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第二十六話 官兵衛②

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北政所が九州から京に戻ると、三成宛に如水からの手紙が届いたという。

「毛利側で参戦する」

三成は左近、十郎にも見せる。

「いかがなさいますか?」

左近が静かに三成に尋ねる。

「我が軍に危害を加えぬのであろう? ならば、相手にする必要はない……危害を加えぬのであればな」

三成に喜びはない。
ただ、落ち着いた言葉でそう答えた。

彼は天井を見つめて思う。

ーー最後に会ったのはいつであろうか?

如水とは疎遠になってしまった。


彼は過去を振り返る。


三成は人事に関して秀吉から一任されており、朝鮮の役などに関して反対の立場をとっている如水を京の都から離れた場所に左遷させることになる。

秀吉の軍師ではあるが、能力が高いことを秀吉から警戒されてしまい五大老にも選ばれることはなかった。

ーー同じ轍を踏まぬ。如水殿をこちら側につかせなければ。


三成は如水に直接会い、頭を下げて中津城への左遷を言い渡しに行く。

「三成か?」

如水は笑顔で迎えてくれた。


「皆、最近、冷たくてな。ワシは秀吉様にも嫌われたようで会ってくれぬ」


如水は冷酷な人間と思われるが、部下や領民、味方に対しては優しい。

笑顔で雑談に応じ、左遷に関しても受け入れた。

ーー今回は味方として引き入れる。

如水は秀吉の軍師として織田信長配下のときから活躍していた。
三成との交流は長い。
それ故に如水の能力に関しては痛いほど理解しており慎重に対応していた。


「お主も苦しいのであろう? わかっておる……」

三成は申し訳なさで表情の全てを埋め尽くしていた。

如水はそれを察して笑顔で話し出す。


「よいのだ。気にするな。それより懐かしいな。毛利攻めの時……」

三成は初めて緊張を緩和させた表情を見せた。

「ええ、大返し……誠に無茶なことをする方でした」

「ああ……そうだ。だが、あの頃の秀吉様はそれを覆す魅力があった。そして、面白かった。この人に天下を制覇して欲しかったと思い願いが叶った。だが、側にはワシはいない……まぁ言っても無駄であるな」


「いえ、時期が来たら秀吉様に私から……」

如水は笑顔を崩さずに明るい口調で話す。

「よい、よいのだ。今宵はゆっくり話そう」

二人は長い時間語り合った。
思い出話を長々と。


ーー殿、如何なされましたか?

左近の声が三成を現実に戻す。


「殿、何かございましたか?」

三成は涙を流していた。

息子の長政は三成自身と対立し徳川家康のために調略を繰り返している。
如水とは敵対するしかないのだ。

三成は又兵衛に言う。

「中津城に向かって良いのだぞ」

又兵衛は即答する。

「戻る気は毛頭ございません。ワシは既に三成殿の配下にございます。命を賭して殿をお守り致す。

「左様か……では、行こう」

伏見城攻めのために集まった武将たち、そして、商人である安井道頓の前に三成は涙を拭き、姿を現した。








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