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第百八十三話『僕たちの実食』

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 まず最初に驚かされたのは、ハンバーグがしっかり鉄板に乗っていることだった。

 こういうのは一律に紙皿に乗せられるものだと思っていたのだけれど、そういう所までこのレストランはこだわっているらしい。そのためにどれぐらいの予算がつぎ込まれているかと考えると、そろそろ『流石私立高校』と言っていい領域すらもはみ出し始めているような気がしてならない。

 と言うか、良く見てみればエビフライ定食も和食セットも全部ご丁寧に違う器だ。家庭科室には大きめの流し台もあるし洗い物もまあできなくはないだろうけど、それにしたってこれだけの量を洗うには時間も人でも結構な規模が必要なはずだ。……もしかして、ここにいないクラスの人たちのほとんどが荒い場に居たりとかするのだろうか。

「……ねえつむ君、ここの家庭科には食洗器とかがあったりするわけじゃないよね?」

「ないない、流石にそこは手動だよ。……誰かがわざわざ家から持ち込んでる可能性を否定できないのがちょっと恐ろしいところだけどさ」

 セイちゃんも同じことを考えていたようで、唐突に投げかけられたそんな問いかけに僕は自信なさげに首を横に振ることで返す。僕の記憶が正しいなら流石に食洗器はなかったはずなのだけれど、この学校の事を考えればあったとしても『記憶違いだったか』ぐらいで済ませられてしまうのは間違いなかった。

「これだけすごいってなると、ここから先どんどん人が増えそうだね……。大丈夫なのかな?」

「大丈夫だからこうして開催に踏み切ってるって信じたいけどね……。まあ、何れにしたって私たちにできるのは『幸運を祈る』って言いながらこの料理を味わう事だけだよ」

 私たちの公演に人が吸われてむしろ減る可能性もないでもないからさ――と。

 冗談めかした調子でそう言いながら、セイちゃんは軽く手を合わせる。僕と千尋さんもそれにつられるようにして手を合わせる。そして小声で『いただきます』と揃って挨拶をして、切り分けたハンバーグを口の中へと運ぶと――

(これは、思った以上に……)

 一噛みした瞬間、ともすれば舌の上に乗せた瞬間か。それぐらいすぐに旨味の波が口の中を一瞬にして包み込んで、僕の目を自然と見開かせる。凝っているのは内装や食器だけじゃなく、料理も明らかに一流レベルだった。

 これだけクオリティが高いと、食器やら内装やらが料理を引き立たせるために急遽作られたのかと思えてしまう。普通の文化祭のような飾りつけの中に紛れさせてしまうと、このハンバーグは明らかに浮いてしまうものだ。ほぼ教室の面影が感じられないぐらいにまで内装を整えて初めて、このレストランはハンバーグにそぐうものになりえるのかもしれなかった。

「すごい、ぷりっぷりだよこのエビ!」

「和食もすごいな、多分これとんでもなくいい味噌を使ってる。……この店がもしも毎日営業するような物だったらと思うと、いくつかのレストランは涙目にならざるを得ないだろうね」

 少し遅れて一口目を堪能した二人も同じように、料理に対して称賛の言葉を惜しみなく発する。こういうのは一口目が一番来ると言うけれど、かと言って二口目以降になったら飽きるのかと言われたら絶対にそうではないわけで――

「……これは、最優秀賞に向けた一番のライバルになるだろうな……」

 思っていた以上の速度で鉄板の中身を空っぽにしながら、僕は半ば無意識にそう呟いていた。
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