マルチバース豊臣家の人々

かまぼこのもと

文字の大きさ
2 / 28

第二話 それは小牧長久手から始まった。

しおりを挟む
家康の運の無さ。
それは小牧長久手の合戦から、すでに始まっていた。
秀次の暴走により森長可、池田恒興ら有能な武将は戦死し、家康は勝利していた。

しかし、一抹の不安はある。

ーーこのまま戦って何になるのか?

西からは支援を申し出た長宗我部がいる。
上手く挟み撃ちをすれば、このまま羽柴家を滅亡させることは可能だろう。
しかし、織田信雄が言う天下など叶うわけがない。
九州は時期に島津が支配し、中国は毛利、上杉も羽柴が落ちるとわかれば領土の拡大に打って出てくるだろう。
天下は混沌とするだけだ。

羽柴軍の本営6万が攻めにくると聞き、本多忠勝が迎撃に出た。
家康にとって彼は切り札のような存在であり、万が一、信雄はこれくらい動員できると知っても闘い続けるだろうか?
いや、あの男は戦わないだろう。
単独で闘うことになった際に置いておきたいと留守を任せていた。
秀吉は少数精鋭でやって来た忠勝の勇気に心を打たれ、退却をしようとしていた。

「秀吉様! あの者を討つ好機ですぞ! なぜ、退くのですか!?」

若い加藤清正、福島正則はまだ武士のモラルを知らない。
卑怯にも不意を狙うなど、恥に近い行為。


秀吉が単騎で馬に水を飲ませている忠勝を二人に見せながら言う。

「清正、正則よぉ、戦ってのは勝てばいいってわけじゃにゃーよ。あの姿見てみ。凛々しいじゃろ? アレこそ武士の……」と秀吉が絶賛した瞬間……銃声が聞こえ、忠勝が前のめりに倒れる。

「にゃにゃ!? どうしたぎゃ!」

秀吉が驚き、仔細を尋ねると……

足軽が褒美欲しさに暴走したとのこと。

「にゃにゃにゃ! おみゃあ! どうしてくれんだぎゃ!! やっちまった足軽の首持って、家康に謝れ!」

秀吉が怒り狂うと、弟の秀長となぜかまだ生きている竹中半兵衛が言う。

「いやいや、兄者よぉ、そりゃかわいそうだで。金やって帰してやろう?」
「その通りです。彼らがやったことは正当な攻撃。油断した本多忠勝に落ち度があるように思います」

秀吉はこの二人には頭が上がらない。

「にゃにゃにゃあ……」

秀吉は怒りを堪えながらも、討ち取った足軽に褒美となる金と食料を与えた。

「さすが、秀吉さんやで! 今日は祝杯や!」

喜ぶ足軽たち。

竜泉寺付近にいた徳川軍は忠勝が討ち取られたことにより総崩れとなる。

徳川家康はなんとか持ち直すが、士気は目に見えて低くなっている。


この場合、問題は織田信雄だ。
彼がもしかすると、単独講和の可能性がある。
家康は今のところ有利に闘えてはいるが、単独で講和されると大義名分がなくなる。
大半の大名は敵になってしまい、次第に戦況は悪化してしまう。
秀吉側も焦りがあり、長宗我部、北条、佐々成政が徳川と組んでおり本格的な参戦の準備に入っていることを知る。
日本が真っ二つになっていたのだ。
そして、戦況は少しずつ秀吉側に有利なものとなっていく。
しかも、大雨の影響で徳川家の兵士動員は上手くいかず、ますます戦況は厳しくなる。

そして、家康側に負け戦が増えてきた。

これを機に織田信雄は講和に応じ、家康も地震や大雨の影響で戦どころではなくなり、講和することになる。

「困ったときゃ、お互い様じゃ。講和に応じたるでよ」

両家互いにメリットしかない講和。
この戦は消耗するだけで意味がないものに変わっていったのだ。
もちろん、北条、佐々、長宗我部から反対された。
後に北条や佐々、長宗我部は徳川家康が天下人になることを望んでいた。
このままでは秀吉に無理難題を押し付けられて、破滅していくのはわかっている。
家康は彼らの命乞いに近い戦の継続要請をガン無視して秀吉と共に歩むことを決意する。
ここは史実通りなのだが、本多忠勝が討ち取られたことが後に大きな変化となるのであった。

続く。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜

かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。 徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。 堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる…… 豊臣家に味方する者はいない。 西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。 しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。 全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

【架空戦記】狂気の空母「浅間丸」逆境戦記

糸冬
歴史・時代
開戦劈頭の真珠湾攻撃にて、日本海軍は第三次攻撃によって港湾施設と燃料タンクを破壊し、さらには米空母「エンタープライズ」を撃沈する上々の滑り出しを見せた。 それから半年が経った昭和十七年(一九四二年)六月。三菱長崎造船所第三ドックに、一隻のフネが傷ついた船体を横たえていた。 かつて、「太平洋の女王」と称された、海軍輸送船「浅間丸」である。 ドーリットル空襲によってディーゼル機関を損傷した「浅間丸」は、史実においては船体が旧式化したため凍結された計画を復活させ、特設航空母艦として蘇ろうとしていたのだった。 ※過去作「炎立つ真珠湾」と世界観を共有した内容となります。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記

颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。 ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。 また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。 その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。 この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。 またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。 この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず… 大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。 【重要】 不定期更新。超絶不定期更新です。

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

処理中です...