【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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92話「カード教育の現場」

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 ――希望精製師連盟が発足して、一週間後。

 

 リオは村の小学校の門をくぐっていた。
 今日は特別授業の日。
 テーマは「カード精製と人の心」。

 

 「先生、本当に来てくれたんですね!」
 校長先生が笑顔で迎える。
 その背後からは、教室の窓から身を乗り出すようにして、子どもたちがこちらを覗いていた。

 

 「リオさんだ!本物だ!」
 「希望連盟の人だ!」
 歓声と拍手が広がる。

 

 ミナも一緒だ。
 今日は補助講師として、子どもたちの安全管理と授業のサポートをする予定だった。
 「なんだか緊張するね。英雄って呼ばれるのとは、ちょっと違うドキドキだよ」

 

 リオは頷く。
 「戦うより、教える方がよっぽど難しいかもな」

 

 ◆

 

 教室に入り、黒板の前に立つ。
 机の上には、リオが持参した練習用のカード精製キットが並んでいる。
 子どもたちの目は、すでにそれに釘付けだ。

 

 「みんな、こんにちは。今日は“カード精製”について話をしに来た。
 でも、ただ作るだけじゃない。どうしてそれを作るのか、その意味も一緒に考えてほしい」

 

 授業は、自己紹介と連盟の話から始まり、やがてカード作り体験に移った。
 だが、進めていくうちに、子どもたちの反応の差が見えてきた。

 

 ある子は器用に素早くカードを仕上げ、笑顔で仲間に見せる。
 一方で、手先が不器用な子や、アイデアが浮かばない子は、俯いてしまう。

 

 「うまく作れない……」
 「オレのなんか、ぜんぜん強くない……」

 

 ミナがそっと近づき、肩に手を置く。
 「強さだけがカードの価値じゃないよ。あなたがどんな気持ちで作ったか、それが大事なんだ」

 

 だが、その時。
 教室の後ろから、小さなざわめきが聞こえた。

 

 「貧乏だから、材料買えないんだって」
 「カード作りなんかムリだよなー」

 

 リオはその会話を聞き取り、すぐに後ろの席の少年に声をかけた。
 「君、名前は?」
 「……カナメ」

 

 机の上には、折れた古いカードと、擦り切れた精製筆。
 新品の材料はひとつもなかった。

 

 「これで十分だ。むしろ、こんな道具で作ったカードは、君にしか出せない味がある」

 

 カナメは一瞬きょとんとした後、少し笑った。
 「本当に……そう思う?」

 

 「俺も昔は、拾った紙切れで練習してた。大事なのは、気持ちと工夫だ」

 

 ◆

 

 授業の後半、リオは黒板にこう書いた。

 

 『カード精製は、誰かのために』

 

 「強いカードを作れる才能も大事だ。けど、それだけじゃ足りない。
 病気の人を笑顔にできるカード、落ち込んだ友達を励ませるカード……そういうものを作れる人が、本当にすごい精製師なんだ」

 

 その言葉に、先ほど落ち込んでいた子どもたちの表情が少し変わった。
 中には涙ぐむ子もいた。

 

 ミナが教室を回り、子どもたちの完成カードを一枚一枚見ていく。
 「ほら、全部違って、全部いいよ。こういうのが、世界を面白くするんだ」

 

 ◆

 

 放課後。
 校庭の端で、数人の子が集まっていた。
 中心には、いじめられていた別の子がいて、その手にはボロボロのカード。

 

 リオは近づくと、低い声で言った。
 「カードで人を傷つけるのは、一番かっこ悪いことだぞ」

 

 リオの真剣な目に、子どもたちはハッとし、何も言わずに走り去った。
 残された子に、リオは自分のポケットからカードを一枚差し出す。

 

 「これは、俺が初めて作った“守るためのカード”だ。持っていけ」
 「……ありがとう!」

 

 その笑顔は、どんな勝利の瞬間よりも眩しかった。

 

 ◆

 

 村に戻る帰り道、ミナがぽつりと言った。
 「ねぇリオ……今日、私たちが見たのって、戦いとは別の意味での“現実”だよね」
 「ああ。貧しさ、いじめ、才能の差……。でも、だからこそ俺たち精製師ができることがある」

 

 ミナは微笑む。
 「じゃあ、また学校回ろうよ。希望連盟の活動として」

 

 リオは頷き、心の中で強く決意した。
 ――カードの力は、戦うためだけじゃない。
 未来を育てるためにこそ、あるんだ。

 

 その夜、連盟の活動計画には、新たな項目が加わった。

 

 『全国の学校でカード教育プログラムを実施』

 

 そして、物語はまた、新しい一歩を踏み出していく。
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