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2話 とはいえ姉は絶対的強者です。
しおりを挟むどうやらお偉いさんがまた亡くなってしまったようだ。
ここ数ヶ月。
この街を含め、近辺では屋敷内で主人に仕える者達の変死が相次いでいる。
聞いた噂をまとめると、亡くなった者達は煙たい密室の中で悶え苦しみ絶命したという事だが犯人の手がかりがない。
そのせいか妖ではと言う声も出ていて、変死が続くと遺族からの願いでメイユイの家にも占いで犯人を探してくれと依頼が入りそうになったが、その度に父は首を横に振っていた。
(父様は一体どう思っているのかしら?)
そう思いながら家に帰り着くと思いがけない人物の声がした。
「おかえり」
そう声を掛けて来たのは後宮にいるはずの姉、桜綾(ヨウリン)だ。
「お姉ちゃん、後宮にいるんじゃなかったの!?」
「宮廷導師様から許しを頂いたのよ。明日には帰るけど・・・ 。
それよりあんたまた『あんな奴ら』と連んでどうゆう事なの!?」
『あんな奴ら』とはメイユイに仕える妖達の事だ。
姉のヨウリンがまだ後宮の奉公に行く前にもメイユイの側に彼らはいたが今より数は少なかった。
「しかも、こんな大男がいるなんて聞いてないわよ!」
エイレンを指差しヨウリンは激怒する。
確かに姉がいた頃は人型の妖よりも狐や動物の妖が数は多かった。
エイレンはそんなヨウリンを見て少々怯えていたが、彼なりに認めてもらおうと思ったのか一礼をし挨拶をする。
「私エイレンと申します。一年程前にメイユイ様に助けて頂き、お仕えしております」
「知ってるわ」
姉は不機嫌そうに足を組みながら椅子に座り、袖からキョンシーの弱点の桃の樹から出来た短刀を前に出しながらエイレンに威嚇する。
「エイレンなら、一昨日の仕事の時も率先して応戦してくれたわ」
無害よ!と姉に言って聞かせる。
ヨウリンはまだ納得しきれてないせいか、刃を鞘に戻したはいいが短刀は手にしたままだ。
「いいわ。今アンタ達をどうこうしなくてもいつでも祓う事はできるんですからね」
そうメイユイの周りにいる妖達に言ってるのか、それを聞いた妖達はヒッ!と涙目になり息を飲んでいた。
「もう、お姉ちゃん!」
そんな姿にメイユイは立腹だ。
しかし、久しぶりの姉の帰省だ。
メイユイはそんな話をしたいとは思ってはいない。
「ねえ、後宮の話を聞かせてよ」
姉がどんな仕事をしているのか妹ながら気にはなるのだ。
「別に、行事毎に導師の補佐が主よ。アンタが面白がる話はないわ」
エイレンがメイユイと会う前、人手が足りない後宮からの命で父に娘をどちらか一人遣わすようと話があり父は悩んだ。
才能は遥かに姉が上である。
メイユイだってもしかしたら自分が選ばれるかもしれないと僅かに期待していた。しかしそれは名誉ある事だが同時にプレッシャーを感じていた。
結局姉の「私が後宮に行くわ」の一言を父が後押しし、数日後に後宮から遣いが見え姉は後宮に奉公に行ってしまった。
数年は帰って来れないはずなのに「たんまり稼いでくるわよ」とニヤッと笑ったかと思うとすぐ後宮に向かって行ってしまった。
そしてどこかそんな姉を羨ましく思う反面、メイユイはどこか嫉妬してしまった。
(いけない・・・ 。)
何故か自分の感情を直視できない。
本当は自分が選ばれる訳ないって分かっていた。
妖を仕いにする退魔師なんていない。
自分は父からすると「はみ出し者」で「未熟者」なのだ。
きっと姉なら宮廷導師を上手く持ち上げ、仕事をしやすく優秀な部下として活躍しているのだろう。
しかし宮廷でのあれこれを面白おかしく話さないのは、変に内気でコンプレックスをメイユイ自身が感じているのをヨウリンが知って気遣っているのだ。
煌びやかな反面、醜い世界がある後宮にメイユイが興味を持たれたら困るのもヨウリンとしては事実だ。
メイユイは姉の話が物足りないのだろう。
「ねえお姉ちゃん、後宮では退魔の仕事はないの?」
退魔の実力も姉の方が上だ。
「バカね。結界くらい導師と張ってるわよ。
そんなものが出てみなさい。
私、クビじゃおかないわよ」
と言われ、その回答に怖気ついたのかメイユイはゴクッと喉を鳴らした。
「そうよね。じゃあもう一つ質問なんだけど・・・ 。」
「何よ、もったえぶって」
さっさと話しなさいとヨウリンが促す。
「後宮で男の人が変な亡くなり方をしたとかそういった事はない?」
「ないわね」
キッパリとヨウリンは返す。
「何が言いたいの?アンタ、また変な事に首を突っ込もうとしてるんじゃないでしょうね?」
「違うわよ。最近隣町で多いのよそういう事。
だから後宮でもそういう事あるのか気になっただけ」
心配症な姉に言い聞かせる。
「ないわよ。
あったところでそれは私達(退魔師)よりも都尉の仕事でしょ?」
確かにそうだ。
これが妖の類なら父と一緒に今頃、妖達を倒しに行っているところだ。
「じゃあ、父さんの言う事をちゃんと聞いて励むのよ」
と別れ際、ヨウリンはメイユイに声を掛けた。
「ついでにアンタ」
すかさずヨウリンはメイユイの後ろにいるエイレンに声を掛ける。
「妹になんかあったらアンタなんか簡単に倒せる事を忘れない事ね」
とジリジリ短刀で脅し「お姉ちゃん!」とメイユイが横から割って止める。
「じゃあ、行って来るわ・・・ 。」
そう言って次の朝には、ヨウリンは渋々後宮に戻って行ってしまった。
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