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第十八話 混沌
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三成襲撃事件は、すぐに知れ渡っていく。
しかし、それと同時に少ない兵力で撃退し、尚且つ、加藤嘉明や十名ほどの将の戦死。
武断派は集まり、互いを責め合った。
「無理にでも、攻めるべきだった! 清正に長政! 臆病風にでもふかれよったか!?」
黒田長政は落ち着いた口調で福島正則の罵倒に答える。
「あのまま攻めておれば、三成に我らを皆殺しできる大義名分ができる。そして、あの日、私たちを襲撃した者はそれを簡単にできたであろう」
「では、なぜ孫六だけを……」
正則はハッとして口を閉じた。
その場にいた全員が襲撃の黒幕に気づいたからだ。
ーー北政所。
そう、加藤嘉明は北政所との仲は良くない。
しかも、嘉明は徳川家康にいち早く取り入っており領地の加増と家の安泰は確実である。
ーーこのままなら復讐は永遠に叶わぬ。
その場にいた武断派は全員青ざめた。
加藤嘉明以外、全員無傷。
北政所は石田三成側についた可能性が高い。
彼女は一言も述べていないが、容易に想像がつく。
勇猛である清正が恐怖心を振り払おうと一度深呼吸する。
ーー次は自分だ。
清正の旗印を持った武将が大半である。
しかも、朝鮮出兵の際、前線で戦い抜いた猛将たちを失っている。
今、戦乱の世になると隣国の小西行長は真っ先に兵士を送り込んでくるだろう。
「どうした? 清正? お主は家康殿とは近いはずであろう? 安心いたせ」
正則が清正を励ます。
しかし、清正には大きな懸念事項がある。
もし、それが白日の元に晒されれば、加藤家を家康は見放すだろう。
信頼する部下は、ほぼやられている。
ーー会談など早く終わらせて国に帰らねば。
清正は焦りを見せる。
一方、すでに準備を終えた三成と北政所、徳川家康の三人は笑顔を交えて歓談にしていた。
「此度は申し訳ございません。私の不得の致すところ……」
三成は家康に頭を下げて謝罪した。
「いやいや、三成殿、私はあなたの苦労も理解しております。お気になさらずに」
家康は笑みを絶やさないが、内心では思い通りにならなかった焦りがある。
ーー仲裁に入っていた前田利家がいない。豊臣恩顧の武将は武断派と文治派で争いがある。そこに付け入る隙がある。武断派が勝手に暴走することまでは読めていたが……
そして、もう一つの焦りの理由。
秀吉との過去にしか生きていなかった北政所の目が未来に向いている。
その未来に家康は存在しない。
この一件、裏で動いているのは北政所である。
ーーワシと一戦交えるするつもりか?
豊臣家にいる人物の中で最も敵に回してはいけない存在を動かしてしまったのかもしれない。
準備ができたという小姓の合図により、会談が始まった。
一番最初に声を上げたのは石田三成だった。
次の言葉に一同が驚愕する。
「申し訳ない」
彼は自身を襲撃した武断派の武将たちに土下座をして、これまで自分が行ってきたことを謝罪したのだ。
北政所はニッコリと優しく笑みを浮かべ、提案をする。
「三成には隠居してもらいます。しばらくは三成の兄である正澄さんに佐和山を任せ……」
次の言葉に一同はさらに驚く。
「監視役として、黒田家からは後藤又兵衛殿、加藤清正からは飯田覚兵衛殿を与力として三成のもとに置くこととします」
家康は焦る。
ーー後藤又兵衛、飯田覚兵衛を石田方に取られては苦戦することは必至。
しかし、家康からは何も言うことはできない。
後藤又兵衛は主君と……飯田覚兵衛は清正の息子と揉めている。拒否しないだろう。むしろ、彼らにとっては渡りに船に近い。
家康は笑みを絶やさないが、汗をかいている。
北政所はその家康の表情を見つめながら、武断派に言う。
「三成への憎しみ。今宵で終結。よろしいですね?」
武断派は頭を下げる他ない。
ーー今、拒否することは家康殿、豊臣家に弓を引くも同然。
この解決は加藤清正の終わりを意味していた。
有能な配下を多数失った上にNo.2の飯田覚兵衛を失い、そして、彼の最大の過ちは近いうちに白日の元に晒される。
さらに北政所は続ける。
「加藤嘉明の領地は彼の子である孫次郎は、まだ幼いはずです。私の配下である方正孝直にしばらく統治させましょう」
これにも意を唱える者はいない。
方正孝直も転生した武将であり、史実にはいない。もちろん高い能力がある。
だが、彼も家康に靡かない男の一人。
史実の歯車が大きく狂い始めている今、
関ヶ原はどちらに転ぶのか?
しかし、それと同時に少ない兵力で撃退し、尚且つ、加藤嘉明や十名ほどの将の戦死。
武断派は集まり、互いを責め合った。
「無理にでも、攻めるべきだった! 清正に長政! 臆病風にでもふかれよったか!?」
黒田長政は落ち着いた口調で福島正則の罵倒に答える。
「あのまま攻めておれば、三成に我らを皆殺しできる大義名分ができる。そして、あの日、私たちを襲撃した者はそれを簡単にできたであろう」
「では、なぜ孫六だけを……」
正則はハッとして口を閉じた。
その場にいた全員が襲撃の黒幕に気づいたからだ。
ーー北政所。
そう、加藤嘉明は北政所との仲は良くない。
しかも、嘉明は徳川家康にいち早く取り入っており領地の加増と家の安泰は確実である。
ーーこのままなら復讐は永遠に叶わぬ。
その場にいた武断派は全員青ざめた。
加藤嘉明以外、全員無傷。
北政所は石田三成側についた可能性が高い。
彼女は一言も述べていないが、容易に想像がつく。
勇猛である清正が恐怖心を振り払おうと一度深呼吸する。
ーー次は自分だ。
清正の旗印を持った武将が大半である。
しかも、朝鮮出兵の際、前線で戦い抜いた猛将たちを失っている。
今、戦乱の世になると隣国の小西行長は真っ先に兵士を送り込んでくるだろう。
「どうした? 清正? お主は家康殿とは近いはずであろう? 安心いたせ」
正則が清正を励ます。
しかし、清正には大きな懸念事項がある。
もし、それが白日の元に晒されれば、加藤家を家康は見放すだろう。
信頼する部下は、ほぼやられている。
ーー会談など早く終わらせて国に帰らねば。
清正は焦りを見せる。
一方、すでに準備を終えた三成と北政所、徳川家康の三人は笑顔を交えて歓談にしていた。
「此度は申し訳ございません。私の不得の致すところ……」
三成は家康に頭を下げて謝罪した。
「いやいや、三成殿、私はあなたの苦労も理解しております。お気になさらずに」
家康は笑みを絶やさないが、内心では思い通りにならなかった焦りがある。
ーー仲裁に入っていた前田利家がいない。豊臣恩顧の武将は武断派と文治派で争いがある。そこに付け入る隙がある。武断派が勝手に暴走することまでは読めていたが……
そして、もう一つの焦りの理由。
秀吉との過去にしか生きていなかった北政所の目が未来に向いている。
その未来に家康は存在しない。
この一件、裏で動いているのは北政所である。
ーーワシと一戦交えるするつもりか?
豊臣家にいる人物の中で最も敵に回してはいけない存在を動かしてしまったのかもしれない。
準備ができたという小姓の合図により、会談が始まった。
一番最初に声を上げたのは石田三成だった。
次の言葉に一同が驚愕する。
「申し訳ない」
彼は自身を襲撃した武断派の武将たちに土下座をして、これまで自分が行ってきたことを謝罪したのだ。
北政所はニッコリと優しく笑みを浮かべ、提案をする。
「三成には隠居してもらいます。しばらくは三成の兄である正澄さんに佐和山を任せ……」
次の言葉に一同はさらに驚く。
「監視役として、黒田家からは後藤又兵衛殿、加藤清正からは飯田覚兵衛殿を与力として三成のもとに置くこととします」
家康は焦る。
ーー後藤又兵衛、飯田覚兵衛を石田方に取られては苦戦することは必至。
しかし、家康からは何も言うことはできない。
後藤又兵衛は主君と……飯田覚兵衛は清正の息子と揉めている。拒否しないだろう。むしろ、彼らにとっては渡りに船に近い。
家康は笑みを絶やさないが、汗をかいている。
北政所はその家康の表情を見つめながら、武断派に言う。
「三成への憎しみ。今宵で終結。よろしいですね?」
武断派は頭を下げる他ない。
ーー今、拒否することは家康殿、豊臣家に弓を引くも同然。
この解決は加藤清正の終わりを意味していた。
有能な配下を多数失った上にNo.2の飯田覚兵衛を失い、そして、彼の最大の過ちは近いうちに白日の元に晒される。
さらに北政所は続ける。
「加藤嘉明の領地は彼の子である孫次郎は、まだ幼いはずです。私の配下である方正孝直にしばらく統治させましょう」
これにも意を唱える者はいない。
方正孝直も転生した武将であり、史実にはいない。もちろん高い能力がある。
だが、彼も家康に靡かない男の一人。
史実の歯車が大きく狂い始めている今、
関ヶ原はどちらに転ぶのか?
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