貴方の思い描く、異世界とは違う物語が存在します。格好の良い勇者も魔王もいない世界の物語を綴った本棚にお越しください。

南悠

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勇者の帰還

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「こら。昼寝にはまだ早いぞ。廊下に立っていろ。」

ここは、何処だ。教室のようだが・・・。

朧気ない頭のモヤモヤが、徐々にハッキリとしてきた。


突如として涙が溢れ出る。懐かしい顔ばかり。先生、クラスメート。

全てがあの当時のままだ。何も変わっていない。

男は急に駆け出しトイレに駆け込む。鏡を前に自分の顔を見つめる。俺も変わっていない。あの召喚前の俺がいる。


あれは、俺たちのクラス全員が異世界に召喚された時から始まった。


王国は魔王の蹂躙で滅亡の危機にあり、最後の望みとして [ 異世界召喚 ] が行われ、俺たちのクラス30名が、勇者として選ばれた。


召喚当初は王国とも、クラス内でも揉めにもめたが、この時から俺たち勇者の冒険が始まった。

しかし、録な訓練も出来ずに即実戦となれば、命を落とす者が出てもおかしくは無い。何人かの死亡は記憶している。

俺が生き延びたのは、偶然もしくは運が良かっただけだろう。


本当に俺は運に恵まれた。心強い仲間に出会た。その後は順調にレベルが上がり、苦闘の末とうとう魔王を倒した。



気が付けば召喚から30年の月日が流れて、初老に差し掛かる年齢になっていた。

あの頃のクラスメートの噂を聞かなくなって久しい。安否すら不明だった。


王都に凱旋。大歓声の出迎え。王からの受勲そしてパーティー。

次々と流れる行事に、漠然と乗る俺は戦いの無い日常が他人事の様に感じられ、生きている実感すら奪われた奴隷と化していた。


時より、ふと気付いたかの様に周りを見渡している。どこかに昔のクラスメートがいないか探していた。


共に祝いたかった平和の世界が訪れたこと。もう、殺しあわなくて良いことを。

召喚されてからのお互いの苦難を称え合いたかった。

だが一人として祝ってくれる者が居なかった。


俺は宰相にクラスメートの安否確認をお願いした結果、辛うじて数名の存在が確認出来たとの事。

しかし、その生存者は、戦いに傷付き、在る者は精神に異常をきたし、在る者は手足を失う惨状だった。

俺は直ぐ様に駆け出し、面会を求めた。

だが返答は「否」だった。

宰相に彼らの行く末を頼み、複雑な気持ちのままで宿舎に帰った。


俺は伯爵に任じられ、領地が与えられた。

宰相から領地経営に適した部下を薦められ、全て彼らに任せた。

結婚も勧められたが、それだけは丁重に断った。


俺は秘めた思いを胸に王都で、情報を集める毎日が続いている。

俺の思いは [ 日本に帰ること。そして、召喚されたクラスメートと共に帰ること ] その願いが叶えそうなダンジョンの情報を集めては、攻略していた。


世界各地を廻った。砂漠の中。辺境の樹海。海の底のダンジョンも。

あらゆる情報が有る限り、其処に望みが有る限り、俺は進んで攻略し続けた。

攻略したダンジョンの数は数百を越えたらしい。

幾多のドラゴンを倒し、中には次期魔王候補のも居たらしい。

だが望んだ結果は得られなかったが、俺は充実していた。生きている実感が漲っていた。そして等々、俺の満足した人生の終わりが来たらしい。

俺は静かに目を閉じた。



「ここは、何処だ。教室のようだが、朧気ない頭のモヤモヤが、徐々にハッキリとしてきた。

涙が溢れて来る。懐かしい顔ばかり。先生、クラスメート。全てがあの当時のままだ。何も変わっていない。」

俺は戻った来たんだ。クラスメートと共に、日本へ帰って来たんだ。


涙で目が霞んでいる。そして、神に感謝した。


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