【完結】好きって言ってないのに、なぜか学園中にバレてる件。

東野あさひ

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第22話 #手を伸ばした距離

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 放課後。
 美術室の窓から射し込む光が、
 細いチョークの粉をきらきら浮かせていた。

 七瀬――ひよりはキャンバスに向かっていた。
 今日は“課題作品”の仕上げ。
 タイトルは「光の中の誤解」。

「お前、どんなタイトル付けても誤解入れてくるよな」
「だって、私たちのテーマですから」
「勝手に共同テーマ化すんな」

 軽口を叩きながらも、
 ひよりの筆先を見ていると、
 やけに胸の奥が落ち着かなくなる。

「蒼汰くん、こっち持ってもらえますか?」
「おう」
 キャンバスの端を支える。
 絵の具の香りと、
 ひよりの髪の香りが混ざって、
 空気が少し甘くなった。

「もう少し右です」
「こう?」
「はい。完璧です」

 距離、二十センチ。
 手を伸ばせば届く距離。
 でも、届かせたら何かが変わってしまう気がして、
 動けなかった。

「なあ」
「はい?」
「お前、手……冷たくね?」
「さっきまで水で筆洗ってたので」
「……ほら」
 思わず、自分の手を差し出した。
 ひよりが少しだけ驚いた顔をして――
 おそるおそる手を重ねた。

「……あったかいです」
「だろ」
「蒼汰くんって、優しいですね」
「違う。
 単に冷たい手が気になっただけだ」
「それを優しいって言うんです」

 ひよりの手は、指先が少し震えてた。
 でも、離そうとしなかった。

 その瞬間、ドアが開いた。
「おー、ラブラブかよ!」
 悠真だった。
「お前、空気読め!」
「いや、空気が甘すぎてむしろ糖分過多だわ」
「殺すぞ」
「はいはい、邪魔者は去ります~」

 悠真が笑いながら去っていく。
 代わりに静寂が戻る。
 ひよりは俯いて、頬を真っ赤にしていた。

「……ごめんなさい」
「なんで謝んだよ」
「誤解、また増えちゃいましたね」
「いいよ。もう慣れた」
「でも――慣れちゃうの、少し寂しいです」

 その言葉が、胸に刺さった。
 “慣れる”って便利だけど、
 本気を鈍らせる言葉でもある。

───────────────────────
StarChat #手を伸ばした距離
【校内ウォッチ】
「美術室で二人の影が重なってた件」
コメント:
・「#美術室ロマン」
・「#指先の恋」
───────────────────────

「……誰が撮ってんだよマジで」
「たぶん、反対側のクラスの子ですね」
「監視網か」
「人気者の宿命です」
「そんな宿命いらねぇ」

 でも、画面を閉じられなかった。
 “影が重なってた”ってコメント。
 それが妙に正確だったから。

 夕陽が沈むころ、
 ひよりがキャンバスに最後の一筆を入れた。
 描かれていたのは、教室の窓辺に並ぶ二つの影。
 少しだけ重なって、でも完全には一つにならない。

「完成しました」
「……これ、俺たち?」
「どう見えますか?」
「そうだな……重なりそうで、届かない距離」
「正解です」
「絵に“正解”あんのかよ」
「私たちの“今”にはあります」

 ひよりが微笑んだ。
 その笑顔の奥に、少しの切なさがあった。

───────────────────────
StarChat #手を伸ばした距離
【桜井先生@担任】
「距離とは、心が伸びる余白のこと。
 すぐに触れられる恋より、
 少しだけ届かない想いのほうが、長く残る。」
コメント:
・「#先生エモ過ぎ問題」
・「#距離が恋を育てる」
───────────────────────

「先生、もう恋愛詩人になってるな」
「いいと思います」ひよりが笑う。
「……お前、ほんと何でも“いい”って言うな」
「だって、今日の距離は“悪くなかった”です」

 窓の外の光が、ゆっくり消えていく。
 そのとき確かに感じた――
 “誤解”の先にある、静かな確信を。
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