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第1章 「お前の望みは何だ?」

第9話「予期せぬ襲撃」

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 馬車は山道を進んで行き時折木々の隙間から見えるトリトーの街は少しずつ小さくなっていき道中は順調だ。発着場は山の中腹にあるのでこのままいけば日暮れには間に合うだろうがそんな簡単にはいかないだろうとゲズルは警戒を怠らない。
 そう思っているとゲズルの耳に小枝が折られる音が聞こえ、自分の背より高い位置でメイを感じ馬車から乗り出すと馬車に向かって風を切る音が聞こえ、ゲズルが手を伸ばすと飛んできた矢を掴んだ。矢の先は試験用の粘着性の穂先だが矢の先と軸の間に純度が低い小さなメイ石を見た時ゲズルは眉を顰める。
 「ライトさん。馬を止めて馬の耳を塞いで下さい」
「えっ」
「今すぐだ」
 ゲズルからの突然の要求にルトは戸惑うがグレイスからも強く言われ、慌てて馬を止める。巨馬の耳が塞がれたのを確認したゲズルは矢からメイ石を取り出し、後方に向けて思いっきり投げ、何が起きてもいいように荷物を押さえた。メイ石は山道の遥か遠くに落ち地面にぶつかった瞬間爆発した。クズ石のメイ石に単純な細工をして作った爆弾はギアが発明された頃から存在し、規模は小さいが馬車に直撃していれば馬が暴れて大惨事になっていただろう。巨馬は漏れて聞こえた音に動揺して脚を上げそうになるもルトが抑える。明らかに試験の範疇を超えており顔を顰めるエイクの様子から想定外である事は明らかだ。茂みの奥から物音が聞こえてきて息つく暇も無く、ゲズルとグレイスは馬車から飛び出した。
 「いざと言う時は私が囮になるので馬車を守って行ってください」
「大丈夫なのか」
「ライトさん達を守る為にはそうした方がいいですし、それに試験の真意を考えればそれが一番の答えだと思います」
「……了解」
 短く受け答えするとゲズルは近くにあった大きめの石を持つと山道近くにある大木の枝に目掛けて投げる。大木から呻き声を聞こえ、大木から弓を持った覆面の男が落ちてきた。先ほど矢を放ったのもこの男だろう。男が落ちてきた直後、森の中から人影が飛び出して馬車を取り囲んだ。数は4人で先ほどと同じように腕章をつけた覆面の者達だが手に持つ武器は本物の武器だ。
 「気をつけろこいつらギア付きの武器を持っている」
 魔眼で分かったのかグレイスは小声でゲズルに伝える。こちらは木製の武器なので明らかに不利であり、皆を守る為には本当に囮にならなければならないと考えると謎の男達は大声をあげて襲い掛かってきた。
 一先ず馬車から離さなければならないとゲズルはメイで皮膚を固め筋肉を強化すると前にいる2人の男目掛けて突進する。男達は持っていた剣で斬りつけて来るが横に避け左腕を近くにいた男の首の辺りに伸ばすと男の首元目掛けて勢いよくぶつける。男は呻き声を挙げ衝撃で傍にいた男を巻き込んで吹っ飛ばされる。
 背後から気配を感じ振り返ると槍が迫って来ており、半回転して避ける。槍は地面から離れた場所で止まったが、地面は大きく抉れている。ギアの効果で衝撃を穂先に生じさせたのだろう。
 槍を持った男は何度も突いていきゲズルは避けていく。もう1人を相手しないといけないのですぐに反撃をしたいが間合いがあるので近付きづらい。ならばとゲズルは一旦後ろに下がると大剣を構えると槍の男に向けて走り出した。槍の男は迎え撃って槍を突きだすが、ゲズルは大剣を横に構え盾代わりにする。槍の衝撃は木で出来た大剣を粉砕するがゲズルは大剣を目隠しにして間合いを詰めた。ゲズルは左手に力を溜めて手を剣の形に揃えると男の鳩尾を突き昏倒させた。
 相手が昏倒しているのを確認するともう1人の男を相手にしているであろうグレイスの方を見た。
 グレイスと対峙しているのは両手斧を構えた人間の男だ。砕かれた地面を見るとどうやら斬撃の威力を上げるギアを装着した斧のようだ。身軽なグレイスは斬撃を避けているが一度でも当たったら胴は真っ二つだろう。
 加勢にいかなければとゲズルは駆け寄ろうとするが、今まで避けていたグレイスが突然立ち止まってしまう。
 好機と思ったのか斧の男は斧を振り上げて突進する。グレイスは動じずに剣を構えているとグレイスの剣からメイを感じたと思うと柄に括りつけられた玉が黄色と緑に光り出した。斧の男が斧を振り下ろそうとした時、グレイスは右に避けると剣を鞘ごと突き出すと剣は鞭のように伸び、男の右腕に触れたと思うとバチっという音と小さな火花が奔り男は痙攣すると前に倒れこんだ。
 見た所感電したようで目の前の出来事とボイラー室での出来事を重ね合わせゲズルはグレイスについてのある推測に確信を持てた。確認を取りたい気持ちはあるがそれよりも馬車とルト達を優先した。
 「ライトさん、ネミーさん大丈夫ですか」
「僕達は大丈夫です。一体あの人達は何者でしょう」
「明らかに山賊役とは違うがただの山賊にしては装備が充実している。気にはなるが試験を続けるか」
「えぇ。問題は時間ですが」
 ゲズルが空を見上げると、急襲で手間取ってしまったせいで日暮れ近くになってしまっている。
 「ルトの腕ならば少し無茶をすれば日暮れまでには間に合うと思うが、行けるか」
「え、えぇ何とかやれるとは思いますが」
 エイクの言葉に歯切れが悪いルトの表情を見てゲズルはある考えが浮かんだ。
 「いえ無理をしないで進みましょう。一先ず後で回収する為にこいつらを縛り付けておきましょう」
「荷物は日暮れまでだがいいのか」
「えぇ、フェルンさんもそれでいいですよね」
「あぁ」
「お前達がいいならそれでいいが」
 エイクの視線を感じながらゲズル達は男達を縛り上げて先へと進む。
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