転生悪役令嬢、現代に転生したら学園の女王になってました!? 〜スマホって何ですの!?まずはそこから教えてくださいまし〜

HARy

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異世界令嬢、現代に爆誕!

わたくし、歌の戦に招かれますわ!?

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 昼休みの教室。  購買パンをかじりながら、ほのかが唐突に言い出した。

「ねぇりりあちゃん、今日放課後カラオケ行こーよ!」

「カラ……オケ……?」

 リリアーナは、パンを持ったままフリーズした。

「それは新手の儀式ですの……!?  もしかして、“狩られオケ”!? 貴族狩りのような――」

「ちがうちがう!! 歌うやつ! みんなで歌って盛り上がるやつだよ!」

「う、歌……とな……」

 姫の視線が泳ぐ。
 歌うという行為そのものは、舞踏会での詩吟や、宮廷での聖歌を思い出す。しかし、皆の前で“自分の声”を披露するなど――。

「無理ですわ無理ですわ!  わたくしの声など、人様に聴かせるものでは……っ」

「なに言ってんの! 姫、絶対うまそうだし、しかも映えるって!」

「れいの言うとおり。なんなら一曲だけでもいいから」

「でも……曲なんて、わたくし存じませんのよ……」

 その言葉に、マイがストローをくるくる回しながらぽつりと呟いた。

「歌詞、画面に出るよ。音もガイド出る。初めてでも歌える」

「なっ……!  それはまさか……魔法の書!?  ガイド付き魔導歌唱術ですの!?」

「まぁ、そう言ってもいいかもね」

「うちらが一緒に歌ってあげるし、安心して!」

 ほのかの明るい笑顔と、れいたちの肯定に、リリアーナは少しずつ冷静さを取り戻していく。

(歌詞が出て、音程の導きがある……そして、皆で共に歌う……)

 ぎこちなく頷きながら、リリアーナはつぶやいた。

「……わたくし、やってみますわ。その“カラ・オケ”という戦、受けて立ちますの」

「おー!決まり! りりあちゃん、初カラオケデビューだね!」

 周囲の生徒が振り向くほどのテンションで、ギャルたちは立ち上がる。
 放課後、カラオケという名の“試練”が、リリアーナを待ち受けていた――。
 放課後。星ヶ丘駅近くのカラオケボックスに到着したリリアーナ一行。

「この建物が……“カラ・オケ”の聖域……」

「いや聖域っていうか、ビルだけどね!」

 受付で人数と時間を告げ、ブースに案内される。
 案内されたのは、小さな防音ルーム。

「な、なんと……この空間、完全に隔離されていますわ……!?  密室の試練……っ!」

「姫、落ち着いて。これがカラオケの基本仕様」

「ここで逃げ場なく歌うなんて……まるで、処刑台……!」

「テンション下がるからやめて!!」

 部屋の中央にはテーブル、四方にはソファ。タブレット型の端末が1台置かれていた。

「これで曲選ぶの!ジャンルとか歌手名とかで検索できるから」

「これが……選曲の書……っ。魔導書のように見えますわね……」

 リリアーナはタブレットを指先で恐る恐るなぞる。

「“ヒットチャート”……“アニメ”……“懐メロ”……この用語の数々、いったい……」

「とりあえず、うちらが先に歌って見せるね!」

 ほのかが明るく言い、ノリノリで曲を選ぶ。

「いっくよー!テンションMAX!!」

 流れ出すイントロ。画面にはテンポよく歌詞が表示され、バーが動いていく。

「これは……歌詞が動く!? しかも音程のガイドまで……!」

「そう、それが“音ゲー”の原型……ってほどじゃないけど!」

 ギャルたちは順番に歌い、踊り、盛り上がる。
 その様子を、リリアーナは呆然と見つめていた。

(これが……現代の“音楽の宴”……皆が心を解き放ち、己をさらけ出す場所……)

 次第に、リリアーナの中に生まれる感情があった。

(わたくしも……あのように……歌えるのでしょうか)

 それは、期待とも不安とも違う、新しい感情。
 マイクが、彼女のもとへと差し出される。

「りりあちゃん、次だよ!」

「さあ……魔導の書より、1曲……選ばせていただきますわ……!」

 リリアーナの指が、タブレットをそっとなぞる。
 その先にあるのは、未知なる“旋律の冒険”だった。
 タブレットを凝視しながら、姫は震える指で「ジャンル:アニメ」を選択した。

(現代の“叙事詩”とも聞きましたし……この中ならば、まだ何とか……)

 よくわからないながらも、タイトルがなんとなく高貴そうな曲を選び、再生ボタンを押す。

「え、りりあちゃんそれ選ぶんだ? わりと難易度高めだよ?」

「今さら退けませんわ……っ!」

 イントロが流れる。
 画面には歌詞と音程バー。
 マイクを持った手が少し震える。

(わたくしの声が……響く……みんなの前で……)

「りりあちゃん、最初は一緒に歌う? タイミング合わせるよ!」

「……お願いしますわ」

 れいとほのかが優しく横に並び、曲が始まる。

「ここ! “風に揺れる~”ってとこからね!」

「ふ、風に揺れる~~……」

 恐る恐る、しかし確かに口から出た“歌”。
 耳に届いた自分の声。
 それは、不思議なほどに曲と重なり、想いが乗る感覚を生み出した。

「次、サビ来るよ姫! 思いっきりいって!」

「――導かれるままに……重ねた夢は……!」

 声が乗る。  旋律に包まれる。  部屋が、まるで舞踏会のように輝いて感じた。
 歌い終えたとき、室内には数秒の静寂。

「……え、姫、めっちゃうまくない!?」

「なにあれ、感情こもりすぎでしょ!」

「わたくし……歌って……いましたのね……」

 息が少し切れている。

「やば、鳥肌立った。てか表現力エグ……!」

 褒め言葉が次々と浴びせられ、姫は顔を少し赤らめる。

「ま、まだ一曲目ですわ。これからですわよ!」

 そう言った彼女の表情には、不安も照れもなく、ただ“楽しい”という感情が宿っていた。

(わたくしにも……こんな風に、声を届ける世界があったなんて……)

 数曲が終わり、ドリンクを飲みながら一息つく一行。

「姫、マジでヤバかったよね。まさかアニソンで泣きそうになるとは思わんかったわ」

「声に気持ちこもりすぎて、ガチでプロい」

「……ふふ。あれは、わたくしの中にあった“想い”ですわ」

 リリアーナはストローをくるくる回しながら、少し照れたように微笑んだ。

「声というものは、思っていた以上に……自由なものなのですね」

「そうそう! 別にうまくなくてもいいし、好きに歌えばそれでいいんだよ」

「わたくし……この“歌”という表現、気に入りましたわ」

 それは、リリアーナ=フォン=エーデルワイスという令嬢が、  “江戸川りりあ”として、現代に少し馴染んだ瞬間だった。

「次は、もっと違う曲にも挑戦してみたくてよ。アレとか……アレとか……!」

「え、それ全部クセ強めやん」

「さすが姫、チャレンジャー」

 笑い声が交差する小部屋。
 その中でリリアーナはそっと、さっき録音してもらった自分の歌声を再生してみた。

(わたくしの声……悪くありませんわね)

 画面には“お気に入りに登録しますか?”という文字。

「……ええ、ぜひとも」

 タップする指先が、すこしだけ誇らしげに震えていた。
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