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 先輩の手の握力を感じながら水からあがる。
 水着を着たカエル。
 サルやらウサギやらと競演する国宝みたいにこっけいだ。

「おめでとう」
 先輩はもう一度、そう言ってくれた。
 目を合わせることが出来ない。
 何かが喉の奥をこみ上げてくる。
「おかしくないですか? わたしカエルなんですよ?」
 わたしは、熱くて塩辛い、それを押し込めると、何とかこれだけは聞いた。
「そんなこまかいこと、いいから」
「えっ!」
 意外な言葉に驚いてわたしは思わす先輩の目を見つめる。
 ……もしかして先輩、カエルでも良いんですか?

「いやね、ちょっと無責任なことを言っちゃったかなって、反省してたんだ。ホント泳げるようになってよかったね。ほっとしたよ」

 ──あ、やっぱし、そこが心配だっただけですか。

 はー。
 とにもかくにも、先輩は誉めてくれた。
 今日のわたしにはそれだけで、それだけで十分だった。
「ありがとうございます! 先輩!」
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