結ばれたい想いを剣に乗せて

杉の木ノキ

文字の大きさ
54 / 56
第九章 天壊人編

第144話 最後の一時

しおりを挟む
 ――ヴォルデット王国を壊乱の後横断。更には近郊の港を蒸発させ、動植物を腐らせた。

 ああ、もちろん俺はやってないよ。
 天壊人の仕業だよ。

 この話を俺はコルチカムから聞いて、ルピナスに相談された。
 難しい顔で「どうか」と頼まれた。
 変にイチャつくと天井裏からミラ様が降臨なされるので、気丈顔でやり過ごした。

 帰宅して。
 色々考え事をしているうちに溜まるものが溜まり、テオネスでも寝取ろうかと思い、彼女の寝室に移動すると、今まさに子育ての真っ最中でそれどころではなかった。
 蒼穹で待つ両親にごめんなさいと謝った。
 言っとくけど、全部冗談だからね?

 剣のメンテナンスは早々に終わらせ、暫くスレナとだべっていた。
 けしからん谷間に顔を埋めた途端、天井裏がパカりと開く。

「ただいま」

「玄関はそこじゃないの。あとなんで理事長室以外の天井を改造してんの?」

「完全なる趣味。ライネルを監視するの大好きだから」

「ああ…そゆこと」

 両手に花が、異常に暑苦しく感じた。
 俺を中心として、二人が両隣に座る。

「なにも、無理しなくていいのでは?」

「いやいや、俺の目指す勇者の称号は、つまるところ世界最強の頂。天壊人は避けて通れないよ」
 
「……死んだら嫌です」

「死にません。絶対に生きて帰ってくる」

 スレナの潤んだ瞳に、大洪水不可避。
 流れでキスしようとしたが、ミラに身体を引っ張られた。
 生殺しが過ぎる。

「あの人外に、貴方の剣が届くかしら?」

 ミラが、珍しく冷たいことを言う。

「闇属系の強化魔術なら、光属系の相殺魔術で完封できる。まあ……素のスペックが壊れてるからな、なんとも言えない」

「…死ぬ前にはシましょ」

「敵前で野外プレイはナッシング。奴をぶち回してからでいいか?」

「……うん」

 とか濁しつつも、やっぱり可哀想に思う。
 本当に可哀想だ。
 可哀想、可哀想…。

 と、今度はスレナに耳を強く引っ張られた。

「私の本気の拳で、ようやく互角かもしれないんですよ?」
 
 これは否定しようもない事実である。
 奴は、こと筋力の一点に評価を絞ろうとも世界最強。
 小突き一つで人間を絶命まで追いやれる、その超人的な腕が六本もあるのだ。
 考えたくもない。

「全部斬り落とした後、一文字切りでフィニッシュする」

「搦手を使うんですね」

「ああ。付け焼き刃がどの程度作用するかわからないけど、取り敢えずやってみる。通用しないなら手数で押し切るまでだ」

「その自信、わたしを助けてくれた時と似てますね」

「……あの時はまだ幼稚で、考えもだいぶ幼かったよ」

「そんなことないです。今も昔も、変わらずライネルさんは頼もしいですよ」

 強い言葉で、ありもしない誇りを語る俺が?
 そんなわけないよ。
 俺はただ、家族を守りたいだけで…。

 …ミラと目が合って、視線を逸らした。
 不甲斐なくて。

「その気持ちは曲げちゃダメよ」

「曲げるもんか。俺は……いや、思えば俺は…」

「……」

 テオネスに支えられ生きてきた。
 リーズに愛され生きてきた。
 リードが遊びに連れ出してくれて、シズクが俺を強くしてくれた。
 そして、影からリンドウ師匠が見守ってくれていたんだ。

「俺の言う全ては最小単位なのかもしれない。でも、それは誰もが同じことで、その後成すことの重大さが、その人の価値を決定付ける。そうだな…うん。俺は、ただ夢を叶えたいだけなんだな」
 
「ライネルさんが夢の話をするなんて…初めてです」

「まあ、夢ってほどでもないんだけど。そんな感じのがある。追いかけたい背中があるんだよ」

 ダメだ…これ以上はいけない。
 遺言みたいになってしまう。

「負けないから」

 そう言い残し、自室へと戻った。

 
---


 早朝、身支度を整えた。
 玄関扉に手をかけて、ふと振り返った。

 寝巻き姿のテオネスが、俺の胸に飛び込んできた。

「いやだ…」

 誰よりも長く一緒にいた妹からの、切実な願い。
 それはどんな願いよりも、重く痛かった。

「大丈夫。ちゃんと帰ってくるから」

「やだ…いやだぁ…」

 ボロボロに泣き崩れるテオネスの頭をそっと撫で、扉を開けた。

「愛してるよ、テオネス」

 この世全ての生物を無に帰す怪物、天壊人。
 たとえ相手がそれだろうと、五体が引き裂かれようと、俺は死ねない、負けられない。

 もう、泣いた背中は見せられない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...