2 / 21
1話 忘却令嬢の縁談
しおりを挟む「私に縁談ってお母様、本当ですか?」
アスター家の屋敷の一室で珍しく母に呼ばれたとおもったら私、アリア・アスターは縁談話を持ちかけられた。
「ええ。
直々にお相手からお声掛けされたのよ。
悪い話じゃないと思うわ」
母が言うにはお相手は南にあるブロワの領地を治めるフェリックス・ブロワという伯爵様だ。
名前を聞いて私はふと先日に行った社交界で知り合った彼を思い出した。
確か彼は私より6つも年上だがヘーゼルの髪と瞳のを持ちながら他の紳士よりも落ち着いているように見える彼を密かに慕う令嬢もいた。
(確かに彼は素敵だわ)
でも、だからこそ分からない。
私以外にも彼は他の女性達に好意を寄せられていたし、たいして話らしい話もしていなかったはずだ。
心当たりはダンスの後に令嬢達にスイーツを勧められて口にして辛そうにしてたから胃薬をいらないかと聞いた後に少し「私達の血族が使える力」を密かに使い介抱しただけだ。
(まさかそれで気に入られたのかしら?)
でも、私だって普段から甲斐甲斐しい訳ではないし
無闇に力は使わない。
古くからの屋敷の使用人は私の力を知って恐る人も多い。
それにー、
(私と結婚しても得なんかしないわ)
そんな考えをお母様は汲んだのか
「アリア、会うだけ。
1度会ってお話ししてみたら素敵な人かもよ」
まるで人見知りの女児をあやすように声を掛ける。
「あなたは人よりも優しいの。
もっと自信を持たなきゃいけないわ」
(そうかしら?)
「この力」を知ったらどんな人でも私から離れていってしまうと危惧しているのに。
私達、アスター家には秘められた力がある。
女性だけがそれぞれ違う力を持っていてそれを私達は「女神の加護」と言っている。
例えば、上の姉達は結婚しているが1番上の姉から美の女神の加護、2番目の姉は豊穣、3番目は力の女神の加護を受けている。
その加護の力にかかれば人々は美の加護を受ける美しい姉を愛て、豊穣の加護には実りに感謝を、力の加護に頼もしさを覚え勝負事に勝つ為に崇めるのだ。
だからこそお姉様達が屋敷にいる時は肩身が狭かった。
例えば出掛ける際よそ行きに着替えれば「美」を司る姉に
「アリアったら地味なんだから。
着替えたら?
あまり側を歩かないでよね」
また、豊穣を司る姉は私が自分で生けた花を枯らした際には
「花の管理くらいちゃんとしなさい」
と小言を言われ、力を司る姉は
「優柔不断ね!」
と嗜められる。
正直に姉達が嫁いで屋敷が私だけになったからせっかく活き活き過ごせていたのに、だ。
きっと彼女達はそれぞれの嫁ぎ先でもその力を持ち合わせて幸せに過ごしているだろう。
でも
「忘却」なんて・・・。
せいぜい怪我の手当や慰めの為に辛い記憶を除くだけの気休めだ。
加護は自身にも働くが使いたいと思った事もないし
人にかける事もない。
(こんなの本当に加護なのかしら?)
「アリア、どうかしら?」
お母様に問われ、私は正気に戻る。
(そうだったわ。
縁談の話をしているんだったわ)
気にかける母にノーとは言いにくい。
「分かったわ。
お母様、会ってみるだけなら」
そう返事をすると母はほっとしたようだ。
3
あなたにおすすめの小説
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~
花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。
だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。
エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。
そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。
「やっと、あなたに復讐できる」
歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。
彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。
過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。
※ムーンライトノベルにも掲載しております。
〈完結〉【書籍化・取り下げ予定】「他に愛するひとがいる」と言った旦那様が溺愛してくるのですが、そういうのは不要です
ごろごろみかん。
恋愛
「私には、他に愛するひとがいます」
「では、契約結婚といたしましょう」
そうして今の夫と結婚したシドローネ。
夫は、シドローネより四つも年下の若き騎士だ。
彼には愛するひとがいる。
それを理解した上で政略結婚を結んだはずだったのだが、だんだん夫の様子が変わり始めて……?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
旦那様は、転生後は王子様でした
編端みどり
恋愛
近所でも有名なおしどり夫婦だった私達は、死ぬ時まで一緒でした。生まれ変わっても一緒になろうなんて言ったけど、今世は貴族ですって。しかも、タチの悪い両親に王子の婚約者になれと言われました。なれなかったら替え玉と交換して捨てるって言われましたわ。
まだ12歳ですから、捨てられると生きていけません。泣く泣くお茶会に行ったら、王子様は元夫でした。
時折チートな行動をして暴走する元夫を嗜めながら、自身もチートな事に気が付かない公爵令嬢のドタバタした日常は、周りを巻き込んで大事になっていき……。
え?! わたくし破滅するの?!
しばらく不定期更新です。時間できたら毎日更新しますのでよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる