【完結】追放聖女は“幸福値”しか視えません

東野あさひ

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第14話 幸福を“偽装”する男

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ジャレッド・アルヴァ。
年齢は二十代後半に見えるが、どこか“年齢という概念”を飛び越えたような雰囲気をまとっていた。

「この村の幸福値、実に興味深い変動を見せていますね。
特にあなた——エルフィナ・エルトリア。あなたの能力は特異だ」

「……私のことを、知っているの?」

「もちろん。追放された元・聖女でありながら、“幸福値”という新しい指標で世界を記録し始めた第一人者。
記録遺跡の開放履歴も、確認させていただきましたよ」

言葉の端々に、悪意はない。だが、意図的な掌握欲が滲んでいた。

「あなたは今、“幸福値の暴走”を懸念しているでしょう?
でも、それは“善意”なんです。“過剰な幸福”に、何の問題がある?」

「……人が、自分の心で感じるものだからこそ、“幸福”には意味がある。
外から無理に上げられたら、それはもはや偽物でしょう?」

「それはあなたの価値観だ。私の価値観では、“最大値が正義”です」

彼はそう言って、懐からひとつの瓶を取り出した。

中には、淡い金色の粉末が揺れていた。

「——“スマイルダスト”。人工幸福を与える霧状の薬剤です。
一吹きで幸福値が10~50跳ね上がる。効果は即時。副作用も、今のところは未確認」

「そんなもの……!」

私は手を伸ばして奪おうとした。だが、彼は笑いながら軽やかに身を引いた。

「私はこの村で、“幸福拡張実験”を始めます。
そしてあなたには、その“記録係”として立ち会っていただきたい」

「断ります」

「そうですか。でも、あなたが断ったところで、幸福値はもう動き始めている。
あなたの目には見えているはずでしょう? もうすでに——」

私は思わず、周囲を見渡した。

あちこちで、幸福値が不自然に増えていく。

人々が笑顔を浮かべながら、どこかで“本音”を置き忘れていく。

ジャレッドの言葉は正しかった。

(私が見ていた“幸福”は、本当に幸福だったのか……?)

世界が歪み始めていた。
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