借りた。
 持ってきた荷物を置いた。
 リーズの肩こりを解消しつつ、クロンから昔話を聞く。
 重たい話になると予想していたが、これがどうも温かい…。

 …ように話すクロンが見えた。

 「それでね、母さんが僕の腹をパンチしたの」

 「待って」

 「いつもなら足を舐めるだけで許してくれたのに、その時は許してくれなかったんだ。気づけば全身痣だらけでさ、泣けば泣くほど叩かれて、その度にゾクゾクした」

 「待ってって」

 資材置き場に火炎瓶を投げ入れるような炎上案件。
 重量級の思い出話が飛んできた。

 「虐待じゃない? それ」

 「客観的に考えればね。僕はそう思わないけど」

 「嫌じゃなかったのか?」

 「全然、むしろそれがよかった。エルフ特有の気性の荒さは僕に免疫をつけてくれたし、なにより母さんを独り占めできた。そのせいでエルフ以外に欲情できなくなった、てのもあるけど」

 「後遺症も重たいのな…」

 「これを聞いて、キミは母さんを嫌いになったかい?」

 「全然。むしろ最高」

 「気持ち悪過ぎて吐きそう」

 クロンとリーズに嫌な顔をされた。
 ふっといて、この仕打ちはあんまりである。
 
 「若くして母親になると色々大変なんだよ。人としての扱いが軽んじられたり、周囲の反応が冷たくなったり、縁が無いとアドバイスも聞けない。雨風に晒されながらも育ててくれた母さんには感謝しかないよ」

 そう聞くと、ミラも頑張ったと思える。
 偉いかどうか問われれば、偉いよ。うん。
 クロンへの八つ当たりも、まあ許容範囲かもしれない。

 「わたしとミラに共通することって、思った以上にないね」

 リーズが、けろっとした顔で言う。
 願わくば共通点が欲しかったのだろう。

 「女の勘は、どちらも鋭いんじゃないかな?」

 「うーん…あってそれだけかぁ」

 「キミは一人で全てを支えられる力を持ってるのに、敢えて役割を決めて二人で支えている。ライネルを守る屋根を、母さんと一緒に作ってるんだね」

 「それってつまり、お互いに譲歩し合う関係、てこと?」

 「そうそう。でなきゃ勇者なんて、とてもとても」

 リーズの疑問は、クロンにより解消された。
 俺って結構恵まれてるんだな。
 家族にも、仲間にも。

 「母さんのこだわりは今に始まったことじゃないし、これから先も続くけど、どうか末長くよろしくね。捨てたら殺すからな」

 クロンの殺気は、触れずして茶碗にヒビを入れる。
 ウェイルですら冷や汗をかくほどに、その魔力は濃い。

 さすがミラの息子だ。
 いや、俺の兄貴分か。

 「俺は絶対に捨てないし手放さない。証明なら、近いうちにしてやる」

 ミラと、その息子たちを捨てた男が、今ものうのうと生きている異常。
 絶対に正してやる。


---


 翌日早朝、孤児院の子供たちと朝食を共にした。
 みんないい子達だ。
 俺とリーズを、これでもかと言うほど慕ってくれている。

 恩義がどうのこうの、はハッキリ言ってどうでもいい。
 あれは俺が勝手にやって、勝手に変えた歴史だ。
 気まぐれの延長線上に、彼らが居ただけ。

 俺は強くならないといけない。
 強くならないと、みんなを守れない。

 この先、敵は無数に増える。
 強大な敵だって待ち構える。

 本来なら、俺はやらなくていいのかもしれない。
 家族を連れて逃げれば、それで済む話なのかもしれない。

 でも、それは賢者であって勇者じゃない。
 誰もが望む、理想の勇者じゃない。

 俺はなりたいんだ、勇者に。
 彼女らの目に狂いは無かったと、証明したいんだ。
 
 いつかの夢に届くように。
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