【完結】地味な村人が伝説ドラゴンをカード化したら、最強無双の人生が始まりました

東野あさひ

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63話「新世界への船出」

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 王都リュミエールの港は、朝から活気に満ちていた。
 大陸航路の始発点には、巨大な帆船が悠然と横たわり、白い帆が海風を受けてたなびいている。
 波止場には世界中から集まった精製師や冒険者、使者たちの声が響き渡り、
 まるで大きな祝祭のような高揚感が広がっていた。

 

 「……本当に、出発するんだな」

 

 リオは岸壁に立ち、静かに海を見つめていた。
 ミナが隣に寄り添い、心配そうに彼を覗き込む。

 

 「緊張してる?」

 

 「ちょっとだけ。でも、不思議と怖くない。
 むしろ――わくわくしてる。世界の果て、まだ見たことのない場所に行けるんだもんな」

 

 仲間たちも続々と集まってきた。
 カイは大きな荷物を背負い、「船で筋トレだ!」と張り切り、
 ティアナは不安げな顔で海を見つめている。
 ユリエルは航海中に読む分厚い論文集を両手で抱え、
 アールは新しい精製端末を大事そうに胸にしまい込んでいた。
 シュトラは船長との打ち合わせに余念がない。

 

 「希望の旅団、いよいよ再出発だな」

 

 カイの掛け声にみんなが頷き、いよいよ帆船の乗船が始まった。

 

 *

 

 船上には、世界精製連盟の使者たちや、他国の精製師も多く集まっていた。
 船の甲板は広く、デッキにはカードバトル用の専用スペースまで用意されている。

 

 「これだけの人が集まると、何が起こってもおかしくなさそうだな」
 シュトラが警戒を解かない。

 

 「きっとこの船の中だけでも、ひとつの“世界”が生まれるよ」
 ミナは目を輝かせる。

 

 「まずはみんなで船の探検だ!」
 カイが走り出し、アールが後ろから追いかける。

 

 昼には船長主催の歓迎会が開かれた。
 海を眺めながらの祝宴で、精製師たちは自作のカードを見せ合い、異国の幻獣の話で盛り上がった。

 

 「この旅の間に、みんなで“新世界カード”を生み出そうぜ!」

 

 リオがそう言うと、仲間たちも気合いを入れた。

 

 「ユリエルは“知識カード”担当ね」
 「私は研究用カードも作るわ。新大陸でのデータ収集も任せて」

 

 「カイは……筋肉カード?」
 「当然だ! 最強の筋肉をこの海で鍛えてやる!」

 

 ティアナも「癒やしカードがあれば、みんなの体力も心配ないから」と穏やかに微笑んだ。

 

 *

 

 日が沈みかけたころ――
 船の周囲の海が、急に濃い霧に包まれた。

 

 「……これは?」

 

 甲板がざわつく。

 

 「前方に異常反応!」
 シュトラが端末を確認する。

 

 「精製ネットワークにもノイズが入ってる。通常の気象じゃない……」
 ユリエルの声にも緊張が走る。

 

 リオはグラン=ヴァルドのカードを手に取った。

 

 『リオ、これは“幻獣嵐”――新大陸近海にしか現れない、幻獣の力が引き起こす現象だ』

 

 「幻獣嵐……!」

 

 船は突然、大きく揺れ始めた。
 霧の向こうから、海面を疾走する黒い影がいくつも現れる。
 魚とも獣ともつかない、異様なフォルムの生き物たち――
 新世界にしか棲息しない“幻獣”だった。

 

 「みんな、カードを構えろ! バトルになるぞ!」

 

 シュトラの号令で仲間たちがデッキを構える。

 

 「俺たちの最強カードを見せてやる!」

 

 リオがグラン=ヴァルドのカードを召喚。
 光とともに、巨大な守護竜が海上に現れる。

 

 『我が翼で、この嵐を切り裂く!』

 

 グラン=ヴァルドが大きく咆哮し、翼を広げる。
 その風圧で霧が押し流され、黒い幻獣たちの動きが鈍る。

 

 「ティアナ、回復サポートを頼む!」
 「任せて!」

 

 ユリエルは幻獣の動きを観察し、最も弱点となるパターンを見極める。
 カイとアールは力を合わせて新しいコンビカードを発動。
 「筋肉フレイム!」
 「メモリーリバース!」

 

 船上は一瞬、光と風と叫びが交錯するバトルフィールドへと変わった。

 

 リオの指示と仲間たちの連携が冴え渡り、幻獣たちは次第に押し返されていく。
 グラン=ヴァルドが海上に残る巨大幻獣を一撃で浄化した時、霧がふっと晴れた。

 

 「やった……?」

 

 しかし、そのとき。

 

 海面に、ひときわ大きな波紋が広がった。
 そこから、これまで見たどの幻獣とも違う――
 全身に鮮やかな紋様を持ち、空中を滑るように泳ぐ“新世界幻獣”が現れた。

 

 「これは……」

 

 リオも思わず息を呑む。

 

 『リオ、あれは“異文明の守護獣”――新大陸の精製師しか知らない、伝説級の幻獣だ』

 

 船上の人々が息を呑んで見守る中、
 リオはそっとカードを構えた。

 

 「いくぞ、グラン=ヴァルド。新世界の扉を開くのは、俺たちだ!」

 

 グラン=ヴァルドが守護の咆哮を上げ、
 新世界幻獣との初バトルが、いま始まった――。
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