【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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86話「“普通の幸せ”って何だろう?」

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 カードグルメ祭りの翌日、
 村の朝はいつになく静かだった。

 

 空はどこまでも青く、広場には昨夜の祭りの余韻がほんのり残っている。
 屋台のあと片付けをしている村人たちの間には、
 「昨日は本当に楽しかったなぁ」
 「子どもたちも幻獣も、みんな笑顔だった」
 そんな幸せそうな声があちこちに響いていた。

 

 リオは畑で土いじりをしながら、しみじみと思った。

 

 (俺は、ずっと“最強のカードクリエイター”を夢見てきた。
 でも、こうして村のみんなと過ごす日々も、やっぱり悪くない――)

 

 ふと、畑の向こうでミナが幼い子どもたちと遊んでいるのが見えた。

 

 「はい、もう一回! しあわせ魔法~!」

 

 小さな女の子の手を取って、花畑の上でくるくる回るミナ。
 子どもたちの笑い声に包まれて、彼女の笑顔はとても優しかった。

 

 祭りの間、村の年配女性たちがミナを囲んで
 「ミナちゃん、いつお嫁にいくの?」
 「そろそろ、リオくんと家族になる話も出てもいい頃じゃない?」
 なんて冗談めかして言っていた。

 

 そのときは「もう、からかわないで!」と赤くなっていたミナだったが、
 内心、胸の奥がほんのり温かく、そして少しだけざわついていた。

 

 (私、リオのそばにいるのが当たり前になってきたけど……
 いつか“家族”って呼べる日が来るのかな)

 

 昼下がり。
 ミナは村の集会所で、女たちの集まりに誘われていた。

 

 「あんたも、そろそろ色々考える年頃でしょ?」
 「子どもができたら、毎日大変だけど、それも幸せよ」
 「英雄の奥さんも立派だけど、“普通のお母さん”も、なかなか悪くないもんよ」

 

 ミナはお茶を飲みながら、恥ずかしそうにうなずいた。

 

 「英雄……そう呼ばれてきたけど、実感が湧かなくて」
 「でも、昨日の祭りや、リオと一緒にいるだけで、
 何気ない日々こそ一番大切なんだなって、ちょっと思い始めたんです」

 

 「ほらね、やっぱりミナちゃんも“母の顔”になってきたじゃない」
 「リオくんだって、もう十分いいお婿さんだよ」

 

 ミナは「もう~!」と耳まで真っ赤になり、
 女性たちの笑い声が集会所に響いた。

 

 一方、リオは畑仕事を終えたあと、
 村の男たちと縁側でお茶を飲んでいた。

 

 「なあ、リオ。英雄になってみて、どうだった?」
 「俺たちゃずっと畑と家畜の世話ばっかりだけど、
 それでも子や孫が元気に育ってくれれば、それで十分幸せだよ」

 

 「……英雄っていわれても、実感がなくて」
 リオは少し照れたように笑った。
 「世界を救っても、こうして村でみんなと話してる方が、不思議と落ち着くんです」

 

 「わかるとも。若いころは冒険に憧れたけど、
 結局は家族や仲間と“普通の暮らし”が、一番大事だと気づくもんさ」

 

 「英雄でい続けることより、誰かのそばにいる“普通の幸せ”を大切にしてもいいんじゃないか?」
 年長者の言葉がリオの胸に染みた。

 

 その夕方。

 

 畑のあぜ道で、リオとミナは静かに並んで歩いた。
 遠くには、祭りの片付けをする弟子たちや子どもたちの声が微かに聞こえる。

 

 「リオ……」
 ミナが、ふと立ち止まる。

 

 「私、時々不安になるの。
 ずっと英雄でいてほしい気持ちと、
 どこかで“家族としての幸せ”も夢見てる自分がいて……」

 

 リオも足を止め、ミナの横顔を見つめた。

 

 「俺だって、迷うことあるよ。
 英雄って呼ばれるのは、正直、重いんだ。
 でも……こうやって村でみんなと笑い合えるなら、
 俺は“普通のリオ”でいられる気がする」

 

 ミナは小さく頷き、少しだけ涙ぐんだ。

 

 「……もし、私が本当に“母”になったら、
 リオ、そばにいてくれる?」

 

 リオは言葉を探し、しばらく黙っていた。
 けれど、最後は真剣な顔でうなずいた。

 

 「当たり前だよ。
 冒険も、英雄も大事だけど……
 ミナや、みんなのそばにいることが、
 俺にとって一番の幸せなんだと思う」

 

 夕焼けがふたりの影を長く伸ばし、
 遠くの山並みが柔らかなオレンジ色に染まっていた。

 

 ミナは照れくさそうにリオの腕にそっと手を絡めた。

 

 「ありがとう。私も、リオのそばにいたいよ。
 どんな未来でも、一緒に笑っていたい」

 

 ふたりはゆっくりと家路についた。

 

 村の小さな家。
 今夜は弟子たちや仲間、村の大人たちも集まり、
 「普通の幸せって何だろう?」を語り合う夜となった。

 

 「英雄でも家族でも、笑い合えるならそれが一番」
 「伝説だって、日々のごはんや子どもの成長にはかなわないさ」

 

 誰かの何気ない一言が、
 みんなの心にそっと染みわたる。

 

 ――世界を救った英雄たちが見つけた、
 何気ない日常の、かけがえのない幸せ。

 

 静かな夜が、村にゆっくりと降りていく。
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