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「アイリス……君がそこまでの悪人だとは思っていなかったよ。兆候はあったけどね……」

哀しそうに、いいや、哀しいふりをしてそんな事を言ったのは、婚約者のライトだ。

「どうしてこんなことに……僕がいけなかったのかな」

泣き崩れる演技をしつつ、あくまで自分は優しい婚約者ですよとまわりにアピールでもしてるつもりなのだろうか。

「そんなことおっしゃらないでくださいライト様……私の娘がこのような失態を犯してしまって本当に申し訳ございません。こんな奴はもう娘でもなんでもありません。煮るなり焼くなりどうぞお好きにされてください」

まんまとライトの演技に騙されているようだけど、それよりも実の娘の私の前でそんなことをよく父は言えたものだ。

私だって貴方のような人を父親だとは思いたくない。

「アイリス……僕は残念だよ。残念で仕方がない。そして、残されたアリシアのことを想うと、胸が張り裂けそうになる」

アリシアというのは私の実の妹のことである。

ライトはアリシアのことが元々好きで、私と無理やり婚約者にさせられたせいか、私のことを毛嫌いしている。

嫌がらせなんてのは数えきれない数されてきたが、今回のは別だ。

やってもない罪を犯したと最悪な工作された挙句、国外追放されるらしいのだ。

もちろん何度も否定をした。証拠も出した。

けれど、彼サイドの人間は聞く耳を持たないし、なんなら両親ですら信じてはくれなかった。

こんな絶望的な状況だからこそ、私は無言を貫き、ひたすらに彼を睨むだけだ。


「お姉様……必ず私はお姉様を救ってみせます。何かの嘘だといってください」

唯一、私の話を信じてくれた妹が涙を堪えてこちらを見ている。

「まだそんなことを言っているのかアリシア……こいつはもう君のお姉さんなんかじゃないさ。すぐにでも忘れた方がいい。ただの大罪人だ」

「そうだぞアリシア……こいつはもう娘でも家族でもなんでもないんだ。罪のない一般市民の家を燃やしてまわった最悪な放火魔なんだぞ」

「ライト様もお父様も……なぜお姉様を信じないのです……私は」


「信じるもクソもあるか。それが事実なんだよ! わかったら早くここから出てくぞ! 私の娘はお前だけだアリシア」

「いいかい? アイリスはあと3日もすれば他国に飛ばされて過酷な労働を強いられることになる。最後の別れだ。軽く挨拶だけ交わして此処から早く去ろう」

なんて言葉を妹に投げかけて優しく肩に手をのせるライト。


こんな男にだけは騙されないで欲しいと心の底から思う。

地位しかないこの男よりも素敵な人格者と妹は結ばれて欲しい。


とりあえずあと3日後でここからもおさらばすることになる。

どうせもう未来はない。

からいなくなろうと思う。
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