【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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83話「カードバブル!?村の大騒動」

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 春の日差しが村の広場を明るく照らす。
 リオとミナが静かで穏やかな日々を味わいはじめて、まだ数日しか経っていなかった――

 

 その朝、村の大通りがざわついていた。
 子どもから大人まで、みんなが何やら手に色とりどりのカードを持ち、あちこちで「交換だ!」「俺のがレアだ!」と大騒ぎしている。

 

 「おい、見たか? リオの冒険がカードになって売ってるらしいぞ!」
 「“伝説の英雄リオ”カード、いま一番の目玉だってよ!」
 「俺は“ミナのしあわせ魔法”カードがほしいんだ!」

 

 村の朝市は“カード市場”に早変わりしていた。

 

 ミナがパンを買いに行った帰り道、思わずあんぐり口を開けて立ち尽くす。

 

 「な、なにこれ……? こんなにカード持ってる子、村にいたっけ?」

 

 リオも畑から戻る途中、同じ光景に驚いていた。
 自分の顔が印刷された“英雄カード”を持つ少年に呼び止められる。

 

 「リオ兄ちゃん、これ本物? サインしてくれよ!」
 「わ、わかった……」

 

 ――だが、よく見るとカードの紙質や印刷はどこか粗雑で、妙に安っぽい。

 

 「これ……誰が作ったんだろう?」

 

 と、不安を覚えていた矢先。

 

 「ちょっと待ってください!」

 

 村の入口に、王都から来た行商人が大きな荷車を引き、手にはダンボール箱にぎっしり詰まったカード束。

 

 「さあさあ、みんな! 新作“伝説英雄シリーズ”今だけ特価ですよ~!
 本物の精製師“リオ”が公認した、村限定記念版! 数に限りあり!」

 

 村人たちがわーっと集まる。
 子どもたちは小遣いを握りしめ、大人たちも「孫にねだられてねぇ」と次々に購入。

 

 ミナが慌ててリオを呼ぶ。

 

 「リオ、あれ絶対ヘンだよ! “公認”なんて言ってないでしょ?」

 

 リオは顔をしかめながら行商人に近づく。

 

 「それ、本当に俺が認めたやつじゃないぞ!」

 

 だが、行商人は涼しい顔で

 

 「いやいや、村の有名人ですから。ちょっとした宣伝ですよ! お兄さんの名前があるだけでみんな喜んでるんだし」

 

 「勝手に名前を使うなよ!」

 

 「まあまあ、売れればみんな幸せってもんでしょ?」

 

 ――リオの怒りが頂点に達するそのとき。

 

 どこからか「ぎゃー!」という叫び声が。

 

 広場では、子どもたちが“カードバトル”を始めていたが、突然一人の少年が涙目になって叫んでいる。

 

 「僕の“グラン=ヴァルド”カード、全然強くない! ぜったいウソだ、これ!」

 

 「わたしの“ミナ姉ちゃん魔法”も、全然光らないよ!」
 「“超レア”って書いてあるのに、みんな同じカードだよ!」

 

 暴走少年たちがカードを放り投げ始め、広場は大混乱に。

 

 そのときミナが、母親のような声で叫んだ。

 

 「みんな、ちょっと落ち着いて! カードは本物じゃなくても、“作る気持ち”が大事なの!」

 

 けれど、子どもたちは「偽物だ!」「リオ兄ちゃんだまされた!」と大合唱。
 親たちも不安そうに集まり、「これ、本当に安全なのか?」とざわめき出す。

 

 リオは深呼吸して広場の中央に立ち、大声で叫んだ。

 

 「みんな、ちょっと聞いてくれ!
 カードは“冒険の思い出”や“みんなの気持ち”を表すために作ったんだ。
 でも、偽物や転売品を手にしても、本当の強さは手に入らない!」

 

 子どもたちの視線が集まる。

 

 「本当に強いカードっていうのは、自分の手で作って、気持ちをこめて育てていくものなんだ。
 この前のカード教室で、みんなが一生懸命作った“うさぎカード”や“お花カード”――あれが、世界で一番のカードなんだよ!」

 

 ミナも、子どもたちの輪に入って静かに話す。

 

 「みんな、リオや私みたいに“英雄”じゃなくてもいいんだよ。
 “誰かを笑顔にしたい”って思いで作ったカードは、ちゃんと伝わるから」

 

 それでも騒ぎはなかなか収まらない。

 

 と、そのとき、村の役場に勤めるおじさんが、
 「ちょっと待った!」と割って入った。

 

 「このままじゃ村中がカードだらけで大変だ!
 リオくん、ミナちゃん、村のカードの“公式ルール”を決めてくれないか?」

 

 リオとミナは顔を見合わせ、うなずいた。

 

 「……よし、今日から“リオのカード教室・特別編”だ!」

 

 村の集会所で緊急の「カード安全講座&精製体験会」が開催されることになった。

 

 リオは、子どもたち一人ひとりに「カード精製の本当の意味」を伝えながら、偽カードの見分け方や、“転売カード”の危険性についてもきちんと説明した。

 

 ミナは手作りの“カード台帳”を用意し、「自分の気持ちを絵や言葉で書き込むことで、世界で一枚のカードになるよ」と優しく伝える。

 

 その夜、村ではカードを使った「思い出バトル大会」が開催された。

 

 「ぼくの“お母さん大好きカード”が一番強い!」
 「わたしの“友達ずっとカード”がレアだよ!」
 子どもたちの笑い声が広場にあふれる。

 

 リオはその様子を眺めながら、ふと自分の手のひらを見つめる。

 

 (英雄じゃなくても――“村のみんなの幸せ”が、
 本当に一番大事なカードなんだ)

 

 村の大騒動は夜まで続き、
 ミナは暴走した子どもたちの後片付けをしながら、「母親役も悪くないかもね」と微笑んだ。

 

 リオはそんなミナに「ありがとう」と言い、
 ふたりで静かに村の夜道を歩いた。

 

 ――こうして“カードバブル”騒動は幕を閉じた。
 リオは村の一員として、“普通の幸せ”を守る決意を、あらためて胸に刻むのだった。
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