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第2話「伝説のカードと目覚め」
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朝日が昇るころ、リオは何度もまぶたを擦った。
昨夜の出来事が夢だったのか現実だったのか、目覚めてもまだ信じきれずにいた。
薄暗い布団の中で、リオは手を伸ばす。
枕元にそっと置いていた“あのカード”を手に取ると、掌に冷たい感触が伝わった。
黒曜石の鱗。銀色の封印紋。燃えるような瞳。
――カードには、たしかに伝説の竜「グラン=ヴァルド」の姿が描かれている。
(夢じゃ……ない……! 本当に、俺が……!)
全身に震えが走った。
何度もカードをひっくり返し、光に透かし、指先で撫でる。
(昨日の夜、あの泉で……グラン=ヴァルドと……)
リオの中で、昨夜の出来事が鮮やかに甦る。
暗い森、ひんやりした祠、泉の中で待っていた伝説の竜。
魂が交わり、希望と孤独が混ざり合い、手のひらに生まれた一枚の奇跡――
(これが……俺のカード……!)
胸が熱くなる。
恐怖も、困惑も、不安も、すべてその熱に溶けていくようだった。
(俺は本当に……あの伝説の竜をカードにしたんだ……!)
心の奥から、熱い歓喜が湧き上がってくる。
そのとき――
『……おはよう、リオ』
ふいに、リオの意識の奥に、静かな声が響いた。
それは言葉で聞こえるというより、頭の奥、心の深いところに直接語りかけられる不思議な感覚だった。
「グラン=ヴァルド……?」
リオは思わず声に出す。
しかし部屋には自分以外誰もいない。母はもう起きて外に出たのか、家の中は静まり返っていた。
『これからは、お前の想いが私に届く。私の声もまた、お前の中で響くだろう』
リオはカードをぎゅっと握りしめる。
(これが……“心で会話できる”ってことか……)
『お前が私をカード化したことで、私の存在はお前と深く繋がった。お前の感情、希望、恐れ――すべてが私にも伝わる。だが心配はいらぬ。私もまた、お前の力となろう』
リオはその言葉に、じわりと胸が温かくなった。
(グラン=ヴァルド……俺、やっぱり夢じゃなかったんだな)
ふと窓の外がにぎやかになった。
「リオ、起きてる? 大変だよ!」
ミナの声がした。
慌てて着替え、カードをポケットにしまい、家の戸を開けると、ミナが息を切らせて駆け寄ってきた。
「ねえ、聞いた? 昨日の夜中、森の方からすごい咆哮が聞こえたって、村じゅう大騒ぎだよ! あれ、まさか本当に竜なんじゃ……って、おばさんたちも話しててさ!」
ミナは興奮と不安が入り混じった顔で、リオの腕をつかむ。
「リオ、あんた夜に変なことしてないよね? ほんとに大丈夫だった? 危ないことしてない?」
リオは一瞬、答えに詰まった。
ミナは子供の頃からの親友で、何でも話せる相手だった。
だが――この“伝説のカード”のことをどう打ち明ければいいのか。
『隠す必要はない。ただし、お前が信じる者だけに語れ』
グラン=ヴァルドの声が、心の奥で穏やかに響く。
リオはゆっくりうなずいた。
「……ミナ、ちょっと、こっち来て」
ふたりは家の裏の林へまわる。
他に誰もいないのを確かめて、リオはおそるおそるカードを取り出した。
「見てくれ、これ……昨日、森で……」
ミナは目をまんまるく見開く。
リオが差し出したカードには、黒曜の鱗、鎖に縛られた巨体、燃えるような瞳。どこからどう見ても“本物のドラゴン”が描かれていた。
「……なにこれ。リオ、自分で描いたの? それとも誰かに――」
「ち、違う! これ、本当に……本物の、伝説のドラゴンをカードにしたんだ!」
「はぁ!? そんなわけ……」
ミナはしばし絶句した後、少し怒ったように口を尖らせた。
「いくらなんでも冗談きついよ。これが本物なら、世界じゅうのギルドや王都が黙ってないよ。証拠でもあんの?」
リオはしばし迷った末、意を決してカードを両手で強く握った。
「グラン=ヴァルド……少しだけでいい、姿を見せられないかな?」
心で呼びかけると、カードから淡い光がこぼれた。
次の瞬間、リオの背後にうっすらと黒い竜の幻影が浮かび上がった。
ミナは腰を抜かし、地面に尻もちをついた。
「う、うそ……! え、本物……? な、なにこれ、本物のドラゴンなの!?」
幻影の竜は静かにミナを見下ろし、目だけを細めてリオへと語りかける。
『この少女は、お前にとって大切な存在だな。』
リオはうなずいた。
「そうだ。ミナは……俺の幼なじみで、何でも話せる友達なんだ」
ミナは震える手で竜の幻影を指差す。
「リオ……あんた、世界を変えられるかもしれないよ」
彼女はすぐに驚愕から羨望へと表情を変え、やがていたずらっぽく微笑んだ。
「絶対誰にも見せるなよ? あんたは嘘が下手だからすぐバレるけど、これは本当に世界が変わるってやつだよ!」
リオは苦笑した。
「大丈夫だよ。ミナにしか見せないから」
そのあとふたりは村の噂話や、リオの夢の話に花を咲かせる。ミナはときどきカードに目をやりながら、不安そうに、でもどこか嬉しそうにリオの話を聞いていた。
村に戻ると、村人たちが広場で集まり騒いでいた。
「昨日の夜、森から竜の声が聞こえた」「何か起こるんじゃないか」とみんなが口々に囁きあっている。
「リオ、昨日どこにいた?」と年長の男が聞くが、リオは「ずっと家にいました」と笑顔でごまかす。
(俺がカードを手にしたことは、絶対に知られちゃいけない……)
『賢明だな。世界は、お前の“奇跡”にまだ準備ができていない』
グラン=ヴァルドの声が優しく心を包む。
家に戻ると、母親が「リオ、夜はしっかり寝るのよ」と心配そうに声をかけてきた。
リオは「うん」とだけ答え、カードを服の内側にそっと忍ばせる。
昼下がり、リオは村外れの草原へと足を運ぶ。
誰にも見られずにすむ場所。
ポケットからカードを取り出し、心の中でグラン=ヴァルドを呼ぶ。
「なあ、もう一度……お前の力、見せてくれないか?」
『よかろう。お前の想いが強ければ、私は応えよう』
リオは静かに目を閉じ、両手でカードを掲げた。
次の瞬間、空気が震え、黒い竜の幻影がゆっくりと浮かび上がる。
『リオ、今は封印の影響で力のすべてを出すことはできぬ。しかし――』
大地が軽く揺れ、草原の風が渦を巻いた。
グラン=ヴァルドの一声が、空気そのものを震わせ、周囲の小動物たちが一斉に姿を隠した。
「す、すげえ……これが、本物の伝説の竜の力……!」
リオは自分の中に、強大なエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。
『お前が私を信じ、私もお前を信じる。そのとき、力は最大になるだろう。これからも共に歩もう』
リオは胸を張り、叫ぶように心で宣言した。
「俺は絶対に――このカードで、世界を驚かせてみせる! いつか王都で一番のカードクリエイターになる!」
グラン=ヴァルドは静かに、けれど確かに応えた。
『私もまた、お前とともに、新たな空を翔けることを望もう』
太陽が高く昇り、草原の草が風に揺れる。
リオの中には、昨日まで感じたことのない希望と誇りが芽生えていた。
――伝説のカードと、竜と心で繋がる新たな力。
それはまだ誰も知らない、少年の“無双”の物語の、ほんのはじまりにすぎなかった。
昨夜の出来事が夢だったのか現実だったのか、目覚めてもまだ信じきれずにいた。
薄暗い布団の中で、リオは手を伸ばす。
枕元にそっと置いていた“あのカード”を手に取ると、掌に冷たい感触が伝わった。
黒曜石の鱗。銀色の封印紋。燃えるような瞳。
――カードには、たしかに伝説の竜「グラン=ヴァルド」の姿が描かれている。
(夢じゃ……ない……! 本当に、俺が……!)
全身に震えが走った。
何度もカードをひっくり返し、光に透かし、指先で撫でる。
(昨日の夜、あの泉で……グラン=ヴァルドと……)
リオの中で、昨夜の出来事が鮮やかに甦る。
暗い森、ひんやりした祠、泉の中で待っていた伝説の竜。
魂が交わり、希望と孤独が混ざり合い、手のひらに生まれた一枚の奇跡――
(これが……俺のカード……!)
胸が熱くなる。
恐怖も、困惑も、不安も、すべてその熱に溶けていくようだった。
(俺は本当に……あの伝説の竜をカードにしたんだ……!)
心の奥から、熱い歓喜が湧き上がってくる。
そのとき――
『……おはよう、リオ』
ふいに、リオの意識の奥に、静かな声が響いた。
それは言葉で聞こえるというより、頭の奥、心の深いところに直接語りかけられる不思議な感覚だった。
「グラン=ヴァルド……?」
リオは思わず声に出す。
しかし部屋には自分以外誰もいない。母はもう起きて外に出たのか、家の中は静まり返っていた。
『これからは、お前の想いが私に届く。私の声もまた、お前の中で響くだろう』
リオはカードをぎゅっと握りしめる。
(これが……“心で会話できる”ってことか……)
『お前が私をカード化したことで、私の存在はお前と深く繋がった。お前の感情、希望、恐れ――すべてが私にも伝わる。だが心配はいらぬ。私もまた、お前の力となろう』
リオはその言葉に、じわりと胸が温かくなった。
(グラン=ヴァルド……俺、やっぱり夢じゃなかったんだな)
ふと窓の外がにぎやかになった。
「リオ、起きてる? 大変だよ!」
ミナの声がした。
慌てて着替え、カードをポケットにしまい、家の戸を開けると、ミナが息を切らせて駆け寄ってきた。
「ねえ、聞いた? 昨日の夜中、森の方からすごい咆哮が聞こえたって、村じゅう大騒ぎだよ! あれ、まさか本当に竜なんじゃ……って、おばさんたちも話しててさ!」
ミナは興奮と不安が入り混じった顔で、リオの腕をつかむ。
「リオ、あんた夜に変なことしてないよね? ほんとに大丈夫だった? 危ないことしてない?」
リオは一瞬、答えに詰まった。
ミナは子供の頃からの親友で、何でも話せる相手だった。
だが――この“伝説のカード”のことをどう打ち明ければいいのか。
『隠す必要はない。ただし、お前が信じる者だけに語れ』
グラン=ヴァルドの声が、心の奥で穏やかに響く。
リオはゆっくりうなずいた。
「……ミナ、ちょっと、こっち来て」
ふたりは家の裏の林へまわる。
他に誰もいないのを確かめて、リオはおそるおそるカードを取り出した。
「見てくれ、これ……昨日、森で……」
ミナは目をまんまるく見開く。
リオが差し出したカードには、黒曜の鱗、鎖に縛られた巨体、燃えるような瞳。どこからどう見ても“本物のドラゴン”が描かれていた。
「……なにこれ。リオ、自分で描いたの? それとも誰かに――」
「ち、違う! これ、本当に……本物の、伝説のドラゴンをカードにしたんだ!」
「はぁ!? そんなわけ……」
ミナはしばし絶句した後、少し怒ったように口を尖らせた。
「いくらなんでも冗談きついよ。これが本物なら、世界じゅうのギルドや王都が黙ってないよ。証拠でもあんの?」
リオはしばし迷った末、意を決してカードを両手で強く握った。
「グラン=ヴァルド……少しだけでいい、姿を見せられないかな?」
心で呼びかけると、カードから淡い光がこぼれた。
次の瞬間、リオの背後にうっすらと黒い竜の幻影が浮かび上がった。
ミナは腰を抜かし、地面に尻もちをついた。
「う、うそ……! え、本物……? な、なにこれ、本物のドラゴンなの!?」
幻影の竜は静かにミナを見下ろし、目だけを細めてリオへと語りかける。
『この少女は、お前にとって大切な存在だな。』
リオはうなずいた。
「そうだ。ミナは……俺の幼なじみで、何でも話せる友達なんだ」
ミナは震える手で竜の幻影を指差す。
「リオ……あんた、世界を変えられるかもしれないよ」
彼女はすぐに驚愕から羨望へと表情を変え、やがていたずらっぽく微笑んだ。
「絶対誰にも見せるなよ? あんたは嘘が下手だからすぐバレるけど、これは本当に世界が変わるってやつだよ!」
リオは苦笑した。
「大丈夫だよ。ミナにしか見せないから」
そのあとふたりは村の噂話や、リオの夢の話に花を咲かせる。ミナはときどきカードに目をやりながら、不安そうに、でもどこか嬉しそうにリオの話を聞いていた。
村に戻ると、村人たちが広場で集まり騒いでいた。
「昨日の夜、森から竜の声が聞こえた」「何か起こるんじゃないか」とみんなが口々に囁きあっている。
「リオ、昨日どこにいた?」と年長の男が聞くが、リオは「ずっと家にいました」と笑顔でごまかす。
(俺がカードを手にしたことは、絶対に知られちゃいけない……)
『賢明だな。世界は、お前の“奇跡”にまだ準備ができていない』
グラン=ヴァルドの声が優しく心を包む。
家に戻ると、母親が「リオ、夜はしっかり寝るのよ」と心配そうに声をかけてきた。
リオは「うん」とだけ答え、カードを服の内側にそっと忍ばせる。
昼下がり、リオは村外れの草原へと足を運ぶ。
誰にも見られずにすむ場所。
ポケットからカードを取り出し、心の中でグラン=ヴァルドを呼ぶ。
「なあ、もう一度……お前の力、見せてくれないか?」
『よかろう。お前の想いが強ければ、私は応えよう』
リオは静かに目を閉じ、両手でカードを掲げた。
次の瞬間、空気が震え、黒い竜の幻影がゆっくりと浮かび上がる。
『リオ、今は封印の影響で力のすべてを出すことはできぬ。しかし――』
大地が軽く揺れ、草原の風が渦を巻いた。
グラン=ヴァルドの一声が、空気そのものを震わせ、周囲の小動物たちが一斉に姿を隠した。
「す、すげえ……これが、本物の伝説の竜の力……!」
リオは自分の中に、強大なエネルギーが流れ込んでくるのを感じた。
『お前が私を信じ、私もお前を信じる。そのとき、力は最大になるだろう。これからも共に歩もう』
リオは胸を張り、叫ぶように心で宣言した。
「俺は絶対に――このカードで、世界を驚かせてみせる! いつか王都で一番のカードクリエイターになる!」
グラン=ヴァルドは静かに、けれど確かに応えた。
『私もまた、お前とともに、新たな空を翔けることを望もう』
太陽が高く昇り、草原の草が風に揺れる。
リオの中には、昨日まで感じたことのない希望と誇りが芽生えていた。
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