【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ

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5章

66話「奇跡の花、開くとき」

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 夜明け。砦を包んでいた長い闇が、ゆっくりと溶けていく。
 砦の広場、泥と涙に濡れた石畳の上に、ようやく柔らかな朝の光が差し始めた。

 その中心に、奇跡の花の苗が静かに立っていた。
 つぼみの先端には、まばゆい光が宿っている。
 カイラスが涙をぬぐいながら花の前にひざまずき、ノクティアの手を離さずにいた。

    * * *

 「――咲く……!」

 エイミーが小さな声でつぶやく。
 花を囲むように、子どもたち、レオナート、アリシア、村人、砦の兵士たち――
 誰もが息をひそめて見守っていた。

 ノクティアはまだ目を閉じていたが、その頬にはほのかな赤みが戻りつつあった。
 エイミーが手を重ねて必死に祈る。

 「どうか、ノクティアさんに――もう一度、生きる力を……!」

    * * *

 そのとき。

 奇跡の花の蕾が、かすかに震え、
 やがてゆっくりと光を放ちながら花びらを開いていった。

 ――まばゆい、銀色の光。
 砦全体がその光に包まれ、誰もが思わず目を閉じるほどの、優しくも力強い輝きだった。

 ノクティアの体が淡い光に包まれる。
 その肌からはすべての痛みや疲労が溶け出し、温かな生命力が体中を満たしていく。

 (……あたたかい……みんなの声が、聞こえる)

 意識の奥で、ノクティアは家族や友人、砦の仲間たちの呼びかけを感じていた。

 (帰らなきゃ――もう一度、みんなに会いたい)

    * * *

 「ノクティア! ノクティア!」

 カイラスの声が涙に濡れて震える。

 やがて、ノクティアのまぶたがゆっくりと開いた。
 ぼんやりと天井を見上げ、次第に目が焦点を結ぶ。

 「……カイラス……?」

 その声はか細くも、確かに生きている。

 カイラスは何も言えず、ただノクティアを抱きしめた。
 「よかった……! 本当に、よかった……!」

 エイミーが泣きじゃくりながらノクティアにすがりつき、
 レオナートも目を赤くしてうなずく。
 アリシアは感極まって「奇跡だ……」とささやいた。

 砦の人々も、村の子どもたちも次々と駆け寄り、ノクティアの回復を涙と歓声で祝福した。

    * * *

 「夢じゃ、ないよね……? 本当に、ノクティアさん……」

 エイミーが手を握ると、ノクティアは微笑んで応える。
 「ええ……私、帰ってきたのね」

 その言葉に、みんなの喜びが溢れ出す。

 「団長!」「ノクティア様!」
 砦じゅうに叫び声と泣き声が響き、誰もがその奇跡を信じてやまなかった。

    * * *

 村と砦では、その日、自然発生的に“祝祭”が始まった。
 食堂や広場に食べ物が並べられ、みんなが手を取り合って歌い、踊り、
 子どもたちは花びらを撒いて走り回る。

 奇跡の花は今や、眩いばかりの光を放ちながら、花壇の中央に咲き誇っていた。

 ノクティアはカイラスの隣で、涙を拭いながら微笑む。

 「……生きているって、すごいことなんだね」

 カイラスは不器用に頷き、彼女の手を握る。

 「お前がいなきゃ、何も始まらなかった。
 でも、これからは……みんなで、新しい春を生きていける」

 レオナートやエイミー、アリシア、村人たちも次々に声をかけ、
 「ノクティア様がいるだけで、私たちは勇気が湧きます」
 「今日の喜びを、ずっと忘れません」

 みんながそう誓い合った。

    * * *

 夜には砦じゅうに灯りがともり、祝祭の輪が絶えず広がっていく。

 子どもたちは歌を歌い、大人たちは酒を酌み交わし、
 空には花火のような魔法の光が舞った。

 ノクティアは皆の中心にいて、
 その命の灯が“みんなの願い”によって繋がれていることを実感していた。

 ――生きること。
 ――愛し合うこと。
 ――一人じゃないという奇跡。

 砦と村、すべての人が今この瞬間を祝福し、生きる喜びを分かち合っていた。

    * * *

 夜更け、カイラスとノクティアは砦の高台に登った。

 「ノクティア、お前がここにいるだけで……もう十分なんだ」

 「私も、みんなと生きていけるだけで幸せよ」

 ふたりは新たな春の夜風を胸いっぱいに吸い込み、
 砦の下に広がる光と歌声を静かに見つめた。

 ――奇跡の花は、今も変わらず、
 その中心でやさしく輝いている。
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