【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

文字の大きさ
18 / 107
2章

18話「血の記憶、選ばれる者」

しおりを挟む
 控室の重い扉が静かに閉じる音。
 王都の魔導緊急会議の激震の只中で、私はエイミーとレオナート、レヴィアと並んで長椅子に腰を下ろしていた。
 身体は現実の重力に縛られているはずなのに、心はまだ、アムネリスの言葉の重みに囚われている。

 「ノクティアさん、水をどうぞ」
 エイミーが差し出してくれた銀杯の水を受け取り、私は小さく頷いた。

 「ありがとう、エイミー」

 レオナートも険しい表情のまま、「無理はなさらないでください」と声をかけてくれる。
 レヴィアだけが、静かに、まるで遠い昔を思い返すように私を見ていた。

* * *

 その時――
 外から爆発音と共に悲鳴が響く。
 「異形が現れたぞ!」「裂け目が拡大している!」

 急ぎ控室を出ようとした瞬間、空間がぐらりと歪む。
 廊下が闇と光の狭間に変わり、私は吸い込まれるように視界を奪われた。

 気が付くと、さっきまでの現実感が嘘のような無音の闇。
 見上げると、アムネリスが淡く輝く衣をまとって立っている。

 「また、あなた……」

 レヴィアもすぐ傍らにいた。「アムネリス、何をする気だ」

 「いまこそ“セフィラの血”に刻まれた全てを見なさい。あなたたちが本当に“未来”を選べるのか、私に証明して」

 アムネリスが手を伸ばすと、私たちの周囲に幾重もの幻影が広がる。
 それは“セフィラ一族”の遠い過去――

* * *

 遥か昔、魔法という奇跡が生まれたばかりの時代。
 アムネリスは、人々を守るために自分の身を差し出し、一族を作り上げた。
 だが強すぎる力は、民衆に恐怖を与え、王国は「均衡」の名のもと、血族に犠牲を強いた。

 「守るはずだったのに、私は皆を苦しめた……。
 だから、均衡のため“血の儀式”を残した。誰か一人が全てを背負うことで、他が救われる仕組みを」

 アムネリスの目には涙が光る。

 「けれど、その輪廻は幾度も続き、一族は苦しみから解放されなかった」

 幻影の中、ノクティアは幼い日の自分の姿、レヴィアもまた小さな少女として家族に囲まれている映像を見る。
 愛され、失い、嘆き、怒り、強くなろうともがき続けた日々――

 レヴィアがそっと呟く。「私は、ただ誰かを守りたかった。間違いだと分かっていても、止まれなかったんだ……」

 私はその手を取る。「私もそう。けれど、もう同じ過ちを繰り返したくない」

* * *

 アムネリスは手を振るう。
 「ならば、“最後の選択”を下しなさい」

 足元に赤い魔法陣が現れ、二人の身体を締め付けるように絡みつく。

 「どちらかが“生贄”となり、呪いの輪廻を終わらせるか。拒めば、世界ごと滅びる」

 その声は厳しくも、どこか救いを求める響きがあった。

 私は強く叫んだ。

 「私は誰も犠牲にしない未来を選ぶ! その道が険しくても、あなたの悲しみを終わらせてみせる!」

 レヴィアも、顔を上げて同意する。

 「私も、もう誰も見捨てない! 私たちで道を作ろう!」

 アムネリスが静かに微笑む。
 「お前たちの覚悟、本物ならその力を私に示して」

* * *

 二人の魂が光と闇に引き裂かれるような激痛の中、
 私は渾身の力で叫ぶ。

 「私は“守る”ために生まれた! 血の呪いも運命も、私の意志で変えてみせる!」

 眩い金色の光が爆発し、魔法陣が砕け散る。

 その瞬間、世界が崩れるように視界が暗転した――

* * *

 気が付くと、私は控室に倒れていた。
 レヴィアも隣で息を切らしている。エイミーとレオナートが必死に私たちを呼んでいる。

 「ノクティアさん!」

 私はゆっくりと体を起こし、
 「大丈夫。……全部、見てきた。絶対に諦めない。
 誰も犠牲にしない方法を、私たちで見つけてみせる」

 外からは鐘の音と、遠くからの悲鳴が重なる。

 会議場の外では、裂け目がさらに拡大し、
 世界の崩壊が現実になろうとしていた。

 私は決意の眼差しで立ち上がった。
 ――これが、“血の選択”の本当の始まりなのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢は調理場に左遷されましたが、激ウマご飯で氷の魔公爵様を餌付けしてしまったようです~「もう離さない」って、胃袋の話ですか?~

咲月ねむと
恋愛
「君のような地味な女は、王太子妃にふさわしくない。辺境の『魔公爵』のもとへ嫁げ!」 卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられた悪役令嬢レティシア。 しかし、前世で日本人調理師だった彼女にとって、堅苦しい王妃教育から解放されることはご褒美でしかなかった。 ​「これで好きな料理が作れる!」 ウキウキで辺境へ向かった彼女を待っていたのは、荒れ果てた別邸と「氷の魔公爵」と恐れられるジルベール公爵。 冷酷無慈悲と噂される彼だったが――その正体は、ただの「極度の偏食家で、常に空腹で不機嫌なだけ」だった!? ​レティシアが作る『肉汁溢れるハンバーグ』『とろとろオムライス』『伝説のプリン』に公爵の胃袋は即陥落。 「君の料理なしでは生きられない」 「一生そばにいてくれ」 と求愛されるが、色気より食い気のレティシアは「最高の就職先ゲット!」と勘違いして……? ​一方、レティシアを追放した王太子たちは、王宮の食事が不味くなりすぎて絶望の淵に。今さら「戻ってきてくれ」と言われても、もう遅いです! ​美味しいご飯で幸せを掴む、空腹厳禁の異世界クッキング・ファンタジー!

婚約破棄で追放された悪役令嬢、前世の便利屋スキルで辺境開拓はじめました~王太子が後悔してももう遅い。私は私のやり方で幸せになります~

黒崎隼人
ファンタジー
名門公爵令嬢クラリスは、王太子の身勝手な断罪により“悪役令嬢”の濡れ衣を着せられ、すべてを失い辺境へ追放された。 ――だが、彼女は絶望しなかった。 なぜなら彼女には、前世で「何でも屋」として培った万能スキルと不屈の心があったから! 「王妃にはなれなかったけど、便利屋にはなれるわ」 これは、一人の追放令嬢が、その手腕ひとつで人々の信頼を勝ち取り、仲間と出会い、やがて国さえも動かしていく、痛快で心温まる逆転お仕事ファンタジー。 さあ、便利屋クラリスの最初の依頼は、一体なんだろうか?

追放された悪役令嬢が前世の記憶とカツ丼で辺境の救世主に!?~無骨な辺境伯様と胃袋掴んで幸せになります~

緋村ルナ
ファンタジー
公爵令嬢アリアンナは、婚約者の王太子から身に覚えのない罪で断罪され、辺境へ追放されてしまう。すべては可憐な聖女の策略だった。 絶望の淵で、アリアンナは思い出す。――仕事に疲れた心を癒してくれた、前世日本のソウルフード「カツ丼」の記憶を! 「もう誰も頼らない。私は、私の料理で生きていく!」 辺境の地で、彼女は唯一の武器である料理の知識を使い、異世界の食材でカツ丼の再現に挑む。試行錯誤の末に完成した「勝利の飯(ヴィクトリー・ボウル)」は、無骨な騎士や冒険者たちの心を鷲掴みにし、寂れた辺境の町に奇跡をもたらしていく。 やがて彼女の成功は、彼女を捨てた元婚約者たちの耳にも届くことに。 これは、全てを失った悪役令嬢が、一皿のカツ丼から始まる温かい奇跡で、本当の幸せと愛する人を見つける痛快逆転グルメ・ラブストーリー!

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

大自然を司る聖女、王宮を見捨て辺境で楽しく生きていく!

向原 行人
ファンタジー
旧題:聖女なのに婚約破棄した上に辺境へ追放? ショックで前世を思い出し、魔法で電化製品を再現出来るようになって快適なので、もう戻りません。 土の聖女と呼ばれる土魔法を極めた私、セシリアは婚約者である第二王子から婚約破棄を言い渡された上に、王宮を追放されて辺境の地へ飛ばされてしまった。 とりあえず、辺境の地でも何とか生きていくしかないと思った物の、着いた先は家どころか人すら居ない場所だった。 こんな所でどうすれば良いのと、ショックで頭が真っ白になった瞬間、突然前世の――日本の某家電量販店の販売員として働いていた記憶が蘇る。 土魔法で家や畑を作り、具現化魔法で家電製品を再現し……あれ? 王宮暮らしより遥かに快適なんですけど! 一方、王宮での私がしていた仕事を出来る者が居ないらしく、戻って来いと言われるけど、モフモフな動物さんたちと一緒に快適で幸せに暮らして居るので、お断りします。 ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています

如月ぐるぐる
ファンタジー
公爵令嬢フランチェスカは、誕生日に婚約破棄された。 「王太子様、理由をお聞かせくださいませ」 理由はフランチェスカの先見(さきみ)の力だった。 どうやら王太子は先見の力を『魔の物』と契約したからだと思っている。 何とか信用を取り戻そうとするも、なんと王太子はフランチェスカの処刑を決定する。 両親にその報を受け、その日のうちに国を脱出する事になってしまった。 しかし当てもなく国を出たため、何をするかも決まっていない。 「丁度いいですわね、冒険者になる事としましょう」

「女のくせに強すぎて可愛げがない」と言われ婚約破棄された追放聖女は薬師にジョブチェンジします

紅城えりす☆VTuber
恋愛
*毎日投稿・完結保証・ハッピーエンド  どこにでも居る普通の令嬢レージュ。  冷気を放つ魔法を使えば、部屋一帯がや雪山に。  風魔法を使えば、山が吹っ飛び。  水魔法を使えば大洪水。  レージュの正体は無尽蔵の魔力を持つ、チート令嬢であり、力の強さゆえに聖女となったのだ。  聖女として国のために魔力を捧げてきたレージュ。しかし、義妹イゼルマの策略により、国からは追放され、婚約者からは「お前みたいな可愛げがないやつと結婚するつもりはない」と婚約者破棄されてしまう。  一人で泥道を歩くレージュの前に一人の男が現れた。 「その命。要らないなら俺にくれないか?」  彼はダーレン。理不尽な理由で魔界から追放された皇子であった。  もうこれ以上、どんな苦難が訪れようとも私はめげない!  ダーレンの助けもあって、自信を取り戻したレージュは、聖女としての最強魔力を駆使しながら薬師としてのセカンドライフを始める。  レージュの噂は隣国までも伝わり、評判はうなぎ登り。  一方、レージュを追放した帝国は……。

追放悪役令嬢のスローライフは止まらない!~辺境で野菜を育てていたら、いつの間にか国家運営する羽目になりました~

緋村ルナ
ファンタジー
「計画通り!」――王太子からの婚約破棄は、窮屈な妃教育から逃れ、自由な農業ライフを手に入れるための完璧な計画だった! 前世が農家の娘だった公爵令嬢セレスティーナは、追放先の辺境で、前世の知識と魔法を組み合わせた「魔法農業」をスタートさせる。彼女が作る奇跡の野菜と心温まる料理は、痩せた土地と人々の心を豊かにし、やがて小さな村に起こした奇跡は、国全体を巻き込む大きなうねりとなっていく。 これは、自分の居場所を自分の手で作り出した、一人の令嬢の痛快サクセスストーリー! 悪役の仮面を脱ぎ捨てた彼女が、個人の幸せの先に掴んだものとは――。

処理中です...