私の旦那様は骸骨です。から始まる異種族恋愛シリーズ

七海 夕梨

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2章 乙女な魔王と貢物の王子

2章-3

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「これを見て!」
「──っ! @dぁmをがlsmわ」

 王子が見せた長方形の物体に魔王はおかしな叫び声をあげた。

(あれは『ロマンスの魔法』続き! まさかもう新刊が? 人間界の書籍情報は完璧だと思っていたのに(注:魔王調べ) この私が愛書の発売日を見落とすなんて、なんたる不覚───はっ! これも王子の作戦? 最重要機密事項である私の愛書を知ってるなんておかしいもの。だけど私は魔王よ。この程度で攻撃をやめると思ったら、大間違いなんだからっ)

「愚か者め。そのような物で、余が翻弄するとでも思ったか!」

 魔王は再びスーパーポーカーフェイススキルを発動した──が、魔王の手からは剣が消え、かわりに寄越せとばかりに本へと手が伸びている。

「おねえさんってば、欲望に忠実だね」

 王子は素早く本をガードすると、魔王の手は空をきる。

「ち、違う! そんな本に興味などっ」

 魔王が頬を赤めて怒鳴り返すが説得力は皆無だ。今も隙あらば本を奪おうと目が爛々としている。

「あのさ、俺はにはならないよ。一応、停戦しに来たわけだし」
「ならばなぜアースガルドの敵などと」
「だってあいつは……。それよりも、これ欲しくないの?」

 王子がわざとらしく話を切り替え、チラチラと本を見せつける。

「ちっ、小賢しい奴め。要求はなんだ?」
「さっすがおねえさん、話が早くて助かるよ。人生を賭けた真面目なお願いなんだけど」

 王子の漂う空気が一変し魔王は身構える。先ほどまで飄々としていた王子が突然、真顔になったからだ。

(何を要求する気? 人生を賭けるなんてただ事じゃないわ。魔界にある希少な魔石かしら? まさか歴代魔王が記した禁書だったらどうしよう。どれも簡単にOKとは言えないわ。でも目の前に新刊がっ。後で買いに行くにもアースちゃんに隠れては至難の業だし。くぅぅぅぅぅ)

「俺の願いは一つ」
「───っ!」

 魔王が唾をゴクリと飲み込む。

(禁書か魔石か禁書か魔石か禁書か魔──)

「愛してる。だから俺を愛して欲しい」
「……は?」
「すぐにとは言わないし、強制もしない。ただ、意識はして欲しいなぁと」

 あらゆる要求を模索していた魔王の脳が真っ白になる。よりによって人間が魔王に愛を求めるとは。

「はっ! わかったぞ。婚姻し、停戦をより強固にしたいのだなっ!?」
「そういう堅苦しい理由じゃないんだけど。そりゃあ将来的には結婚もしたいし、子供もいっぱい欲しいけれど。まずはちゃんと俺と向き合って、俺が欲しいって思って欲しいな」

 王子の顔は真剣だ。嘘を言っているようには思えない。

(ど、どうしようっ。初めて告白されちゃった……て、おかしくない?)

 よく考えてみたら王子が魔王を好きになる理由がない。拷問され犬の辱めを受けて始まる愛などあるのだろうか。あったらあったで王子の性癖が色々と心配だが。

 冷静になった魔王の心が深く沈む。そもそも人間が魔王に愛を捧げるなど、あるはずがない。

(となると……)

 沈んだ魔王の心がさらに闇へと落ちていく。

「余を籠絡させ、利用する気だな?」

 冷たい声で魔王は王子に近づくと、その首に爪を立てた。乙女の心をもて遊ぶ輩に情けをかける必要などない。たとえ本を手にできなくても……いや最初からこの少年をぶった切って本を奪えばよかったのだ。そうふっきれた魔王の爪が容赦なく王子の首へと突き刺さっていく。だらだらと首から血が流れ、王子は息をのんだ。が、どういうわけか王子は魔王から逃げる様子はない。

「籠絡かぁ。一回でいいからさせてみたいなぁ。いつだって俺が追っかける側だし」

 王子はそう言い、愛し気に魔王の手に自身の手を添える。首元の凶器には気にも留めず、魔王を見る青い瞳に恐怖はない。むしろ飢えた獣のような、渇望の眼差しで見られ、魔王はぶるりと鳥肌がだった。

「さ、触るなっ」
  
  魔王は慌ててその手を振りほどいた。嫌な汗が背を伝う。今すぐ王子の首を刎ねろと魔王たる自分が叫んだ。けれども体が反応しない。

「くそうっ、お前を見るとイライラするっ」

 魔王は当たり気味に王子に何かを投げつけた。王子は驚いた顔をしたが、足元のハンカチを見て苦笑する。これで止血しろと魔王は言いたのだ。王子はハンカチを拾うと首元に当て、息を大きく吐いた。

「おねえさんってば言葉は厳しいくせに優しいなぁ。そこが好きなんだけど」
「黙れ。息をするように口説きおって」
「あ~やっぱ必死なのがばれた? 俺ってまだ15のひよっ子だし、おねえさんは魔王だ。さすがに今回はハードルが高いって、焦っちゃって」

「今回?」

(まるで初めてではないような)

「あ~おねえさんは妻の生まれ変わりなんだよ」
「……脳を医者に診てもらえ」

 どうやら王子は虚言癖があるらしい。もしや問題児なので貢がれたのではと魔王は思い始めた。

「いやいやいや、本当だから」
「よかろう、余、自らその脳を勝ち割ってやる」

 魔王は真顔のまま魔剣を出現させる。
 
「わわわ~!! まってまって、これを見てこれ!」

  ごうっと燃えるような音がすると、王子の掌から炎を纏った一匹の鳥が羽を広げた。その美しさに、魔王は目を奪われる。

「フェニクス!!」

(まさか神獣が人に憑くなんて。なるほど、枷はこの鳥の魔力で解いたのね)

「そ、俺は15の時にフェニクスに憑かれた。こいつの加護は知ってるだろう? 『魂を見る眼』と──
「『死しても蘇る力』……だったか?」
「正解。俺は死んでも記憶を保持したまま15歳の姿で蘇るんだ。おかげで大切な人が先に逝く『負のループ』からは抜け出せない。これでも何度か孤独を埋めようと努力はしたんだ。でも結局は同じ孤独に陥る。だから人との深くかかわるのをやめたんだ。それはそれで結構きつくてさ。何度もこの鳥を殺そう思った──けれど出来なかった」
「だろうな。フェニクスは神獣だ。殺せば人に災いが起きよう。王子という立場であればなおさらしてはならぬ」

 魔王の言に王子は、おねえさんは厳しいなぁと言い、苦笑する。
 
「あと、フェニクスこいつを人前にさらすと、3日は嫌味を言われる。これが一番辛い。すぐ人の事をヘタレとか言いやがって!」

 文句を言われたからか、フェニクスはぷいっとそっぽをむくと、王子の手のひらに潜り込み姿を消してしまった。おそらく普段は王子の体の中にいるのだろう。もしかしたら今頃嫌味を言ってるかもしれない。

「とまぁ、こいつと付き合うのは大変なんだ」

 王子は笑いながら言うが、どこか寂し気だ。それは15の少年がする顔ではない。王子の言う事が本当ならば、今まで孤独と喪失の中を生きて来たのだろう。それは長寿種である魔王でさえ、想像を絶する生だ。

「だからと前世の妻だと妄言し、口説くのはどうかと思うが……」
「妄言じゃないって。フェニクスのもう一つの力『魂を見る眼』を忘れてない? 俺はその力で妻を見つけ、愛してきた。それが生きがいだったこともあったけど、結局は孤独に陥るからやめてたんだ──なのにまた君が現れた」

(そう言われても……)

 魔王は困った。王子の妄言が正しければ、魔王は王子の妻の生まれ変わりらしい。だからと愛に答えるつもりなどない。

(だって私は魔王だもの──ううん、違う)

 一番の理由は、王子の告白は、魔王にとっては空気のように『重み』を感じないのだ。

 たとえ愛の言葉に嘘がなかったとしても。

「悪いがお前の気持ちに答えられん。お前が愛しているのはであって、ではない」

 魔王の言葉に王子は酷く傷ついた顔をした。可哀そうだがこれでいい。この王子は妻の存在に囚われている。他の人間と新しい恋を見つけた方が幸せだろう。

 魔王は己の考えに間違いはないと思ったが、なぜか心が深く沈んだ。

「おねえさんは本当に酷いなぁ」
「いや、余に妻の幻影を重ねるお前のほうが酷かろう?」

 魔王の言葉に王子は俯いた。やはりなとチクリと魔王の心が痛む。

「重ねてなんかいない……いや、そうだったとしても俺は忘れるつもりだった。なのにどうしてこんな手紙を送ってきたんだ」

 王子が本を魔王に突き付ける。先ほど魔王が喉から手が出る程欲しかった『ロマンスの魔法』の新刊だ。

「これが手紙だと? 本ではなかったのか?」

 意味が分からず魔王は本を受け取ると、手にした本は封書へと変化し、バサバサと下に落ちた。

(本に魔法がかけたれていたなんて。あれ? この封書、どこかで───ってあああああああああ)

 見覚えのある封書の山に魔王の背筋が凍り付く。慌てて拾おうとしたら王子に一通奪われてしまった。
 
 それはピンクの花が描かれた可愛らしい封書だ。そして魔王は、いやでも心当たりがあった。なぜなら封書の柄を描いたのは魔王自身だからだ。

「なぜあなたがが持ってるの?」

 だらだらと魔王から冷や汗がこぼれる。魔王の反応に、王子はニヤリと意地悪な笑みをこぼした。

「だって、これを貰ったのは俺だから。『親愛なるフェリクス様、男性である貴方が女性の繊細な気持ちを理解し書かれる作品に、私は深く感銘いたしました。フェリクス様の描かれる世界なら、私は恋する乙女になれ──
「わーーーやめて!! やめてぇぇぇ」

 魔王は慌てて手紙を取り上げたが、王子は暗記をしているのか、その後も全部口頭で言われ、魔王は恥ずかしさのあまり蹲ってしまった。

「うう、穴があったら入りたい」
「ごめん……反応があまりにも可愛くてつい。初めて手紙を送ってこられたときには驚いたよ。受取人以外は見る事ができぬよう、禁術まで施してあったし、差出人も不明だ。罠かと思ったけど、その割には丁寧な封書だったからさ、一回は読んでやるかと開いたら、ファンレターだったという。おまけに本の感想に加えて必ず、恋が許されない、自分を見せてはいけない、他人に心を許さず孤独に生きねばならないと書かれてある。そんなのが123通も来たら気になるだろう?」

 王子は蹲る魔王の前に座り込むと、愛し気に魔王を見つめる。視線に気が付いた魔王は慌てて王子から目を逸らした。

「で、差出人を調べる為、黒魔術師の親友に手紙の禁術を調べてもらったんだ。そいつが言うには魔紋(まもん)──いうならば指紋みたいなもんかな。魔法にもあるらしくてさ。まぁ有名人でないと特定はできないんだけど。おねえさんは魔王だから簡単にわかった」

(魔王は有名どころか、人間にとって研究対象ですものね……うかつだった)

「わかった時、俺がどう思ったと思う?」
「ふん、どうせ笑ったんだろう? 魔王がファンレターなど書くなんてって」
「うん爆笑した。魔王は冷徹だが、配下の信望が厚いという噂だったからね。孤独とは無縁だと思ってたし、その上、乙女小説にはまってるなんて思わないよ」

 スパっといわれ、魔王はガクッときた。だが言い返す言葉が魔王にはない。

「でもそのギャップに萌えた。可愛いなって。この子となら孤独を分かち得ると思ったんだ。だから会いたいと思った」
「お、お前は変人か? 会ったこともない上、魔王だぞ?」

 魔王は戸惑う。
 
「それが変人だと言うなら否定しない。だって俺にとっては外見、年齢、性別、種族なんて重要じゃないからね。大切なのは『心の充足』なんだよ。それに魔族ってよくないか? 長生きだから俺が看取られる方が多いし」

 魔王の戸惑いなど、意にも返さず王子は笑う。

「だから王を裏で動かし貢物になってまで来たんだ。そこで骨のおっさんアースガルドに、魔王に交際を申し込みたいと言ったら、ボコボコにされた。やり返すわけにはいかないし、我慢するのが大変だったよ。で、意識も絶え絶えに、王の間にひっぱりだされたら……」

 そこまで言って王子が、口元を抑えクスクスと笑いだす。元妻だとわかり嬉しかったとでも言いたのか? と魔王は冷めた目で王子を見た。

「手紙と口調が違い過ぎて爆笑しそうになった。しかも俺を必死に助けようとするし。くくくっ今思い出しても、「ええ! だめだよ」は可愛い声だった」
「……死にそうな時に余裕だな」
「まぁ、俺は──そんなわけで、おねえさんが欲しいって思ったんだ」
「おまけに前世の妻だしな」

 魔王はイライラした。それなら部屋から放り出しアースガルドに始末してもらえばいい……そうわかっていてできない自分に、さらにイラついた。

「もしかして拗ねてる?」

 王子は瞳を大きく見開き、魔王をみる。魔王の反応が王子には意外だったらしい。

「違う……私はただ」

 戸惑いながら顔を赤くする魔王に、王子は目を細めて微笑む。

「あのね、気になったのも、好きだと思ったのもおねえさんが妻だとわかるだよ。気を失いかけてたからね、おねえさんをのは、犬になってからだし」
「五月蠅い! 私は別に気にしてなんかっ」
「ええー! 俺は凄く気にしたよ。会った時はギョッとしたし、また囚われるのかと怖くなった。でも話してたら、そうじゃないってわかった。おねえさんはおねえさんなんだよ。魂が同じでもやっぱり違う」
「でも私は魔王だ。恋なんて許されない」
「俺にとっておねえさんは魔王じゃない。一人の女性だよ。だからもっと自分に素直に生きた方がいい。その方が楽だし、もっと素敵だと思う」

 王子がそう言い、愛し気に魔王の髪を指に絡ませる。すると魔王の全身に電撃のような衝撃が走った。けれども突き返す事ができず、ただただ、王子の指を呆然と見るしかできない。


「おねえさん、もう一度告白をしていいかな?」
「だ、ダメだっ。私とお前はまだ出会ったばかりではないか! こういうのは順序が大切だろう?」

 もじもじと魔王が指を絡ませつつ、王子の視線から逃げる。

「じゃあ、友達から始める?」

 王子の提案に魔王は首を振った。

「いや……お前は私の犬として来たのだから、犬からだ!」
「へ?」
「当然だろう? 余は魔王なのだ。いきなり友達などアースガルドが驚くだろう? それに変な目で見られたら恥ずかしいではないか」
「いや、視線重視なら、犬こそやめた方が……」

 王子は意見したが、硬く決意した魔王の耳に届く事はなかった。



★★★★



「魔王様おはようございます」

 骸骨騎士が深々と頭を下げる。

「あぁ、アースガルドか。今朝も早いな」
「当然でございます。魔王様を王の間までお連れする、それこそ護衛騎士、兼、宰相である、わたくしの責務です。が……これも連れていくのですか? しかも魔王様の御手を握るとは、恐れ多い」

 ちらりと魔王の横にいる赤髪の男を、アースガルドは睨みつけた。といっても眼球はないため、虚空の瞳でだが。

「ははっ、怒るなアースガルド。こやつは犬だからな。知らぬのか? 犬は主人にお手をするのだぞ。だから私が握ってやるのだ」
「そういうものなのですか?」
「そういうものだ」

 自信満々に答える魔王に、納得がいかないといった声をアースガルドが上げる。その様を赤髪の王子が面白そうに見るものだから、口喧嘩が始まってしまった。魔王がそのたびに仲裁にはいるものの、二人が仲良くなることはなさそうだ。

(まったく困ったものね。王子はともかく、普段は冷静なアースガルドまで、どうしてこうつっかかるのかしら)

 神獣を使う王子と700年剣を鍛えてつづけたアースガルドの強さはほぼ互角だ。一度本気でやり合ってしまい、城が破壊されたため、魔王は大いに怒り二人に拳骨を食らわせた。以後、肉弾戦まではしないものの、いつ火花が散るか魔王は気が気でならない。

(まぁいいわ。今日は朝議が終わった後、みんなでロマンス小説お披露目会をするんだし)

 思い出し笑いを隠すことなく、魔王は軽い足取りで王子の手を引く。

 魔王は犬を飼いだしてから少しずつ変わっていった。自分を知ってほしいと、突然、趣味は乙女小説を読むことだと皆に暴露し、小説仲間を増やし始めたのだ。だからと強さに隙を見せることなく、魔王は日々の鍛錬も怠る事はなかった。そのためか彼女の御世は、赤い髪をした我が子に次代を譲る日まで長く続いた。


 それから千年の月日が流れ、彼女は神獣の魔王と呼ばれるようになる。

 それは彼女の命の灯が消えたとき、赤い火の鳥が後を追うように空へと帰ったからだと言われている。


 FIN


〇〇おまけ〇〇


王子「ところでおねえさんの名前ってなんていうの?」
魔王「……魔王でいいじゃない」
王子「いや二人でいる時ぐらい名前で呼んでもいいだろう?」
魔王「…………」
王子「今度書く新作に、名前入りサイン色紙をつける」
魔王「……メロディ(ボソ)」
王子「え?」
魔王「メロディ! もういいでしょ! どうせ似合ってないんだから」
王子「似合ってるし、可愛い。じゃあ今夜からはメロディって呼ぶね(大声)」
魔王「ちょ、大きな声でいわないで! 恥ずかしいでしょ!」
王子「ちょっと背後にこっそりいる、骨に言いたくなってね」
魔王「??」


 おしまい。
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